||||| 「部長回診 2」 |||||


部長回診で思い出したもの。
思い起こせば、19歳頃に発症していた左手中指の骨腫(当時は、発見されなかった)を、23歳の春に摘出手術した時のことを書いてみよう。

それは、今は父が世話になっている某病院でのことであった(苦笑)。
医師からレントゲン写真を見ても何処にも異常は見られないと言われたのであるが、私にははっきりと骨に薄っすらとした陰が見えていたのである。

せんせー、この部分(患部を指差しながら)、色が変わってます。おかしいと思います。
「そうかなぁ......。大丈夫。何かあったら、またおいでー。」

......とあしらわれてしまったのである。

しかし、指の腫れが引かず、痛みも取れず、就職を控えた大学4回生となるや、ゼミの同級生の情報を頼りに、わざわざ大阪府某市から神戸市某埋め立て地区の市民病院まで診察を受けに行ったのであった。
もう20年近く前のことである。当然、インターネットなど存在しないので、情報は口コミだけが頼りであったのだ。

「うーん。この陰が気になるなぁ......。」
......ほーら、やっぱり!(意気揚々)
「これ、ちゃんと検査しよか。骨腫の可能性があるよ。」
......えっ?
「これ、いつからおかしなったんやったっけ?」
さ、3年程前からですが......。骨肉腫ですか?悪性なんでしょうか......(半泣き)。
「たぶん良性やと思う。悪性やったら、もうとっくの昔に死んどるし(笑)。」

で、手術は大学卒業後の春。
当時の身分は、今でいうフリーターである(涙)。

指の手術だからと気楽に構えていたし、手術そのものも大したことはなく、左手にギプスをして包帯でぐるぐる巻きにして固定して終了というものであった。
三角巾で左手を吊るのであったが、右手は自由に使えるし、俄か病人のような気分であったし、まだ世間知らずの若造であったから、病室にじっとしていることは無かったのである。
そんな私の様子をナースからの報告で上がっていたのか、明日は初めての部長(院長だったかな?)回診という前夜、突然、主治医が私のベッドサイドに来られた。

「なー、猫ぢぃ君。」
はーい、せんせー♪
「頼むから、明日の回診にはベッドにおってな(哀願)。」
は、はい。せんせー......。
「ええか。そん時は、病院支給のガウンに着替えておくんやで(目が真剣)。」
「(間髪を入れず)頼んだで。ほんまに、ええな(駄目押し)。」
あうあう......。

そして、当日。
ナースに引率された部長と思われる医師を先頭に、後ろには2列縦隊で10名程の医師団が続いて病室に入ってきた。その他大勢には当然私の主治医も入っている。
まず主治医と目が合うと、主治医がほっとしたような顔になったのをよく覚えている。

順番が私のところに来ると、その他大勢から私の主治医がぐいーんと前に出て、緊張の面持ちで部長に何やら説明し、部長はそれを聞いて主治医にこれまた何やら質問をしている。

「せんせー。今日は何食べに行きます?」
そうやなぁー。こないだのステーキは不味かったなぁー。
「そしたら、今夜は懐石にでも行きましょうか?(汗)」
その後は、どーすんの?
「も、勿論、綺麗で若い子が居るところにご案内しますし(大汗)」
うむ、そーしよう。
「はっ......!」

......んなことはないか?(笑)


何れにせよ、若造にはとても厳かな儀式に見えたことはよく覚えている。
回診が終わった時の主治医が見せた、質疑応答が済んだ時のホッとした顔、そして病室を出て行く際にニコッと笑い返してくれた顔だけは今となっても忘れない。

あの医師は、今何処で何をしているのでしょうか。



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