||||| 「部長回診」 |||||


病棟生活において、入院患者に忌み嫌われるイベントと言えば、部長回診こそがその最高峰ではないだろうか?(笑)

それは、注射が下手なナースに採血をされることなど全く問題外であり(いや、確かにこれは嫌だった)、また、手術前の浣腸さえも一瞬の恥だと割り切ってしまえば、涼しい顔でトイレから出てしまえるというものである(いやいや、かなりの開き直りが必要かと思う)。まあ、剃毛(ていもう。手術前に必要に応じて陰部周辺の体毛を剃り落とす厳かな儀式のこと)こそ、私の場合では不要であった所為か、結局のところは部長回診が最も嫌われたというところである。

我が整形外科病棟では、水曜日の午後にそれは始まるのである。

「白い巨塔」で有名な大学病院での教授回診の名残りが市中病院でも展開されているのであろうが、単に形骸化された、病棟内にのみ通用する絶対権力を誇示しているだけのようにしか感じられなかったのである。正直言って。
例えば、若い研修医が、或いは外来にはまだ出ることができない病棟医が入院患者の治療をそれぞれ受け持ち、整形外科部長が治療の進捗をチェックするという指導的な意味であればまだ話は分ると言うもの。患者からすれば、心強い。

しかし、ここでは、部長の他は、病棟婦長に病棟医が2名、そして、その日の回診担当ナースが1名就くだけで、主治医が同席するわけではないのである。その上、病棟ナースがカルテから患者の治療状況を説明し、部長自ら執刀した患者を除けば、適当に診て廻るという程度であった。
特に、私の主治医は、毎日、外来診察が始まる前の午前8時頃には病棟に出て担当患者を回診してくださったので、主治医に不信や不満を感じない限りは、部長回診など、少なくとも私には何ら必要のないものであった。

要するに。
これから部長回診が始まりまーす、患者さんはベッドに戻ってくださーい!
......とアナウンスが流れ、患者は自らのベッドに横たわり、自分の番を静かに待たねばならないのである。
そして、一団が現れ、集団で患者を見下ろし、そそくさと問診を終えると関心を失ったかのように、次の患者へと移って行く。

せめて!
ベッドサイドに来た時には、見下ろすのではなく、部長だけでも椅子に腰掛け、患者との目線をできるだけ同じ位置に持っていくくらいの配慮は欲しいものである。或いは、病状により臥床しか許されない患者ならばともかく、そうでなければ、ベッドに腰掛けるなり、一団と同じく立位のままで問診を受けても良いのではないかと思うのであった。

このような不可思議なローカルルールに縛り付けられることを非常に嫌がる私ではあるが、解せないものには反感を隠せないもの。
まだまだ、私はおこちゃまってことなのであろーか?(涙)

「なんで......?」と、その意味を質そうとして、ナースの困惑顔を見た時には、哀しい気分になったことを覚えている。医療と言うもの、医師をトップに讃えるヒエラルキーの堅牢さをそこに感じたのであった。



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