60点の手術


 開業してからの手術は、勤務医時代の手術とは環境が大きく異なっている。手術の方法は同じでも周囲の環境が違う。手術室や手術器械のセッティング、消毒から始まって、スタッフの教育に至るまで、すべての責任が自分に重くのしかかってくる。不幸にして、万が一医療訴訟になった場合、勤務医の場合は、勤務している病院にも責任の所在があり、個人ですべてをしょい込むことはない。しかし、開業医の場合はそうはいかない。全責任がかかってくるのである。

 私は、手術の考え方を変えざるをえなかった。勤務医の時は、がむしゃらに100点満点の手術をしようと思っていた。そして、それが患者さんのためにも自分のためにもいいと信じ、ひたすらにたくさんの手術をしていった時期があった。確かにそれで技術的には進歩していった。患者さんも喜んでくれた。high volume surgeonとなることで、手術に自信を持っていった。

 だが、今は違う。開業医の手術はミスをしないことである。100点の手術をする必要はない。しかし、60点に満たない手術をすることは許されない。勤務医時代と違って、手術患者さんの数も限られている。眠れない夜を過ごさないためにも、ひとりひとりの手術を慎重に、しかも、細心の注意を払って手術を続けていかないといけない。私は、今安全を第一に考えて手術をしている。昔だったら超音波手術で行っていた核の硬い症例も、最初から嚢外摘出術で行うこともある。  一歩引いた手術を心がけ、60点の手術を目指している。