TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

氷炭5 ~sideL~

君は何を望み俺は何を望んでいるのだろうか



 追い詰められて俺は、土浦への気持ちを改めて自覚した。そしてそれが、どうやってでも手に入れたいという自分勝手な気持ちへと変わってしまったことにも気付かされた。
 最初に自覚した感情以上のものが心の中に渦巻いている。俺の心が満たされるなら、相手の気持ちなどどうでもいいとさえ思ってしまう。
 だから俺は、逃げる土浦に倍以上の速さで近付いていく。これ以上逃げられないようにと追い詰める。
 けれどまだ、捕まえはしない。逃げられないところまで追い詰めて、それからゆっくりと閉じ込めてしまえばいい。

 二人きりになれる機会を窺っていれば、それは意外にも早く訪れた。
 ゆっくりと近付けば、じりじりと後退る。けれどもう後がなくなったところで逃げられないと思ったのか、それとも逃げても無駄だと思ったのか、土浦はピタリと動きを止め、更に距離を縮めても土浦は逃げる気配を見せなかった。
 簡単に触れられる距離を保ったまましばらく様子を見ていれば、意志の強そうな瞳で俺を睨んできたが逃げる素振りはやっぱり見せなかった。
 逃げるわけでもないが、受け入れるわけでもないらしい。

 俺は土浦が答えを出す前に次の行動へ移すことにした。元々、待っていられるだけの余裕など俺にはなく、以前のように無理やりな行動を起こさなかったことが不思議なくらいだ。
 触れる寸前まで近付いていた唇に、俺は自分のそれではなく指を触れさせた。
 睨んでいた土浦の視線は動揺したように揺れたが、それ以上の反応は見せない。俺はそれを了承のサインと勝手に受け取って今度こそ唇を触れさせる。
 ただ触れるだけのキスを何度か繰り返せば、ゆっくりと瞼が落とされた。睨む瞳が隠されると途端にその表情は無となり、土浦の気持ちが全くわからなくなった。
 ただ、俺を拒否しているかのように、唇はぎゅっと引き結ばれたままだった。

 堕ちそうで堕ちない土浦の態度に俺は苛立ちを覚えた。俺の本気に対して、土浦は無関心を決め込んでいる。俺が何をしても、俺に何をされても黙っている気なのだろうか。
 それならばいっそ、以前のように抵抗する態度をとられたほうがまだましだと思う。何かしらの感情をぶつけてくれないと、俺だけが勝手に空回りをしているような気がして気分が悪い。
 それが自分勝手なことだという自覚はあるが、どうやっても土浦の心を動かすことの出来ない歯がゆさに苛立ちだけが募っていくことは止められなかった。

 俺はこれからどうしたいのだろうか。
 土浦を手に入れたい。
 俺は一体何をしたいのだろうか。
 土浦の全てを手に入れたい。
 俺は何をどうするべきなのだろうか。

 壁へと抑え付けて首筋へと歯を立てれば、さすがの土浦も抵抗をみせた。
 制止の声が聞こえ、俺の肩を掴んで押し返してくるその力に負けて身体を引けば、怒りというよりは恐怖を宿した瞳が俺を見ていた。
 その目をじっと見返せば恐怖心を隠すかのように目が閉じられたが、その表情はさっきのように無ではなく、まだどこか恐怖をにじませているように見えた。
 そんな表情を見せられ、今なら完全に落とせるかもしれないという、征服欲にも似た想いが満たされていく。けれどそれだけでは飽き足らず、俺は自分の中に生まれたどうしようもなく身勝手な想いが膨れ上がっていくのを感じていた。

 ついさっき噛み付いた場所に、今度は優しく唇を寄せれば土浦の身体は明確な反応を示し、引き結んでいたはずの口からはたぶん出すつもりなどなかったのであろう声が上がった。それは微かに甘さを含んでいるようにも聞こえ、俺は身体の中に熱が生まれたことを感じた。
 その声をもっと聞きたいと思って吸い付くように触れれば、唇はまた引き結ばれてしまったが身体の反応が顕著になった。
 耐えるように握り締められた拳を撫でるように触れているとやがてその強張りが緩み、その瞬間を逃さないように指を絡ませれば、その手が拒まれることはなかった。

 その全てへと触れたいと思うのは、俺を覚え込ませたいからなのか、それとも俺が土浦の全てを覚えておきたいからなのか。
 何をしても何をされても、結局はまたそれ以上を求めてしまう。
 心が満たされるのはその瞬間だけなのだとわかっているのに、俺はそれ以上を求めることを止められなかった。