プレゼント

第4章

「ただいまー剣心!!」

丁度、剣心が庭先の掃除をしている所、薫が帰宅した。
実をいうと、掃除はたてまえで、ほうきをもって薫の事が心配で、
庭に出ていただけなのだが・・・
少し足を引きずる歩みはどことなくたどたどしい。

「お帰り。薫殿。その足どうしたでござる!!」

「私ってドジね・・・足を滑らせて挫いただけよ。
大丈夫。ねっ・・・ほら・・・・・飛び跳ねたって・・・・きゃっ・・・」

薫は蹌踉めいてしまうが、剣心が倒れる寸前、抱き留めた。

「無理したら駄目でござるよ。こんなに腫れているのに・・・」

「ごめん・・・」

「無理は禁物でござるよ。」

薫は頬を赤らめながら素直に謝った。
剣心の温もりに恥ずかしさを覚える。
でも、今は少しこのままで居たかった。
が、剣心は薫の躰を離し、抱きかかえる。

「えっ?剣心。やめてってば・・・大丈夫よ。1人で歩けるって!!」

薫はジタバタして、下ろしてと抗議した。

「落ちるでござるよ…じっとてて。」

剣心は薫を抱きかかえ部屋に向かう。
薫を座布団の上に座らせると、

「ここで大人しくしてるでござるよ。」

障子を開けると足早に部屋から出ていった。
しーんと静まりかえった部屋には剣心が立ち去る
足音だけが響く。

程なく手桶と手拭いを持ち剣心が部屋に戻って来ると
薫は起き上がり、男物の羽織を繕っていた。

「…薫殿…。拙者は大人しくしててといったつもりだが…」

「うん。でも、もうちょっとだから仕上げたいのよ。」

「………そうか……足冷やすといい……」

そっけない返事を残し、桶と手縫いを置き部屋から出て行った。

 … 地味目ではあるが、質の良い羽織は明らかに男物だな …
 … それも少し体格の良い男(ひと)のもの …
 … 俺らしくないな。これぐらいの事で …

醜い心が渦を巻き、胸が酷く痛い。
胸の奥底で燃え始めた炎は消える事無く、
剣心を悩ました。

「剣心…?」

いつもなら、心配性な彼の事だから、
手厚い看護をしてくれるはずなのに
様子が変だった。
薫は起き上がり、剣心の後を追うが、
足の痛みで上手く歩けなかった。
廊下に出ると寒々とした空気が身体を冷やす。
何度もよろけながら、
やっとの思いで剣心の部屋につくと、
剣心の部屋からは明かりすら漏れてない。

 … 剣心。寝ちゃったの? …

薫は声かけづらく、部屋の前で様子を伺った。
僅かではあるが彼の気配がする。

 … 明かりもつけないでどうしたの? …
 … 私、剣心をおこらせっちゃったかなぁ …

「薫殿…?そこにいるでござるか?」

剣心は部屋の外にいる薫に驚いて、声をかけた。

「うん。入ってもいい?」

「ああ…」

スーと静かな音で障子を開ける。
薫が部屋に入るとそこには珍しく、酒の匂いがした。
辺りは薄暗く、火鉢の火もついて無い。

「何か用でござるか?足は冷やしてって言ったはずだが、
その様子だとまだでござるな。」

「うん。気になる事があって、その…その…」

言葉濁し、はっきりしない薫に

「なんでござるか?…用がないなら、安静にした方が良い…」

心にも無い事言ってしまう。

「剣心…さっき少し様子がおかしかったから…
 うーと…私…何か悪い事したのかなって、
 私が悪い事したなら誤るから…」

薫はうつむき言うと、

「薫殿は悪い事などしてない…悪いのはむしろ拙者の方でござるよ。」

少し低めの声色で言葉をひとつづつ、紡ぎだすように呟いた。

… 年頃の娘なのだから、好いた者がいても、おかしくない …
… おかしいのはむしろ俺の方だから …
… それでも割り切れない俺の方だから …

「なんで?剣心何も悪い事なんてしてないわ。」

薫は、頭(かぶり)を振り否定した。

「……薫殿……拙者は…薫殿が好いた者がいたら、
 いつでも、ここを出て行く覚悟は出来ている…
 年頃の娘の家に拙者のような者がいたら、
 邪魔になる故…遠慮はいらぬでござる。」

「遠慮なんてしてない!なんでそんな事言うの?
 私には確かに大切な人がいるわ。
 出来ればその人といつまでも一緒に暮らしたい。
 剣心と一緒に… 
 そう思う事がいけない事?」

薫の頬からは一筋の涙がこぼれた。

「……………」

剣心は、言葉を無くした。 
自分が大きな勘違いをしていた事に気づいた。

「私…馬鹿みたい…その人の為に徹夜して、羽織縫っていたなんて…」

「それって拙者にだったでござるか?」

「そうよ…寒くなったからね。
 剣心ったら、薄着なんですもん。
 風邪ひいたら可哀想だと思って。
 父の羽織のままでは少し大きいかな?
 って一生懸命直してたのよ。
 渡す日まで内緒にして、驚かせようとしてたのに、
 剣心。誰のだと思ったの?
 まさか、他の人にって思って妬いてくれたの?」

「ちっ…ちがうでござるよ。」

剣心は慌てて、否定する。
耳まで真っ赤になってるところをみると図星らしい。

「ふーん。そうなんだぁ。」

薫は嬉しそうに剣心を見つめた。

「もう時期出来あがるから待っててね。もう寝るね。おやすみなさい。」

そう言うと、薫は立ち上がり
自室に戻ろうとしたが、
思うようにならない足のせいか、
のぼせ上がった気持ちのせいか
フラフラとよろめいた。

「危ないでござるよ。薫殿。足挫いたの忘れたのでござるか?」

剣心は薫を抱きかかえるように支えると

「えへっ…そうみたい…」

と薫は照れ笑いした。

剣心はそっと耳元に唇を寄せて

「ありがとう…」

と小声で囁いた。

薫は嬉しくて言葉が出なかった。
言葉の変わりに首を縦に振り
涙をいっぱい溜めている瞳で
剣心を見つめた。

‐完‐

― あとがき ―

これもまた、完成まで時間がかかりました。
私にしては長文です。
いつもは短いのばかりですから…
書き始めた時は晩秋だったんです。(10月終わりぐらい)
またしても、季節はずれの話になりましたね(泣)
妙さんの言葉がなんか不自然なのは、
私が、関東人ということで許して下さいまし。
なんかドタバタ活劇になってしまったなぁ…
っていつもの事かぁ(^^;)
では、最後までつきあって頂き有難うございました。

平成14年1月某日 喫茶店にて脱筆





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