前田の算数

前 田 の 算 数  実 践 事 例
5年 「百分率とグラフ(割合)」
くじ引きゲームで「割合」の導入!

 【問題】
 Aの箱は、くじは全部で5個。
 そのうち当たりが3個。
 Bの箱は、くじは全部で8個
 そのうち当たりが4個。
 どちらの箱が当たりやすい?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1、「同じ割合」ってどういうこと?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「くじ引きをします」
そう言って、AとB、2つの箱を提示した。
オレンジ色のピンポン球が出れば当たり、白色が出ればはずれ。
くじは引く度に箱に戻すというルールである。
「AとBの好きな箱からくじを引いていいですよ」
と子どもたちに伝えると、「どっちを引こうかな」と子どもたちはざわめきだした。
箱の中に全部で何個の球が入っていて、そのうち何個が当たりかは、まだ内緒にしてある。

子どもたちに圧倒的な人気だったのはAの箱であった。
偶然にも最初にAを引いた子が立て続けに当たりになったからである。
子どもたちは、Aの方が当たりやすそうだと予想している様子であった。

そんな子どもたちに、
「実は、Aには当たりが3個、Bには当たりが4個入っているのですよ。」
と「当たりの個数」を告げた。
実は、Bの方が1個当たりは多かったのである。
「でも…」と、子どもはざわめきだした。
「当たりの数が多くても、当たりやすいとは限らないよ」というのである。
子どもたちは、
「だって、Aの方がはずれの数が多かったかもしれない」
「例えば、Aのはずれが1個で、Bのはずれが10個ならAの方が当たりやすいよ」
と、その理由を説明していった。



こうしたやりとりをしながら、
「当たりの数だけでは当たりやすさは決まらないこと」
を子どもたちと確認していった。



どっちを引こう?


Aが当たりやすそうだぞ…



当たりが多くても
ハズレも多かったら…


当たりの数だけでは、当たりやすさは決まらない。
それでは、AとBの当たりやすさが同じになるのはどんな時だろうか。
「AとBの全部の数がいくつなら、当たりやすさが同じになりますか」
そう子どもたちに問い掛けた。



ある子が「例えばAが6個でBが8個なら当たりやすさは同じだよ」と答えた。
どちらも当たる確率は2分の1になるからだという。
「Aが9個でBが12個でも、当たりやすさは同じだ」
と別の子が続いた。
どちらも当たる確率が3分の1になる。



中には
「Aが300個でBが400個でも同じ」
「Aが3個でBが4個でも同じ。どちらも絶対当たる」
など、極端な数値を例に挙げる子も出てきた。
つまりは、「同じ倍」になっていればいいのである。

ある子が「天秤にかけると分かるよ」とつぶやいた。
天秤にかけるとは、どういうことなのか、前に来て説明してもらった。
「例えばAが9個でBが12個なら…」と言いながら、くじ引きの図を次のように並び替えた。



どちらも当たりが1個に対してはずれが2個になる。


こうしたやりとりをしながら、「割合が同じ」とはどういうことかを、子どもたちと確認していった。

ここで、Aの箱のくじ引きが全部で5個だということを子どもたちに告げた。
そして、
「Bの全部の数が何個なら、当たりやすさを簡単に比べられますか」
と子どもたちに問いかけた。
子どもたちは、
「Bが5個なら簡単に比べられる」
と答えた。



「全部の数がそろっていれば簡単に比べられること」を確認した上で、
「だったら、いじわるをするよ」と言ってBの数を提示した。
Bの箱のくじの数は、全部で8個である。
『全部の数がそろっていない時には、どうやって当たりやすさを比べればいいのか』
それが今日の課題である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ここまで、箱の中身を少しずつ提示しながら、

 @当たりやすさは、当たりの数では比べられないこと

 A割合が同じとは、何倍かが同じであるということ

 B全部の数を揃えると簡単に比べられること

を子どもたちと確かめていった。
「くじ引き」を教材にするよさは、ここにある。
子どもたちに中身が見えないので、「当たりの数」「はずれの数」「全部の数」を、教師の意図によって小出しに提示していけるのである。

いきなり割合を比べる課題を与えては、子どもたちにとって、考えるための手がかりがなく、解決への見通しを持ちにくい。
仮に考えられたとしても、出てくる考えが多様に広がりすぎて、話し合いの焦点を絞ることが難しい。
そこで、まずは、「割合が同じ」とはどういうことかをじっくりと確かめていったのである。
ここで確認した知識が、その後、課題の解決に向かう際の武器になっていく。






天秤にかけると分かるよ

・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2、どうすれば比べられる?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 Aは、全部で5個。そのうち当たりが3個。

 Bは、全部で8個。そのうち当たりが4個。

 


「どちらが当たりやすいですか」
そう子どもたちに尋ねると、ほぼ全員がAに手を挙げた。
そこで
「Aの方が当たりすいと言える理由を説明しましょう」
と投げかけた。

ノートに考えを書く時間をとった後、話し合いの場を設けた。

ほとんどの子が、分数を使って当たりやすさを比べていた。
分数を使って比べようとするのが、1番自然なやり方であろう。
分数で表すということは、つまり、全体を1と見ることである。
分数のやり方をきっかけにしながら、「もとにする量を1と見る見方」に迫っていこうと考えた。

何人かの子を指名し、その考えを説明してもらった。
「Aは、5分の3の確率で当たります。Bは8分の4の確率で当たります。5分の3と8分の4を通分して比べました。Aが10分の6で、Bが10分の5だから、Aの方が当たりやすいよ」
と最初の子が説明し、
別の子が
「つまり、どちらも10回やるとしたら、Aは6回でBは5回当たるってことだよ」
と付け足した。
全部の数を10にそろえた考えである。

さらに、別の子が説明しながら、次のような線分図を黒板にかいた。



全部の数を1にそろえた考えである。
この「そろえる」というのが、大切なキーワードとなる。



こうして分数についての説明が続く中で、
「小数でも比べられるよ」
と一人の子が手を挙げた。
「5分の3は、3÷5で0.6、8分の4は4÷8で0.5になるよ。Aは0.6でBは0.5だから、Aの方が当たりやすい」
というのである。



分数を小数に直す方法は、既に学習している。
5分の3が0.6になり、8分の4が0.5になることについては、みんなも納得した様子であった。

ここで、
「3÷5=0.6ってどういう意味?」
と子どもたちに尋ねた。

「3÷5」は、全体を1と見て、当たりがその何倍になるかを求める式となっている。
ただし、そのことを子どもが意識しているかというと、そうではない。
あくまでも分数を小数に直すために「3÷5」をしたに過ぎない。
ここで、子どもたちに「3÷5=0.6」の意味を問うことで、
当たりが全体の「何倍か」を求めていることに気付いてほしいと思ったのである。

既習の「倍のわり算」の学習を想起させ、
3÷5の意味を尋ねた。



子どもたちは、
「当たりの数を全部の数でわれば、何倍かが分かる。
つまり、3÷5は、全体の何倍にあたるかを求める式だよ」
と、式の意味を理解していった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3、よりよい方法は?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


分数による表し方と小数による表し方の2つのやり方が紹介される中で、
「分数の方がいいよ」「小数の方がいいよ」という声が聞こえてきだした。
子どもたちの「問い」が答えの求める「問い」から、よりよい方法について考えようとする「問い」へと変容していったのである。

そこで、
「もしも似たような場面があったら、分数と小数のどちらを使っていきたいですか」
と、みんなに問いかけた。

分数で表したいという子が
「小数だと1÷3=0.333…のように、割り切れない時がある」
と発言すると、小数で表したい子が
「完全な小数にならなくても、比べることはできる。
例えば、0.33333…と0.34なら0.34の方が当たりやすいよ」
と反論した。
正確性という視点からの考えである。

分数で表したい子が
「小数だと計算が面倒だ」
と発言すると、小数で表したい子が
「今は2つの箱だからいいけど、分数だと、もしもたくさんの箱を比べる時に通分が大変になる。」
と反論した。
いつでも使えるか一般化を図る考えである。

その他にも、小数で表したいという子からは、
「小数だと、ぱっと見てすぐに比べられる。分数だとどのくらいの大きさかをイメージしにくい。」
「正確に表す時は分数だけど、大きさを比べる時には小数の方がいい」
という意見も出てきた。
明瞭性、簡潔性という視点からの考えである。

よりよい方法を求める中で、
「正確なのは?」
「簡単なのは?」
「明瞭なのは?」
「いつでも使えるのは?」
という「問い」が生まれていった。
「問い」の質が高まったのである。

話し合いを進めるうちに、子どもたちの考えは、小数で表すやり方に傾いていった。
小数だと、箱の数が多くても一目で比べられるという理由である。
そこで、実際に箱の数を5個に増やし、どれが1番当たりやすいかを比べる場を設けた。



やってみると、小数だと箱の数が5個に増えても、1度に比べられた。
子どもたちは、自分たちで考えたやり方が、「使えた」という喜びを味わっている様子であった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 4、おわりに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「割合」の導入の授業では、多様な考えが発表されるものの、それぞれの考えを理解するのに時間を費やしてしまい、肝心の「もとにする量を1と見て、その何倍かで表す考え」に辿り着けないという難しさがある。
 本授業では

@ まず、「割合が同じ」とは、どういうことかを明確にしておく

A 分数をきっかけに、「もとにする量を1と見る考え」に迫る

B 比べる対象の数を増やすことで、小数で表すよさに迫る


という3つの手順で授業を行うことで、確実にねらいへ到達できるように工夫した。



指導案(PDF)

紀要(PDF)

算数コラム「割合、公式を丸暗記でいいの?」


TOP