『音色のお茶会』
あらまほし1
目が覚めたら頭が痛かった。最近、忙しかったから疲れが溜まっているのかと思いながらベッドを下りたらめまいがした。
抑えるように触れたおでこが妙に熱くて、俺はそのときやっと熱を出していることに気が付いた。
確かに、ここ最近は妙に忙しかったような気がする。
今日は久し振りに休みが丸一日取れたから何をしようと色々考えていたが、身体が休めと訴えているのかもしれない。
熱があるのだと気が付けば寒気までしてきて、俺はもう一度布団を被った。
人の気配がして目を覚ますと、おでこに濡れたタオルが乗っていた。
そして部屋の中に、人がいる気配があった。
「月森…?」
寝起きでぼんやりとした視界に映るその後ろ姿を不思議に思いながらも声を掛ければ、振り返った月森が心配そうな顔でこちらに近付いてきた。
「大丈夫か?」
熱を確かめるように触れてくる手が、いつもより冷たくて気持ちいい。
「なんで?」
熱の所為で頭が働かないのか、頭の中で思ったことがそのまま短い言葉になった。
「連絡を入れたが繋がらなくて、心配して来てみれば君が熱を出して寝ていたから驚いた」
硬質な感じがする月森の声が、こんなときは何故か心地よく聞こえる。
「俺も、驚いた」
その声を紡ぐ口元を見上げながら答えれば、触れてくる手が妙に優しくなって、俺はもう一度目をつぶった。
「もう少し寝るか? そういえば薬は飲んだのか? それより、何か食べたのか?」
そんな風に心配して世話を焼いてくれそうな月森がなんだかめずらしいと思うのに、気持ちと表情がうまく繋がらなくてうまく笑えないし言葉を返すことも出来ない。
何か食べなくてはとか、薬を飲まなくてはと思ったが、瞼が重くて開けるのが億劫になってしまう。
「何か用意しておくから、起きたら呼んでくれ」
クシャリと髪を撫でられて、その手が離れていく。
「月森…」
それが妙に心細くて、妙に物足りなくて、重たい瞼をなんとか持ち上げて月森を見上げる。
「も…っと…」
頭で考えるよりも先に、言葉が口をついて出て行く。
何故か少し困ったような月森の顔が見えて、それでも月森の手は頬を掠めるようにそっと触れてきた。
「気持ち、い…」
その冷たさにまた自然に瞼が落ち、そして意識も落ちていった。