TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

この恋が永遠ならば5

 気だるい余韻に浸りながら、俺は眠りに落ちた土浦を引き寄せるように抱き締めた。
 肌を掠めていく規則正しい寝息が、肌に触れる少し高めの体温が心地いい。
 今はただ、この心地よさに溺れていたいと思うのに、離れなければならない日のことが頭に浮かんで胸が痛い。
 誘われたからなどと言い訳するつもりはない。けれどもし誘われなかったら、俺は土浦に触れずに旅立っていただろう。
 土浦を抱き締めれば抱き締めるほど別れが辛くなるのがわかっていた。一度でも触れてしまえばまた触れずにはいられない。
 そうして俺は手放せなくなって、俺から離れていくことも許せないと思うのに、俺は自分の選んだ道へと進むことを止めないのだろう。
 相手の自由を奪い、自分だけが自由を手にするなど、自分勝手過ぎる。
 この気持ちが恋だと自覚する前ならば、俺は土浦を手放すことが出来ただろう。
 まさか自分がこんなに深く、人を想うようになるとは思っていなかった。誰かに執着することなど、ずっとないと思っていた。
 離れて時間が経てば、通り過ぎた思い出に変えることが出来るだろうか。
 今この手を離してしまえば、俺は諦めることが出来るだろうか。
 でも今は、せめて今はまだこのぬくもりを抱き締めていたい。この手で土浦を感じていたい。
「土浦…」
 そっと名を呼び、そっと前髪を梳き上げておでこにキスをする。
「月、森…」
 ぎゅっと抱き締めるとそれに答えるように名前を呼ばれ、俺は土浦の顔を覗き込んだ。
「…。お前、なんて顔してんだよ」
 ゆっくりと瞼を上げた土浦は、俺の顔を見るなり驚いた顔を見せ、それがすぐに苦笑いへと変わった。
「俺とこんなことになって、後悔してるとか?」
 土浦の指が、そっと目元を掠めていく。
「そんなわけ…」
 ないと、そう続くはずだった言葉が止まる。
 後悔などしていない。けれど俺は違う意味で後悔しているのかもしれない。
「俺は君を手放せなくなってしまう…」
 もっと触れたいと思ってしまう。もっと欲しいと思ってしまう。もっともっとと、願ってしまう。
「俺だって、お前を手放す気はないぜ」
 するりと腕が回され、引き寄せられて唇が重なる。
「それに、こんな風に刻みつけられたら、忘れることも出来ないぜ…」
「なっ、っ…」
 不意に首筋へと顔を埋めてきたと思ったら、チクリとした痛みがそこから伝わってきた。
 土浦の首筋にも、俺が付けた赤い痕が残っている。
 お互いに付けられたそれは所有の証。
「だから、俺を手放そうなんて思うなよ」
 俺が何かを言い出す前に、土浦はそのすべてを伝えてきた。
 俺が言えなかったことを言葉にし、俺が逃げていたことに正面からぶつかってきた。
 そして下から見上げてくる土浦の瞳が、妖しく俺を誘いながら返事を待っている。
 いいのか、なんてもう聞く必要はない。
 俺の答えも、本当はとっくに決まっている。
「土浦、土浦…」
 抱き締めて、ぎゅっと抱き締めて、深く深く口付ける。
 もう迷いはしない。後悔もしない。俺は一生、土浦を手放しはしない。
「愛している…」
 ほんの一瞬、唇を離し、俺は想いを口にした。
「俺も…」
 言葉の代わりに触れた舌先が、やけに熱かった。



この恋が永遠ならば
2009.9.25
コルダ話50作目。
キリのいい数字の記念ということでR18話に挑戦。
土浦君の誘い受けですよ!