TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

心に刻み込まれた微熱4

 目をつぶると、あの日の微笑んだ月森の顔が浮かんだ。
 そしてまた、俺の胸は締め付けられるような切なさでいっぱいになる。
 あれから何度か学校で会ったけれど、月森の態度はそれまでとまったく変わらなかった。本当に忘れたかのように、何もなかったかのように、俺の知っていたいつもの月森に戻っていた。
 なのに俺はあの日の月森を忘れることが出来なかった。会えば、その熱を思い出す。声を聞けば、その言葉を思い出す。そして、切なくなる。
 なぜか、なんて本当は分かっている。
「俺も…」
 言いかけて、俺は続く言葉を飲み込んだ。俺のつぶやきは一瞬だけ窓ガラスを曇らせ、ゆっくりと何もなかったかのように消えていく。
 まるでためいきのように落ちた息が、また窓ガラスを曇らせる。それが自然に消える前に俺は手で拭き消し、もう一度、窓を開けた。
 冷たいはずの空気がなぜか心地よくて、身体が火照っていたことに気付いた。
 真っ白い雪は、音もなく降り続いている。その雪に手を伸ばし雪の破片を掴み取る。でもそれはすぐに溶け、やっぱり手にすることが出来ない。
 どうして俺はこんな風に手を伸ばさなかったのだろうか。この雪のように降り注がれた月森の気持ちに、自分の気持ちも気付かされていたはずなのに。
 けれどあの日の俺は試すようなことを言って、全部、月森の所為にして分からないふりをした。自分の気持ちに、気が付かないふりをした。
 雪のように掴むことが出来ないと、触れることが出来ないと、そう決め付けて。
 手にする前に、手を離したのは俺だ。
「月森…―――」
 つぶやいた言葉はただの白い息となって暗闇に消えていく。俺の想いもこの闇の中に溶けて消えてしまえばいい。
 そう思って、けれど切ない気持ちが消えることはなかった。