Last Eye白内障手術2


 他院に通院中のその患者さんが当院に来院されたのは、8月26日、もう夏も終わりのことであった。車の運転がしにくいとのことで手術を希望されていた。老人性白内障があるといわれたが、手術の話をすると手術は難しいのでしないほうがよいと言われ点眼で経過をみるように言われていたそうである。

 確かに老人性白内障はあるものの、裸眼視力が0.03矯正視力が0.5の高度近視である。他眼は、眼球摘出の手術を受けており、義眼を装用している。そしてもっと重要なことは、角膜の直径が8mmしかない小角膜症ということであった。

 これでは、手術しない方がよいという眼科医の判断は正しいと思った。しかし、車の運転をしなければならない。片目で矯正視力0.5である。私は迷ったが患者さんの強い希望に首を縦にふってしまった。

 手術は予約していた日が患者さんの都合で延期となり、10月15日に施行した。私は、自分でも緊張しているのがよくわかった。手が微妙に震えている。しかし、どうしてもこの難関を乗り越えなければならない。手術は30分かかった。慎重に慎重にと自分に言い聞かせ、あとで後悔しないようにとただそれだけだった。眼内レンズの直径は5.5mmである。しかし、通常の患者さんは11mmの直径があるのに、この患者さんは8mmしかないうえに、老人環のためさらに角膜が小さくなっている。結局眼内レンズを入れるために、角膜に対する切開幅を広げなければならなかった。眼内レンズは安全のため嚢外固定とした。(通常の患者さんは嚢内固定といって水晶体嚢内に固定する)それでも直径7mmレンズが入ったような感覚だった。

 翌日の眼所見、視力をみるまで不安だった。手術中は合併症はなかったものの、片眼であるうえに初めての経験の小角膜症の手術であったからだ。しかし翌日の午前中を過ぎても患者さんが来院しないのだ。不安になって私は患者さんのところに電話をいれてみた。なんと患者さんは寝ていたというのだ。昨日の夜眠れなかったのでと言う。私と同様眠れぬ夜を過ごされていたのであろう。と、少し胸がいたんだ。しかし明るい声で調子はいいようですよという電話の声に救われた。

 視力は裸眼で0.5矯正で0.7であった。角膜もすごくきれいである。私は安堵感に胸をなでおろした。眼鏡がいらなくなったと患者さんは言った。そうですね。いままで分厚い眼鏡をかけてましたもんね。明るい会話がはずむ。しかし術前のプレッシャーは相当のものであった。この経験も私にとっては乗り越えるべきハードルであったのかもしれない。