TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

この恋が永遠ならば1

 土浦とキスをしたのは初めてではなかったけれど。
 けれどそれ以上のことはまだ、したことがなかった。

 キスの途中で首へと回された腕に引き寄せられ、俺は自然と土浦を組み敷く形になる。
 驚いて身を起こそうとするが、回された腕にそれは阻まれた。
「逃げるなよ…」
 ゆっくりと開いた目は真っ直ぐに捕らえた俺を誘い、赤く濡れた唇が薄く開いて俺を惑わす。
 いつの頃からか誘うような瞳を見せられてはいたが、こんな風に行動に出られたのは初めてだった。
「土浦…」
 困ったように名前を呼べば、なんだ、とでも言うように首が傾げられる。
「俺とはしたくない、とか?」
 掠めるように唇が触れ、吐息がかかる距離でささやかれる。
 人を試すような瞳で、下から見上げてくる。
「…そうじゃない」
 したくないと言ったら、それは嘘だ。もっと触れたいと思うし、もっと感じたいと思う。
「じゃあ、いいだろう。減るもんじゃないし」
 更に引き寄せられて、服越しだというのに体温が伝わってくる。
 その熱に煽られ、鼓動が激しくなっていく。
「そういう問題ではないだろう…」
 湧き上がってくる衝動をなんとか抑え、わずかながらに残った理性が飛んでしまう前に身体を離す。
「そういう問題だろ」
 離れる身体を追うように、まるで全身で俺を求めるかのように腕が、足が絡みついてくる。
 そんなしなやかな動きに誘われ、溺れてしまいそうになる。
「君に触れたら、手放せなくなる。君をそんな風に束縛したくない」
 近いうちに離れなくてはいけないことはわかっているから、そのときに放せなくなってしまうのは怖い。
 離れている間の心変わりを、許せなくなってしまいそうで怖い。
「そんなことを言っているお前が、俺の目の前から居なくなるんだろう」
 その言葉はいつものように感情的ではなくとても静かで、俺を見るその瞳もぞっとするほど冷たく感じた。
「だからこそ、だ。俺は何の約束も出来ない。それなのに俺だけがわがままを言うことは出来ない」
 どんなに好きでも同じ天秤にはかけられない。
 だからこそ、俺の選択肢で束縛をすることはしたくない。
「なんだかんだ言ったって結局、後腐れなく旅立ちたいってことなんだろ」
 冷たく感じていた瞳が逸らされ、自嘲気味な笑みを見せられる。
「違う!」
 思わず両肩を掴み、俺は叫んでいた。
 本当は俺のことを忘れられなくなるくらいに、俺なしではいられないくらいに溺れさせてしまいたい。
 その自由を全て奪って、俺だけのものにしてしまいたい。
「だったらお前を刻み付けていけよ。俺は構わないぜ」
 静かにそう告げてくる言葉にも表情にも、迷いの色は見えない。
 俺の手から逃れることもしない。
 引き寄せるでも絡ませるでもなく、じっと俺が動くのを待っている。
「本当に、いいのか…」
 その表情が本心なのかそれとも興味本位なのか読み取れなくて、言葉で確かめずにはいられない。
「いいって、言ってるだろ…」
 俺を見つめていた瞳が、俺を誘うように閉じられる。
 頬を包み込むように触れ、俺はゆっくりと口付けを落とした。



※2~4話はR18としますので18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください※
飛ばして5話を読んでも話はわかるようになってます。