TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

願いと現実と望みと真実と1 side:土浦梁太郎 *

 活動拠点をウィーンに置いている月森が、コンサートのために日本に帰国していた一ヶ月の間、俺たちは限られた時間の中で何とか都合をつけ、逢瀬を重ねた。
 恋人同士になってまだ数年。その間ずっと遠距離恋愛を続けてきた俺たちが二人きりで過ごせた時間は、実のところとても少ない。
 だから少しでも会えそうなときには、お互いに無理をしてでも時間を作ろうとする。今日だって、月森が俺の部屋を訪れたのは日付が変わる直前で、明日にはウィーンへと戻る予定になっているし、俺も午前の早い時間から仕事が入っている。
 それでも会いたかった。また、声しか聞けない時間を過ごさなくてはいけなくなる前に、お互いの体温に少しでも触れたくて仕方がなかった。

 扉を閉め、鍵を掛けた瞬間に激しいキスが仕掛けられ、俺は月森の首に腕を回してそのキスに応える。ここはまだ玄関だなどと、野暮なことを言って止める気はない。
 月森の指が俺の服の釦を外し始めて早々に服を脱がさればヒンヤリとした空気に肌が晒され、早く熱くなりたくて俺もまた月森の服の釦を一つ一つ外していく。
 無駄に器用な月森の指はすでに俺のベルトまでとっくに外し終えていて、月森の釦を全て外し終える頃にはもう、俺が纏う布はほとんどなくなっていた。
 月森は自らシャツを脱ぎ捨て、熱いくらいの体温を俺にぶつけてくる。その熱さに、覚えず安堵のためいきが漏れる。
 性急な手付きが俺の欲を煽る。余裕などなさそうな月森の表情がそれに拍車をかける。
 梁太郎、と、めったに呼ばれることのない名前を耳元でささやかれれば否が応でも熱が上がり、立っているのもやっとで月森にしがみつく。
 解けてしまいそうなほど熱いのに、実際は解けて混ざり合うことなど出来ないことがもどかしい。だが、混ざらないからこそ抱き合えるのだと考えればそれも嬉しく、離したくなくてしがみつく腕に力を込める。
 不安定な体勢が少し怖くもあったが、今はとにかく月森を感じたくて、月森に感じてほしくて、俺はギリギリまで快楽の終着点を引き延ばした。

 明け方近く、気持ち的にはまだまだ足りなかったがさすがに身体は限界で、少しの間、お互いを抱き締め合いながら眠った。
 今夜からまた、このベッドに一人で眠らなくてはいけない。この一ヶ月の間だって一人で眠った回数のほうが多いというのに、次に会える日まではその何倍も何十倍もあることに、どうしようもなく淋しく思うことが止められない。
 しばらくすればそれも慣れるのだが、慣れてしまうこともまた淋しいような気がして心がキリキリと痛くなる。
 月森も俺も、恋愛に対しては淡白な方だと思っていた。愛だとか恋だとか、そんなことに現を抜かすような性格ではなかった。
 そしてお互いを、恋愛対象にするだなんて、出会った頃は全く考えもしなかったし、むしろずっと犬猿の仲が続くのだろうと思っていた。
 人生、何が起こるかわからない。自分がどんな風に変わってしまうのかもわからない。
 だが、変わった自分を、月森に変えられてしまった自分を、俺は嫌だとは思っていない。むしろ、嬉しいとさえ思っている。
 例え恋人同士であることを公言出来ないのだとしても、月森との関係はこの先もずっと続けていきたいと思う。