||||| 点滴の気泡 |||||


術後、患者間で最も盛り上がる話題と言えば、それは『排泄・尿管・点滴』の3点セットではないだろうか?(若年の男性患者だけか?)
前項目で取り上げた『清拭』を加えれば、豪華4点セットとも言えるであろう。
それはまるで、「この切っても刃にくっつかない包丁2本セットを買えば、おまけとして果物ナイフと匂いが付かないまな板をサービスさせていただきます。今なら、9,980円でご奉仕。とってもお買い得です!」というテレビショッピング宛らの豪華さである(笑)。

さて、点滴を受けたご経験のある賢明な読者の皆様には、私がこれから何を記述しようとするのかは、サブジェクトで既にお分かりいただいていることであろう。

そう......点滴には付き物の、輸液チューブに混ざるあの憎いヤツ(気泡)なのである。
皆様もご承知のように、血管内に空気が入れば、虚血性の心不全を引き起こし、いとも簡単に人は死んでしまう。或いは、血管内で空気塞栓を起こし、脳や心臓、肺に甚大な影響を及ぼしてしまうのである。
これくらいは今時の患者なら既に知り得ている情報だと思う。
 
思い起こせば、ミエロ検査終了後の点滴で、輸液チューブにたくさんの(例え、小さな気泡がふたつみっつ位であっても、患者から見ればたくさんと表現されるのであるが)気泡が見られた時には、要求すれば直ちに検査室担当ナースに3方活栓の所で気泡を抜いて貰えたのであった。
従って、病棟でも同じ扱いを受けるであろうと高をくくっていたのが間違いであったことは後で知ることになったのである。

術後、少しばかり元気が出てくるといろいろなことに注意が向けられるようになってくる。殊更、点滴に纏わる医療事故の報道が脳裏をかすめ、「医療の素人が医療事故から自分の身を守るには、点滴への注意しかない!」と悲壮感にも似た激しい思い込み(苦笑)で、輸液が入ったバッグを持ってくるナースが携える点滴のチェックシートを盗み読みしながら、それぞれのナースに復唱にも劣らぬ確認をしていたのであった。

なんやのー、もぉ。うるさい人やねぇ......。

ほとんどのナースの顔に、そう書かれていたのを見逃さなかった私であるが、手間を取らせながらもチェックシート通りに間違いなく輸液が行われることに非常に満足していたのは、ナース達には知る由もなかったであろう(笑)。

ところが、である。
私の期待を大きく覆される事件がついに起こってしまったのである(大袈裟)。
何気なく見た輸液チューブに大量の気泡が混ざり、輸液との縞々模様を形成しているので、「ちょっとこの空気抜いてー。」と気軽にお願いしたのであるが.......。

「ええやん、それぐらい。勘弁してー、忙しいんやから。」

うっ......(予想にもしなかった切り返しだ)。
手元を見れば......く、空気ぐぁぁぁぁぁ(頼む、抜いてくれ)。
ちょ、ちょっと待ってー!ど、どれくらいまでなら空気入ってもええの?(この間にも少しずつ空気が血管に入り込み、悠長に聞いている場合ではないのだが)

えーとなんぼやったかなぁー?......忘れたわ、そんなん(あっはっはっ)

いかん......。
哀願する私を適当に交わして、ナースが病室から出て行こうとするではないか。
引き止めねば......。

あ、あの。空気が入ったらあかんのでしょー?(これが精一杯とは情けない)

だーいじょうぶやって!
そのバッグ一杯空気入っても死なへん死なへん(爆笑)。


ええっ!こ、これ300ml入りやんか......。

そやった?......ほな、点滴終わったらゆーてなぁ(すたたたたた)。

あ、行ってもた......(涙)。

この後、手元のチューブを必死に摘んで気泡の侵入を防御したり、気泡を指先でぷちぷちと潰し、更に輸液チューブをしごいて何とか気泡を輸液がぽたぽたと落ちる部分まで押し返そうと孤独な闘いに奮闘したのであるが、ついに侵略を余儀なくされてしまったのであった(苦笑)。
最後の気泡が我が血管に入っていくのを見届けた後は、全身硬直させながら何かが起こるのを待ったのであるが、悔しいかなナースの言った通り、何も起こらなかったのである。

そして。
慣れとは恐ろしいもので、この件の後、同様の状況に追い込まれても平然と受け入れることができたのは、私がついに悟ってしまったというべきものであろうか?(笑)

ナースとの暗闘は、正に天敵(点滴)である......。


*後記
 岩手医科大法医学教室のHPに空気塞栓についてのコメントを見つけました。
 静脈に100〜250mlの空気が入れば危険だそうです。



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