TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

氷炭3 ~sideL~

次に訪れるそのときが俺の限界なのかもしれない



 土浦から離れようとも考えたが、俺はどうしてもそれが出来なかった。だから恋愛感情抜きの態度に戻せば、土浦は今までと変わりなく普通に接してきた。たぶんそれは土浦の望むものなのだろう。
 今までの俺なら、こんな風に中途半端な関係を続けることはしなかったと思う。きっと簡単に切り捨てて、時間の無駄だと、そういって自分の感情も相手のこともなかったことにしてしまっただろう。
 けれど土浦のことだけはどうしても諦められなかった。望みなど何もないとわかっていながら、好きでいることを止めることは出来なかった。傍にいることを、それがどんな状況でも、俺は望んでいた。
 叶わないのならば諦める覚悟はあるはずだった。もう二度と、話し掛けることもしないと、そう思っていた。けれどそれが出来なかったのは、土浦がそれを望んでいないとそう思ってしまったからなのだと思う。
 土浦はたぶん、俺が土浦に対して恋愛感情を持っていることを望んでいない。だが、嫌いだといって離れてしまうことも望んでいない。だから何もかもをなかったことにして、元通りの関係を続けていこうとしている。言葉で言われたわけではないが、土浦の態度から俺は勝手にそう判断した。
 きっと土浦は俺のことなど好きでも嫌いでのないのだろう。恋愛対象としてなど考えられないとそう思っているのだろう。
 それでも無理だとはっきり断られていないことが、俺に小さな期待を抱かせる。まだ望みはあるのかもしれないと、一縷の望みにかけたくなってしまう。
 もしもはっきりと言葉にして断られていたら、俺はこんなにも土浦に固執することはなかったのだろうか。

 それまで一貫して態度を変えようとしなかった土浦が、急に俺を避けるようになり、とうとう嫌われたのだろうと思い今度こそ諦めて距離を置こうとすると、今度は何故かまるで引き止めるかのように土浦から近付いてくる。そしてまたしばらくすると、思い出したように俺を避け始める。
 距離を置いた土浦に俺から近付くことは許されなかったが、俺が離れることもまた不服らしかった。
 離れれば近付く、近付けば離れる。そんな繰り返しは俺が告白をしたすぐ後の土浦の態度にも似ていたが、どこか少し違う。土浦が望んでいたのであろう一定の距離は保たれず、急に開いたり急に近付いたりしている。
 それはまるで、本当は近付きたいのに近付くのを怖れているようだと俺に感じさせた。そんな風に考えるのは虫が良過ぎると思いつつ、期待せずにはいられない。
 けれど俺はその距離を縮めたままにする方法も離れていく土浦を引き留める術も知らず、そして土浦の本心を知ることも出来ない。
 このままではもう一度、その気持ちを知りたいのだと言ってしまいそうで怖い。無理強いなどもうしたくないのに、この気持ちが抑えられなくなりそうで怖い。

 土浦の気持ちを知りたい。
 土浦の想いが俺に向いていればいい。
 土浦の本音を知りたい。
 土浦の想いが俺に向いていて欲しい。

 想いは溢れるばかりで留まることを知らない。
 そんな俺を知ってか知らずか、土浦は離れたはずの距離を縮めて近付いてくる。
 限界ギリギリまで追いつめられた俺に向けられる無防備な態度は、一体どういうつもりなのだろうか。
 俺はもう、理性を保っているだけで精一杯な状況になっていた。