『桜舞』(さくらまう)


 その2 プロポーズ

 次の日。
 二人は公園へ出かけた。
 しかし、もう既に公園には沢山の人で賑わっていた。

 「あぁー。場所無い…。もっと早く来ないと駄目だったんですね…。」

 拓海は、頬をふくらましながら言うと

 「しょうがねーだろ。ぼやいたって。それより適当な場所探そうぜ!」

 わがままなお姫様の為に、啓介は、桜が良く見える場所を探す。

 しばらくすると、池の辺にあずまやがあった。そこには誰もいない。
 何故なら、そこからは、桜の木からは離れており、あまり良く見えない。
 いくら、酒を飲むのが目的の人でも、桜の木の下を陣取るものだ。
 どうやら、もう、この辺しか場所は場所がないらしい。

    『ちぇっ。ここかよぉ・・・』

 仕方なく、二人は、あずまやの椅子に座り、拓海の作ったお弁当を広げる。

 「うまそうー。いただきっ〜!モグモグ。」

 拓海の作ってくれたお弁当をおいしそうに食べる。
 啓介の頬には、ご飯粒がついている。

 「啓介さん。慌てなくても、逃げないですよ。(笑)」

 拓海は嬉しそうに啓介を見つめていた。

 お弁当も食べ終り、本来の目的?の桜を見ようと、あずまやから外を眺める。

 「せっかく花見に来たのに、全然見えないですね。何しに来たんだろう。」

 拓海はあずまやから外を眺めながら、膨れっ面でぼやくと、

 「まぁ。そういうなって。桜が池に映ってるだろ。
  こんな光景、他の奴には見れないぜ。
  それに、ここは静かでいいじゃん。
  拓海は賑やか過ぎる所、嫌いだろう。」

 拓海を気遣い啓介は、諭すように優しく言う。

 内心啓介は 『二人っきりになれるチャンスじゃん。』
 と思っていた。 

 「本当だ。綺麗ですね。この場所も、いいかもしれないです。」

 さっきの膨れっ面が嘘みたいに、天使ように微笑んだ。

 「なっ。ちょっと得した気分になるだろ!」

 機嫌の治ったお姫様を、嬉しそうに見つめた。

 桜の花びらが舞い、水面を彩る。
 幻想的な光景に見とれている内に、
 日も西の空に沈み、風も強くなっていった。

 昼間の陽は暖かいが、さすがに夜は冷え込む。

 クシュン。

 と拓海はクシャミをした。

 啓介は、愛しい人を気遣い、そっと包み込むように抱きしめた。

 「啓介さんって、暖かい…。」

 嬉しそうに言う。

 「なぁ。毎年こうやって、過ごせたらいいな。」

 と、啓介は拓海の耳元で、照れくさそうに呟く。

 「啓介さん。それって、まるでプロポーズみたいですよ。」

 二人の間にしばらく沈黙が続いた。
 拓海は、けして深い意味で、そう言ったわけではない。
 元々言葉に表すのが苦手なのだ。
 啓介も勿論そんな事は解っている。
 それでも、啓介の心は揺れていた。

 『俺は拓海を愛している。
  躊躇う事はない。誰にも認められなくても良い。
  拓海と共に生きてゆきたい。
  それだけで理由なんて十分。よっし。』

 啓介は拳をポッンと打ちつけ気合を入れると、拓海と向き合い

 「なぁ…俺と結婚…しょうぜ!」

 顔を真っ赤に染めながら、自分の気持ちを素直に伝える。

 「はい?だってぇ…。」

 拓海は、言葉の意味が良く解らず、目を丸くしていると、

 「俺達を悪く言う奴は、俺が許さねぇ。お前は俺を愛してるか?」

 啓介は、じれったくなって問うと、

 「啓介さん・・・俺なんかでいいの?
  け・い・・す・・・け・・・・さ・・・・・ん・・・・・・・」

 「ああ。俺は拓海が側にいるだけで幸せだぜっ!」

   そう言うと拓海を力一倍抱きしめ、

 甘い、甘いキスをした。

  ちぇやってられないぜ!二人の世界はいりやがって!ひっくっ。

 と通りかかった酔っ払いが、呟いた事に気づかない二人であった。

 <続く>

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