『音色のお茶会』
心に刻み込まれた微熱1
夕方から降り始めた雨は、夜には雪に変わっていた。少しだけ開けたカーテンのその向こうで、街灯に照らされた雪が音もなくはらはらと舞っている。
明るい部屋とは対照的な窓からの景色はまるで、音のない世界のように思え、それは少し淋し過ぎるようにも感じた。
少しだけ窓を開けると、寒いと思うよりも先に冷たいと思った。キンと冷えた空気が暖かな部屋へと流れ込む。
窓を開けても雪の舞う音は聞こえてこない。真っ暗な空から、ただただ白い雪が降り続けていた。
そっと手を伸ばすと手のひらにふわりといくつもの雪の破片が落ち、触れたと思うまもなく溶けていく。
雪に、冷たい空気に晒された手は急激に冷え、徐々に感覚を失う。
俺はあわてて手を戻し、窓を閉めた。
冷えた手を反対の手で握り締めた。一瞬、どっちの手が冷たいのかわからなくなる。
冷たいとわかっていて、それでも手を伸ばさずにはいられなかった。それは無意識に近かったのかもしれない。
真っ白い雪は、その雪の冷たさは、月森を連想させる。そして、触れたと思った瞬間に溶けてしまうように、いくら手を伸ばしても届かない。
俺はもう一度、冷えた手をぎゅっと握り締めた。
冷えた指先には温かなぬくもりが伝わり、温めた手にはひんやりとした冷たさが伝わる。
そのふたつの温度は月森の体温を思い出させた。冷たい手と、熱いとさえ思えるその…。
「…っ」
一度だけ、感じたことのある温度を思い出す。その記憶が、思いがけず俺の体温を上げた。
あれは、何だったのだろうか。
あの時の月森は、あの時の俺は、一体、何だったのだろうか。