プレゼント

第3章

剣心はトボトボと神谷道場へ戻ろうとしていた。
弥彦を騙してしまった事も気にはしたが、薫の事が心配で
ぼんやりしながら歩いて行く。
赤べこの前を通り過ぎようとした時、妙が店先で打ち水をしていた。

「剣心はん〜。どうしはったどす〜?何か元気ないですなぁ。
なんのおかまい出来ませんけど、寄っていってくださいまし。」

と開店準備中の妙に声をかけられたが、

「んっ・・・?」

当の剣心は心ここにあらずだった。

「どうしはったのだろう?剣心はん。」

妙は小首を傾げ店に戻って行った。

一方、前川道場では、

「エイ!!そこ隙だらけよ!!」

薫の威勢のよい声が道場に響き渡っていた。
前川道場の門下生も剣術小町に教えて貰えるとあって、皆はりきっている。

「薫・・・何処が狙われているんだ?剣心の思い過ごしじゃないか?」

苛立ちを隠せない弥彦の姿がある。

・・・もしかして騙された?・・・

弥彦が妄想に耽っていた時、

「きゃっっっ・・・・!!痛いっっ!!」

薫の悲鳴が弥彦の耳に届く。
薫が床に足を滑らせて足を挫いた。

「どうした?!誰かにやられた?」

「うっっ。滑って転けただけよ。痛っっ!!」

剣術小町が怪我したって聞いて、
周りにいた道場生やらが集まってきた。

「弥彦君。薫さんには今日の稽古は無理だろう。
送って行ってくれるか?」

と前川が弥彦に促した。

「えっ!!俺がか?」

弥彦は目を丸くして驚きを隠せないでいる。

「ああ・・・頼む。」

前川は静かな声で言った。
物静かな声ではあるが、さすがに剣術家だけあって、
いやとは言わせないという威厳がある。

「私なら、もう大丈夫です。ほら・・・うっっ。」

薫は立ち上がろうとしたけど、痛みに蹌踉けてしまう。

「送りますよ。ほら。薫立てるか?」

「うん・・・」

薫は目に涙を溜めている。

「そんなに痛いか?医者に寄ろうか?」

よほど心配らしく弥彦も優しく問いかける。

「ううん。こんなの冷やせば大丈夫よ。これぐらい・・・」

「何強がっているんだよ。足腫れているじゃないか!薫帰るぞ。」

「でも・・・折角、呼んで頂いたのにに悪いことしちゃったわ・・・
すいません・・・私のせいで稽古台無しにして・・・」

薫は足の痛みより、折角、誘って頂いた稽古が出来なくなったのを悔やんだ。

「案ずるな。足の具合良くなったら、またお願いするよ。
今は足の怪我を良くする事だけ考えなさい。」

前川はまるで自分の娘のように薫の事が、心配であった。

「有り難うございます。すいません。失礼します。」

弥彦に支えられながら、前川道場を後にした。

「薫って本当にドジだな。何でも無いところで転けるなんて。」

「しょうがないでしょ!転んじゃったんだから!弥彦こそ、もう良いわよ。ここで」

「そう言う訳にはいかない。男の約束があるんだから。」

思わず弥彦は口を滑らせてしまう。

「男の約束?」

「うっっ・・・何でもない!!」

・・・しまった。薫には内緒なんだっけ・・・

一瞬、弥彦の顔が青ざめたのを薫は見逃さなかった。

「男の約束って何?弥彦!!私に隠し事してるわね?!」

そういうと薫は弥彦の首根っこ掴み、激しく揺さぶった。

「乱暴すんなよ!!ドブス!!何処が怪我人なんだ?!」

「ドブスとは何よ!!言ったわね!!こうなったら白状させてやる!!」

薫は再度激しく掴み揺さぶる。

「言うから・・・離せよ・・・あのな・・・剣心には絶対内緒だぞ。
剣心がお前の事、心配して俺に頼んだんだ。」

内緒って所をわざと強調して弥彦が言うと

「剣心が?何を?」

薫は目を丸くし驚いた。

「護衛だって。事情はしらねえよ。片時も離れるなよって、
言われただけだから。剣心かなり心配してたぜ。余り心配かけんなよ。」

弥彦はどっちが大人なんだかって顔してる。

「うん。でもなんで剣心が弥彦に?」

薫は小首を傾げた。

丁度、神谷道場の前に着いた時、正午を告げる鐘の音がゴーンとなった。

「それにしても腹減ったな・・・薫もうここでいいか?
俺、赤べこで何か喰うわ〜。じゃーな。」

弥彦はそう言うとばつが悪そうに足早に去って行った。

‐ 第3章 完 ‐



第2章へ 第4章へ(最終章)