TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

心に刻み込まれた微熱7 *

 棚に並んだ楽譜、音楽関係の本、机に置かれたヴァイオリンケース。目に入る見覚えのあるその光景の、きちんと掛けられた白い制服の隣に、俺の制服が一緒に掛かっている。
 たったそれだけのことなのに、俺の心臓はあの日以上の速さでその鼓動を刻んでいた。
「土浦…」
 真っ直ぐに俺を見つめてくるその瞳に、俺は囚われて動けなくなる。それは恐怖ではなく、安堵感や期待感にも似ている。
「月、森…」
 けれど呼び返すために開いた唇は思いがけず震え、その名前は少し掠れたものになってしまった。
 こんな俺はらしくない。
 不安なのか、それとも期待なのか。あの日の月森を思い出して、心が、身体が震えるような気がした。
「土浦…」
「っ…」
 もう一度名前を呼ばれ、そっと触れてきた唇はビックリするくらい優しくて、思わず漏れそうになった自分の声に俺はぎゅっと目をつぶった。
 ゆっくりとまるで忍び込んできたかのような舌が俺の口腔内を辿っていく。その舌先が俺の舌先に触れたとき、まるで電流が流れたかのように俺の身体は無意識に跳ねた。
 頬に触れていた月森の手が、首から肩口を通ってゆっくりとシャツの上を滑っていく。
「んっ…」
 俺の知らない感覚が、月森の触れた場所から溢れてくる。
 深い口付けのはずなのにゆったりで息苦しいわけではなく、逆に抑えようのない声が唇から漏れ聞こえてしまう。焦れるような、もどかしいような、やけにリアルな感覚が身体中に湧き起こる。
 不意に唇が離れ、次の瞬間、その唇が首筋に触れ、そこから舌が滑り降りていく。
「うぁ、っ…」
 抑えることの出来ない声が上がり、俺はその感覚に耐えるかのように月森のシャツを握り締めた。
 まるで何かが背中を駆け上がっていくかのように、身体中の熱が上がっていくのを自覚する。
「土浦…」
 肌の上でささやかれる名前に、シャツを握り締めた手に触れてくる月森の手に、あの日に似て、でもまったく違う月森の何もかもに俺は翻弄されていく。
 そっと解くようにシャツから離された手を、俺は月森へと伸ばして引き寄せるようにその背へとまわした。
 肌で感じる月森の体温も高く、触れたところから溶けていくような不思議な感覚がした。
 雪のように、溶かされていく。想いは雪のように降り積もり、それもまた月森の熱に溶かされる。溶けて、解けて、ひとつになる。
 求めていた熱を与えられ、俺はそれを離すまいとしがみついた。
「土浦、好きだ…」
 その強さに負けないくらいに抱きしめ返され、その言葉で、全身で伝えられる月森の想いに、心も解けていく。
 月森の想いが俺の心に響く。
「月森…っ、俺も、好き、だ…」
 俺の想いが自然と溢れ出した。今やっと、この想いを月森に伝えることが出来る…。
 諦めかけて、気付かないふりをして、消えてしまえとさえ思ったこの想いを…。