TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

氷炭7 ~sideL~

なぜ気付かなかったのだろう
どこで間違えてしまったのだろう



 土浦の声に煽られ、握り返された手のぬくもりに煽られ、俺は自分自身を止めることが出来なった。
 抵抗されることのない土浦の態度をいいように解釈し、何度も繰り返し呼ばれる俺の名に答えるように土浦へと触れていった。
 お互いの体温は感じたことがないくらいに熱く、触れているのに境目がわからなくなるような錯覚を覚える。
 この温度をいつまでも感じていたいと願いながら、たぶんもう、こんな風に触れることはないのだろうと心のどこかでは気付いている。俺はそれに気付かないふりをして、熱さの中へと溺れていった。

 土浦から手を離せばすぐ傍にあったはずの熱は急激に冷めていき、抗う術もなくことの終わりを告げられた。始まりにはいつでも終わりがある。永遠を望めば望むほど、それは無理なのだという現実に阻まれる。
 どういうつもりで土浦が俺の行動を受け入れたのかがわからない。わからないが、受け入れた、という言葉の使い方がたぶん間違っているであろうことはわかっている。
 逃げられないところまで追い詰めて、答えも聞かずに先へと進んだのは俺だ。逃げなかったからと都合のいい解釈をして、土浦の所為にしたのも俺だ。
 けれどそうやって先走ってしまった後に待ち受ける現実は思った以上に辛く、それがわかっていながらも止められなかった自分の弱さを痛感した。

 呆然としたような土浦の表情を見ているのが辛くて、俺は咄嗟に目をそらした。
 睨んでくるわけでもなければ、文句を言ってくるわけでもない。けれどそんな態度を返せないほどの状態なのだろうと察し、俺は取り返しのつかないことをしてしまったと後悔したが今更だった。
 土浦にも後悔するようなことをさせてしまったのだと思い、その真意を問えば、お前はどうなんだと静かに返された。俺が後悔していることを悟ったからこそ、そう返してきたのかもしれない。
 好きになった気持ちには後悔など感じていない。どうしても止められない想いが俺の中にはあって、それをどんな形でもいいから叶えたいという勝手な想いがあったことも本当だ。
 けれど、どんな想いがあったとしても、やっていいことと悪いことの区別くらいはつけられたはずなのにと思う。自分の想いのままに自分勝手な行動を起こしてしまったことは、後悔してもし足りないくらいだ。

 それでも君が好きだと、俺はもう叶わないであろう言葉を口にする。
 もう触れないから、もう声も掛けないから、もう君の前に姿は見せないから。
 答えなど要らないから好きでいさせてくれと、自分勝手な想いをぶつける。

 好きだと思う気持ちが止められない。こんなにも強く、人を想ったことなどないから止める方法がわからない。
 だからどうしても叶えたいと願い、けれど叶わないことも知っていて、それでもどうしても諦めることが出来ない。
 土浦が好きで、どうしようもなく好きで。土浦の気持ちが知りたくて、土浦に好きになってほしくて、最初はただそれだけのはずだったのに、俺は答えを聞く前にそれ以上を願ってしまった。
 自分のことばかり考えて、土浦の気持ちなど何も考えていなかった。
 越える気などなかったのであろう一線を、それを望まないからこそ作られていた距離を、俺は縮めて近付いて追い詰めて、越えさせてしまった。

 これ以上、土浦の傍にいることはもう出来ないのだと自分に言い聞かせて踵を返した俺の手に、突然、土浦の手が触れてきて驚いた。
 さっき感じた熱さとはまた違う、けれど俺よりも少し高い体温の指先から何かが伝わってくるような気がして神経がそこへと集中する。
 けれどわざわざ俺に触れてくるその理由など読み取れるわけもなく振り返れば、土浦は真っ直ぐに、それこそ睨むようにこちらを見ていた。
 理不尽な俺に対する文句を言いたいのなら聞こうと思った。
 そんな土浦の気持ちを受け止めるようと心に決め、俺は土浦に向き合った。