『音色のお茶会』
心に刻み込まれた微熱8
心地好く冷たいものが頬に触れ、俺の意識が浮上する。「…ん……」
「大丈夫か…」
ゆっくりと目を開けると、心配そうな顔で覗き込んでくる月森と目が合った。そして、頬に触れていたのが月森の手なのだと気付く。
「無理を、させてしまっただろうか」
少し困ったような、申し訳なさそうな月森の表情と、まるで軽く羽織っただけのようなシャツの、そのラフさがさっきまでの行為を思い出させ、俺は顔に熱が集まったのを感じた。
「いや…」
そう言いながら、身体は妙に疲れを訴えてきていた。そして、朝からずっとだるかったことを思い出す。
「でも、少し熱があるんじゃないか」
熱を確かめるようにおでこに触れてきた月森の手はやっぱり冷たくて、心地好い。
確かに少し熱っぽい気もして、けれどそれが本当に熱なのか、ただ単に羞恥心からくるものなのか、俺にはよく分からなかった。
「ちょっと、寝不足なだけだ」
だから俺はその顔の熱さをごまかすように、帰る途中での会話で言った返事をまた繰り返した。
月森の表情は心配そうに俺に向けられていて、それが紛れもない俺に向けられた月森の本心なのだと気付いて、俺の心を温かくさせた。
本心を見たいと、見せてほしいと思った月森が目の前にいる。
想いを、熱を感じたいと思った月森が、心にも身体にも刻み込まれている。
そんな満たされた気持ちに浸っているとなんだかとても安心して、同時に抗い難い睡魔が襲ってきた。
「眠い…」
つぶやいた俺に、月森が小さく微笑んだように見えた。
「しばらく眠るといい」
触れていた手が撫でるような優しさに変わった月森の声を聞く頃には、俺の瞼はゆっくりと、だが確実に俺の視界を塞ごうとしていた。
「土浦…ありがとう」
月森のそんな台詞を聞きながら、何が、と俺は思った。
そういえば、昼休みのことも気になる。振り返った月森に俺の姿は…。
「おやすみ」
目が覚めたら聞いてみるか。聞きたいことがたくさんあるから…。
そう思いながら、まどろみの中に思考がかき消されていく。
そして、唇に温かなぬくもりを感じて、俺はゆっくりと眠りへと落ちていった。
心に刻み込まれた微熱
2008.5.29up
(2008.5.24)
コルダ話16作目。
めずらしくちょっと長め。やっと完結。
相変わらず微裏で微妙に逃げつつ…。
切ないような甘い話になりました。
(2008.5.24)
コルダ話16作目。
めずらしくちょっと長め。やっと完結。
相変わらず微裏で微妙に逃げつつ…。
切ないような甘い話になりました。