TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「神様からの贈り物5」

「おじゃましま~す」
お昼ちょっと前。最初に家に来たのは式部たちだった。
「いらっしゃい。急に呼んで悪かったね」
玄関では高杉さんが式部にそう言っていた。
「いいんですよ。昨日緒方とも話してましたし。緑も緒方に逢いたがってたみたいなんで」
緑君は堤さんと手をつないでいて、俺のことをじっと見ていた。
「いらっしゃい。緑君、久しぶりだな」
俺はそう言って座り、緑君の視線に合わせた。
「こんにちは~」
とたん緑君は堤さんから手を離し、俺の方へと走ってきた。
「大きくなったな!今いくつだっけ?」
走ってきた勢いのまま飛びつかれ、俺はそのまま緑君を抱き上げた。しかし…どうして子供を見ると、年齢を聞きたくなるのだろうか。
「5才!」
緑君は手をぱっと開きにっこりと笑った。
「あのね、僕、昨日幼稚園の遠足だったんだよ」
目をきらきらと輝かせて、緑君はうれしそうに話し始めた。
「ま、とにかく上がって。まだみんな集まってないけど」
玄関に集まったままの式部たちを、高杉さんはそう言って家に招き入れた。そして、ちょっと心配そうに俺のことを見ている。
『大丈夫かい??』
高杉さんの目はそう言っている。だから俺は高杉さんに笑いかけた。
『大丈夫ですよ』
俺は心の中でそう言って高杉さんに伝えた。
それでも、無理はいけないなぁと思い、とりあえず緑君を下に降ろした。俺、まだ自覚足りないよなぁ。気を付けないと…。
「緒方君、具合でも悪いんですか?顔色があんまり良くないですよ」
降ろされてしまい、ちょっと残念そうな顔の緑君と手をつないだ時、俺は堤さんにそう言われた。
「え?そうですか?」
そう答えてから原因を考えると、なんだか気恥ずかしくて、俺はちょっと照れてしまった。
「耕作お兄ちゃん、早く行こう」
立ち止まってしまった俺の手を緑君に引っぱられた。
「緑。今お兄ちゃんと話しているのは誰?」
堤さんはそう言って緑君のことを見ていた。堤さん特有の怒り方だなぁと思った。一方、言われた緑君は、なんとなく堤さんから視線をそらしていた。
「緑?」
何も言わない緑君に、堤さんはもう一回呼びかけていた。
「お母さんです。ごめんなさい」
それが緑君の口からでた言葉だった。本人も、どうして怒られたか分かっている。なんだすごく偉いような気がした。
「自分のわがままばかり言ってはいけないよ」
堤さんはそう言って緑君に笑いかけていた。
「はい」
そう言って元気に答える緑君が、素直で可愛いなぁと思う。
俺は2人のやりとりを見ていて、ああ、親子なんだ…と、なんだかすごくしみじみと思ってしまった。
「堤さんは、お母さんなんですねぇ」
だから俺はそう言った。
「…そうですね、そうなってしまうのかもしれないですね」
堤さんはそう言ってにっこりと笑っていた。
俺は、どんな母親になるんだろうか…。なんだか自分でも想像がつかなくて、変な感じがする。
「それにしても…本当に大丈夫ですか?」
ちょうどリビングに入った時、俺はそう言われた。
「大丈夫ですよ」
なんだか、妙に幸せな気分だったから、俺はそう言って笑った。
堤さんはちょっと腑に落ちないような顔をしていたけれど、なんとなく気が付かれてしまったような気もした。
「緑君、あとで遊ぼうな」
俺はちょっと残念そうな顔の緑君をおいて、キッチンへと向かった。
「お茶、お茶っと…」
俺は4人分の紅茶と緑君のジュースを入れてリビングに戻った。
「どうぞ~」
お茶とお菓子をテーブルに置き、俺はソファーに座った。
「緒方君も、すっかり奥さんですよね」
堤さんは急にそんなことを言うから、俺は驚いてしまう。
「そ、そんなことないっスよ」
なんだかすごく照れてしまい、俺はそう言った。
「そうですよ、堤さん。緒方が奥さんなんて似合いませんって。…にしても、急にみんなを集めるなんて、何かあったんですか、高杉さん」
式部は笑いながらそう言ったあと、ちょっと真剣そうに高杉さんに聞いていた。
「ああ、ちょっとね。みんな集まったらきちんと言うよ。ね、耕作」
式部にそう答え、小さく名前を呼ばれ、俺にふと笑いかけた高杉さんを見て、俺はまた照れてしまう。
「でも、みんなで集まるなんてすごく久しぶりですよね」
堤さんが言ったとおり、俺たちがこうやってみんなで揃うのは、すごく久しぶりだった。だから、高杉さんはみんなを呼ぼうと思ったのかもしれない。俺はなんとなく高杉さんのことを見つめてしまった。
「みんなで集まる機会なんて、それほどないからな」
式部はそう言ったけれど、みんな同じ様なことを思ったはずだ。
「耕介君も来るんだよね?」
ちょっと遠慮がちに緑君は式部に聞いていた。耕介は耕平と猛君の所の子供だ。やっぱり大人ばっかりの中にいるのはつまらないんだろう。
「来るだろ??なあ、緒方」
式部はそう訊ねてきたけれど、俺は分からないから、高杉さんの方を向いてしまった。
「耕介、連れて来ますかね?」
「たぶん連れて来るんじゃないかな。2人で来るはずだから」
高杉さんはそんな風に答えた。
"ピンポーン"
タイミング良く玄関でチャイムが鳴った。
「耕介君たちかな?」
緑君はわくわくした声で言うと、立ち上がった。
「見に行ってみるか?」
俺はそんな緑君と一緒に玄関へと行ってみることにした。
「こんにちは」
扉を開けると、緑君の予想通り、耕平たち3人が立っていた。
「いらっしゃい。おお、耕介、よく来たな!」
まだ小さな耕介は、一生懸命立っている感じがして可愛い。
「耕介が先か。まったく休みの日に呼びつけやがって」
耕平は相変わらずな態度でそう言っている。
「耕平、そんな事言うもんじゃないだろ。みなさんとお会いする機会なんて、最近滅多にないんだから」
そんな耕平に猛君はそう言った。そうだ、もっと言ってやれ!
「耕介君、こんにちは」
緑君は早く遊びたくてうずうずしている感じがする。やっぱり子供なんだよなぁ。可愛いなぁ。
「こんにちは、緑君。大きくなったなぁ」
猛君はそう言って緑君に笑いかけていた。…猛君も、なんだかお母さん…というか、ママ、という感じがすごくして、なんだか不思議な感じがした。
「こんにちは」
そしてきちんと挨拶する緑君が、またスゴイなぁと思ってしまう。堤さんのしつけかな…俺はなんとなくそう思った。
「ま、とにかく中入って。式部たちも来てるからさ」
俺はそう言って耕平たちを招き入れた。
「お邪魔します。あ、耕介、靴まだ脱いでないだろ」
緑君に付いて行こうと歩き始めそうになった耕介を捕まえて、猛君は靴を脱がせてあげていた。本当に、すっかりママだ。
「耕介も大きくなったな」
俺は耕平にそう言った。
「もう2歳だからな。まだあんまりしゃべらね-けどな」
そう言って耕平はちょっと優しい顔をするから俺はびっくりしてしまう。…親になるって事は、こう、今までに見た事もないような顔をするようになるんだなぁ…と。今まで、少なくとも俺には見せた事ない顔だぞ。ま、猛君の前では見せてるんだろうけどな…。
「なんだよ、人のことじろじろ見て」
なんとなく耕平の顔を見たままだった俺を不思議に思ったのか、耕平はちょっと訝しげに俺の事を見ていた。
「いや、お前もパパなんだなぁって思っただけだよ」
俺は一言そう言うと、リビングへと戻る事にした。

その後、坂本さんと桂君が用事で遅れる、という連絡を受け、結局昼間の時点で集まったのは式部たちと耕平たちということになった。
「高杉さん、どうしますか?坂本さんたち来るの待ちますか?」
キッチンでお昼の支度の残りをしながら俺は、隣の高杉さんにそう言って話し掛けた。
「そうだね。坂本たちも何時になるか分からない、って言っていたからね。待つよりも言ってしまった方が早いかもしれないな。緒方君はどう思う?」
「俺はどっちでもいいですよ。ただ、いざ言うとなると気恥ずかしくなってきてるんで、いっぺんの方がいいような気もするんですけどね…」
俺は、なんだか妙に照れくさくなってきていたからそう言った。
「そうか…」
「でも、来る時間が分からないんじゃ、やっぱり坂本さんたちには後で言ったほうがいいと思いますよ」
本題に入るのが遅くなってしまっては、せっかく集まってくれたみんなに申し訳ない。
「そうだね。ま、坂本には後からゆっくり自慢する事にするか」
高杉さんはそう言って楽しそうに笑っている。
「…自慢…ですか??」
高杉さんって、坂本さんに対しては、全ての喧嘩買ってるような気がするなぁ…。別に売られてはいないけど…今回は…。
「そう。坂本、どんな顔するかなぁ」
高杉さんは、本当に楽しんでいるみたいだった。
「なんだか楽しそうですね…高杉さん」
「ん?まあね。やっぱりうれしいからさ。僕たちの子供が出来たんだからね」
そう言ってニッコリ笑い、盛り付けの手を止めると、高杉さんは急に俺の事を引き寄せた。
「お」
思わず声をあげてしまった俺の事を、高杉さんはじっと見つめていた。
「本当に幸せなんだ、僕は。夢ではないかって、思ってしまうくらいにね…」
高杉さんの顔は、とても真剣だった。だから俺も照れつつ、真剣な顔になっていた。
「夢じゃないっスよ。高杉さんと、俺の子供がいるんです、ここに…」
そっとおなかに手を触れ、俺はそう答えた。
「そうだね…。僕には気持ち以外の実感がないから…。君にばかり辛い思いをさせてしまってるのかもしれないね」
ちょっとすまなそうな顔で高杉さんは言った。
「辛くなんかないですよ。俺も、本当に幸せですから…」
俺は笑ってそう言った。
「とにかく、早く支度して式部たちに自慢しましょう。前に自慢された以上にね」
俺は高杉さんに、笑顔を向けながら言った。
「そうだね。自慢しなきゃ。僕たちの愛の証ってね」
瞬間高杉さんに軽くだったけれどキスをされていた。
「!」
びっくりして俺は何も言えなかった。まったく、突然なんだから…。
「…子供達の前では、しないで下さいね…」
俺は思わず高杉さんにそう言っていた。…みんなの前でも困るけど……。



2000.2.29~3.21