「揺れる想い〜V」


 「なんだか、楽しそうだなぁ?」

  そうかぁっていつもより絶対ウキウキしている?

 「なぁー拓海!明日峠いこうぜ!久しぶりだよな!」

 この頃、仕事が忙しかったから樹と峠に行くのは、久しぶりのことだった。
 やっぱりこいつがいると落ち着く。

 「別にかまわないぜ、明日も仕事じゃねーのか」

 明日は日勤!次の日は休みだとおやすみと言って、さっさと寝ちまった。

  あの人も今頃は、もう寝てるんだろうか?

 胸の奥のしこりが大きくなっていく様な錯覚がした。


   RX-7で秋名に訪れるのは、久しぶりの様な気がする。数日前にも来ているのに…
 あの時は二台だった。あにきからFDでドライブに行こうと誘われた。
 あまり乗り気ではなかったが、FDの調子をみたいと言うのでOKした。とつい勘ぐってしまう…
 しかし秋名に行けだなんて、分かっててやってんのか?
 今の俺にとって少し苦しい場所になっていた。
 居るかも知れないと何故かそう思える。
 探し回っていたいた時よりも、ずっと強く感じる。
 拓海は、秋名にいる。

 「啓介?FDの調子は良いようだな。本調子じゃないのはおまえの方だな」

 図星を指されて体が跳ねる。

  あにきには、ほんっと隠し事なんてできないよな・・・

 「そんなことねーよ。」

 口に銜えたタバコが心なしかいつもより苦く感じる。

  んっ?一台上がってくるな?スピードスターズの誰かか?

 聞き覚えのない音だった。
 駐車場に、入ってきたのはレビンだった。
 その助手席に乗っていたのは・・・
 啓介は、自分の目を疑った。

  何故?拓海が?!目の前に居るんだ?

 「啓介さん、どうして・・こんな所に?」

 車から降りてきた拓海はどこか虚ろに呟いていた。
 背を向けていきなり走り出した。
 啓介は、固まったまま動けなかった。

 「啓介っ!何してんだ、早く追いかけろっ!!」

 あにの言葉で我に返った啓介は、拓海を追って行った。

  そこに、残されたのはFDと涼介・レビンとそのドライバー。
 レビンのドライバーが降りてくる。

 「ひさしぶりっすね。涼介さん」

 「おまえの85も前よりイイ感じになってきたな」

 樹は、うれしそうにそうっすかと頭を掻いた。

 「帰りはそいつに乗せてけな?」

 「げっ!マジですか、俺の運転最悪っすよ?」

 綺麗な顔で意地悪そうにくっくと笑う。

 「特別に俺のナビに乗せてやろう」

 こんなに美味しい事を断るわけにいかないし断れなかった。
 85レビンに乗る高橋涼介なんて絶対一生無いだろう・・・

 「・・・おねがいします・・・・」

 顔面蒼白になりながらも、その一言だけをどうにか告げた。

 「俺達、共犯だもんな・・・」

 まっこれで、あの二人も大丈夫だろうと優しい目で言った。

 「それじゃぁ、軽く攻めてから帰るとするか!」

  これ、俺の車っすよ!ホントにこの人は?!

 その数分後、秋名の峠に樹の叫び声がこだましていった。

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