TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

深淵 side R *

 焦らされて泣かされて、自分のものとは思えない声を上げながら解放の時を待つ。
 快楽が、こんなにも辛いものだとは知らなかった。
 こんなにも耐えきれないものになりえてしまうのだと、俺は初めて知った。

 思えばその手が俺に触れたときから月森の様子がいつもと違っていた。
 普段からあまり多くを語らないその口はいつにも増して無口だったし、俺の名を呼ぶ声もやけに低くてその感情をうまく読み取れなかった。
 そして何よりもその瞳が、まるで獲物を狙う猛獣のような光を湛えていたことに、俺はもっと早く気付くべきだったのかもしれない。

 こんな風に、俺の気持ちを無視した抱き方をされたのは初めてだった。
 人の感情に疎い奴だということはわかっていたし、疎いなりに気遣ってくれていたから少しくらいの自分本意な行動を俺は許せていた。
 けれど今の月森にはその気遣いがまったく感じられず、俺がどんなに制止の言葉を掛けようと聞こえていないかのように無視された。
 それが何故だかわからないから俺は困惑する。
 何か言いたげにこちらを見つめる瞳に、けれどそれが何かわからないからうまく答えられない。

 そして月森からもたらされるそれが本当に嫌なことではないから始末に負えない。
 人の快楽を引き出して煽るだけ煽るようなそのやり方に、俺の身体は出口を見つけられなくて悲鳴を上げる。
 過ぎた快楽にまともな思考が出来なくなりそうで、俺は月森の手から逃げようとする。
 けれど逃げられるほどの体力はもう残っていないし、逃げることを月森が許す訳がなかった。

「やっ、め…、月、やっだ、あっ、あぁっ」
 無意識に口に出るのは月森への制止の声で、けれどその月森から与えられる快楽に身体は喜んで反応を返す。
 まるで頭と身体を別々にされたかのようでどうしたらいいのかわからない。
「もう、やっ、つき…月、もりぃ…」
 もう、自分が何を言いたいのかさえわからなくて月森の名を呼ぶ。
 ただこの快楽から早く解放して欲しくて、ただただ止められない声を上げる。

 息をするのもままならないほどの強い刺激にやっとその瞬間が訪れ、その解放感に頭の中が真っ白になった。
 そのまま意識を飛ばしかけた俺の首筋を月森の吐息が掠め、意識が急激に戻される。
「やめっ」
 たったそれだけのことなのに、過敏になり過ぎた身体には微かに触れるものにさえ過剰な反応を返してしまう。
 近付く月森から離れようとするがそれは叶わず、せめてもの抵抗に首を振ってみたが何の効果もなかった。
「どうして君は…」
 そんな月森の声を聞いたような気がしたが、その言葉の意味を理解する余裕が今の俺にはない。
 力の入らない身体で、どうにかして月森から逃れようともがくのが精一杯だった。

 さっきまでとは比べ物にならないほどの圧迫感が身の内を襲い、首が身体ごと反れたことで喉に息が詰まる。
 声を出さずに済んだことは救いだったかもしれないが、吸うことの出来ない酸素が足りなくて苦しさが増していく。
 背中を滑る月森の手の感触に身体は更に反り返ってしまったが、不意に抱きすくめられて不自然な体勢だった俺の身体が楽な姿勢へと戻った。
 暖かな感触が頬を掠め、訪れた安堵感につられて吸い込んだ空気が肺へ送られると同時に身体から力が抜けていった。
 ほっと息をついたのも束の間、更に奥へと進んできた月森の動きに、何が起こったのか理解することも出来ないまま、俺の身体はまた快楽の渦へと落とされていった。

 そして何度も何度もいかされ、もうそれが快楽なのかなんなのかわからなくなった頃、俺はとうとう意識を手離していた。