TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

氷炭8 ~sideR~

どうして忘れていたのだろう
なんで気付かないふりをしたのだろう



 もう、何もかもが終わってしまったのだとそう思った瞬間に、月森はもう一度その想いを俺に告げてきた。
 好きだと言われて心臓が高鳴り、好きでいさせてくれと言われて心が痛くなった。
 俺はそんな月森の本気を、初めて好きだと告げられたときから知っているはずだった。月森はいつだって、俺に対して本気だった。
 それなのに俺は月森の本気が信じられなくて、自分の気持ちを誤魔化して冗談で済まそうとした。月森から逃げて、自分からも逃げて、感じる不安を全て月森の所為にして、月森の気持ちに向き合おうとしなかった。
 それでも月森は俺に対し、変わることのない気持ちを持っていてくれたのだと気付けば心の痛みは更に増した。
 答えを出すのはやっぱり怖い。けれどずっと出せずにいた答えを、心の中には最初からあったその答えを、今ここで出さないと俺はまた後悔することになるだろう。

 俺の前に姿を見せないと言ったその言葉を証明するかのように俺から離れていこうとする月森を、俺はその腕を掴むことで咄嗟に引き止めた。
 俺から近付くことはあっても、こんな風に触れたのは本当に初めてで、そう思うだけで掴む手が震えてしまいそうになるが、離してはいけないと掴む手に力を込めた。
 驚いた顔で振り返った表情を真剣なものに変えて静かに真っ直ぐ見つめてくる月森に対し、俺は心の中にある気持ちと同じ表情を作れなくて月森を睨んでしまう。これが今の俺の精一杯なのだと気付いてはもらえないだろうし、逆に誤解をさせてしまうかもしれない。
 でも誤解だけはして欲しくないと、俺は意を決するように、ひとつ大きく息を吸った。

 好きだと初めて声に出し、俺も好きなんだと言葉にする。
 だから俺から離れていかないでくれと心で叫ぶ。
 嫌いではないから、なんとも思ってないわけでもないから。
 だから俺のことを好きでいてくれと、今更過ぎる願いを口にする。

 離れないでくれと願い、そう願うからこそ近付くことを怖れ、それでも心が訴える気持ちには抗うことが出来ず、どうすることも出来なくなってやっと、俺は想いを言葉にした。
 もう後戻りなんて出来なくて、したくなくて、これからのことを考えると不安で、でも楽しみで、もっともっと先のことはまだわからなくて、わからないけど変えたくないという強い想いが生まれてくる。
 早鐘を打つ鼓動が指先まで伝わり、それが掴んだ腕から月森に伝わればいいと俺は思った。それは言葉よりもずっと確実に俺の気持ちを伝えてくれるだろう。
 そう思って掴む手に力を込めれば、それ以上の力で反対の腕を掴まれた。その手から、真っ直ぐに見つめてくる目から、月森の気持ちが伝わってくる。

 月森の気持ちをもっと感じたくて、俺の想いをもっと伝えたくて、一歩近付くと同時に腕を引き寄せれば、同じタイミングで近付いてきた月森に、息も出来ないくらいの力で抱き締められた。
 月森から伝わってくる鼓動も俺と同じくらい早く、それは心が締め付けられるような痛みを俺にもたらした。
 息苦しさではなく、胸が苦しい。月森の本気が嬉しいから、胸が痛い。その気持ちに答えを出さなかった俺に、月森は一体どんな思いで接していたのだろうと考えると胸が潰されそうになる。
 そんな気持ちだけではなくさすがに息苦しくなってそれを訴えれば腕が緩み、今度はそっと包み込まれるように抱き締められた。掴んだままだった手を離し、俺も月森の背へと腕を回せば胸の痛みは甘いものへと変わる。

 心が望むままにそっと唇を寄せれば俺が触れるよりも先に月森に奪われたが、先とか後とか、そんなことはどっちでもよかった。お互いの想いが感じられれば、お互いの想いが伝え合えれば、それだけでいいと思う。
 何かを確かめるかのようにゆっくりと、そして深く触れてくる舌に俺は自分のそれを絡めて答えた。愛おしさを伝え合うようなキスは熱を煽るようなものではないはずなのに、心も身体も溶かされていく。

 好きだと何度も言葉にすれば、同じ数だけ月森から好きだと伝えられ、愛していると言って更に抱き締められる。
 月森を好きだと思う気持ちが、どうして言わずにいられたのだろうと思うくらいに溢れてくる。