知識の流通経路を確保せよ(上)

続・「共有」という所有方

 

 

はじめに

NapsterやGnutellaなどの共有ソフトが最近ますます注目されている。これらのソフトの普及によって著作権のあり方そのものが崩壊してしまうのではないか?(1)という意見まで出現しているほどである。NapsterやGnutellaは現在のところ違法MP3や幼児ポルノなどの違法ファィルのやりとりばかり注目されているが、これらの「ファイル共有」ソフトは使い方によっては現在の検索システムをのあり方大きく変化させると共に(2)ネット上でのコミュニケーションのあり方まで変えてしまう可能性がある。しかし、Gnutellaなどの共有ソフトはインターネットに革命を起こす可能性を持ちながら現在は主に違法コンテンツを交換するためのソフトとして機能してるのも事実である。 (3)

ところで、私は「共有という所有方法」(4)の中でGnutellaNapsterを「ファィル交換型」とし「検索バディ!」などを「コメント(知識)共有型」と名付けお互いを区別した、これはGnutellaなどの「ファィル交換型」はMP3などのファイルを直接交換するのに対し「検索バディ!」などの「コメント(知識)共有型」は検索結果のコメントやweb上の貼られた付箋、または不特定多数に向けて公開された自分のブックマークなどを共有する事でより良い情報を互いに得る事ができるシステムである。

私は「ファィル交換型」と「知識共有型」の融合により、「共有ソフト」がブラウザ、IMに続く、第3のキラーソフトになる可能性があると考えている。もし「コメント(知識)共有型」の特徴と「ファイル交換型」の特徴を併せ持てば、ICQ以上の衝撃をインターネットに与える可能性もある。今回は「共有ソフト」が「知識(コメント)共有型」と「ファィル交換型」が融合した時どのようなソフトが登場するか考えてみたい。

完全な共有ソフトによってより深いコミュニティが誕生する。

現在、様々な「コミュニテイサイト」が誕生し運営されている。 それらは、掲示板であったり、メーリングリストであったり、チャットという形態を であるかもしれないが、特定の情報に興味がある人達が集まり様々な情報を交換 するのに使われる。最近はポータルサイトにも掲示板を設置したり、掲示板を検索する ガイド的なサイトも登場したり、メーリングリストを無料で開設できるページが登場するなど、企業が戦略的に「コミュニティ」を使う事も一般的になってきた。さらにメールや掲示板の他にも、登録しておいたユーザーがオンラインかオフラインか判別する事ができ、相手にメッセージを送ったり、ファィルを転送できるiCQや、ページを見ているユーザー同士でチャットができるgooeyなどIMと呼ばれる、メッセージソフトがコミュニティ形成に使われるようになってきた。

IMが掲示板やメールと大きく異なる点は、掲示板やメールがのやり取りは ある程度の時間差が生じるのに対し、IMはチャット感覚でリアルタイムで メッセージのやり取りができる点だ、しかもICQはファィル転送機能があるので 相手とメッセージの交換をしている時、相手が欲しい情報(ファィル) をこちらが持っている場合は瞬時に相手に送る事ができる。掲示板やメールの場合 は相手が情報を送ってくるまである程度のタイムラグが生じ、リアルタイムで情報をやりとりするのは難しい。また、gooeyは自分が興味があるページを同時に見ている不特定多数のユーザーがチャットをするソフトでgooeyを使っている人間なら、掲示板やチャットを設置していなくとも、どんなページでもチャットと情報交換ができる「コミュニティサイト」にしてしまうソフトである。これらのIMに登場によりタイムラグがあったコミュニティはリアルタイムで使えるようになり、IMさえあれば掲示板という限定された空間を越えて「コミュニティ」を形成する事が可能になった。

しかし、これらのIMソフトはファィル転送機能や情報の共有という点ではいくらかの問題があった。 例えば、あるニュース記事でより詳しく知りたいと思った場合、自分のチャット仲間やよく投稿している掲示板などで自分の知りたいニュースの詳しい情報が得られない場合、 自分で検索エンジンやリンク集を駆使して探さなければならない。しかし検索エンジンを駆使しても膨大に膨れ上がったwebから自分の欲しい情報は難しくなっている。(5) また、ニュース記事など比較的具体的な情報ならば良いが抽象的なキーワードで自分の欲しい情報を探すのはかなり難しい、 例えば、検索エンジン上で「まったりしてるページ」や「おもしろいページ」などと入力しても自分にとって「おもしろいページ」や「まったりしてるページ」が見つかる確率は非常に少ないだろう。 IMは掲示板などの空間的な制約を超えて「コミュニティ」を形成する事が可能になり、リアルタイムでのコミュニティを確率する事ができたが、価値ある情報を共有し「コミュニティ」を広げたり、深化させるにはIMだけでは難しい状態だった。

では、互いの情報共有を進めより深いコミュニテイを形成するのにはどうしたら良いのだろうか?私はより深いコミュニテイ形成には「共有」ソフトの要素が必要になってくると考えている。「共有」ソフトの特徴である「知識」とソフトを共有にする事によって、今まで以上に深いく広いコミュニテイが形成されると考えられる。

私は前回のレポートでGnutellaや検索バデイ!など、自分の知識や所有しているファイルを共有する事ができるソフトを「共有ソフト」と呼び。さらにGnutellaやNapsterなどMP3ファイルなどを共有するソフトを「ソフト共有型」とし、検索バディ!、blink.comなどを「知識(コメント)型」として区別した。 現在はその影響力からかGnutellaなどの「ソフト交換型」が大きな話題となっているが、私は「共有ソフト」がブラウザ、IMに続く第3のキラーソフトになるには「共有ソフト」が「ソフト交換型」だけでなく、「知識(コメント)共有型」と融合しなければならないだろうと考えている。 理由としてはまず自分の欲している情報のナビゲーションがGnutellaなどのツールだけでは不十分だという点である。確かにGnutellaは恐ろしく協力なツールである。インターネットに接続した状態でGnutellaを使用すれば膨大な数のファイルを検索する事ができる。しかし、膨大なファイル数によってGnutellaは現在の検索エンジンと同じ症状、すなわち膨大なヒット率から目的のファィルを見つけなければならなくなる。 しかも検索する時、具体的なキーワード(音楽データなら曲名や歌手名など)がわかっているのなら膨大な数のファイルからも検索する事が可能かもしれないが、前述した通り非常に抽象的なキーワードで自分の目的の情報を得る事は非常に困難だ、 全webの2割弱しかカバーできていないのにもかかわらず膨大な数のサイトがヒットしてしまう現在の検索サイトの状況を見れば、様々なファイルが検索できるようになった「ファイル交換型」ソフトの検索結果がどのようになるか火を見るより明らかだ。

では「ソフト共有型」の共有ソフトはどのようにしたら、上手く情報をナビゲートできるのだろうか?それは「知識(コメント)共有型」ソフトとの融合である。 例えば、bink.comは自分のブックマークを共有し、公開する事ができるサイトである(6)。もちろんブックーマークを公開するだけでなく、登録されたブックマークをデータベース化し、そのデータベース化された情報をユーザが検索できるサービスであり、さらに関連するサイトを検索できるという。従来の検索エンジンの2つの方式では様々問題があった。例えばYahoo!のようなディレクトリ方式だとホームページを登録するサーファーの数を増やさなければならないし、ロボット方式だと最新の検索アルゴリズムを使用しなければならない、しかも両者とも検索するキーワードをあいまいなものにしてしまうと、膨大な数のサイトがヒットしてしまう。 しかし、blink.comのようなブックマークの共有方式の場合、ユーザ自身が 登録するため、Yahoo!のようにたくさんの人間を使ってホームページを登録する必要もなく、しかもユーザが実際に使用しているページが登録されるためにロボット方式のように検索した時に膨大なページがヒットする事も少ない。 これからは個々人の持っているブックマークの情報を公開する事でより良い情報を得る事が可能となる。自分の持っている情報を提供する事でネットワーク全体の知識の提供を受けられるのならば、よろこんで自分のブックマークを公開する人がまたでで来る。(7)それが大きくなってblink.comなど「共有」サイトはますます大きくなってくるだろう。 しかも、登録されるブックマークは使用するユーザー自身によって整理されているため 数が膨大になっても、従来の検索サイトのように膨大なヒット数が表示される事もない。

また、「知識(コメント)共有型」の要素を持っているのはblink.comだけではない。 例えば「検索バディ!」というソフトはキーワードを入力して[検索]ボタンを押せば、検索サービスでそのキーワードを検索し、結果が表示される。と同時に、「検索バディ」のウィンドウ上では同じキーワードで検索した人達からのコメントやお勧めサイト情報が、 表示される。 さらに表示されたコメントの中で気に入ったものがあれば「投票」できる、つまり同じコメントでも投票数が多ければ多いほど「役に立つ」コメントという理由である。 今までの検索エンジンでは検索結果とヒット率しか表示されなかったが、この検索バディ!を使えば、コメントからより有益な情報を得る事ができる。 このソフトもお互いにコメントを「共有」する事によって、膨大な情報の中から自分とって価値のある情報を見つける手助けをしてくれるソフトである。

GnutellaやNapsterなどのソフトは確かに自分好きなMP3ファィルなどの情報を得る事ができるかもしれないが、いずれ検索する対象が大きくなり現在の検索エンジンのような同じ状況になったりその情報の関連情報がまったく表示されず、コミュニティを今以上に深化させるには「ソフト交換型」と「知識(コメント)共有型」の融合が必要不可欠になると考えている。またこの二つが融合した場合より「深いコミュニティ」以上のインパクトが起こると考えている。それは関心のある情報を自分の代わりに集めてくれるエージェント機能と自分の好きな情報を好きな時に呼び出せる「オン デマンド」機能である。「ソフト交換型」と「知識交換型」の融合によって「エージェント機能」と「オン デマンド」機能がどのように形成されるかを考えてみたい。

知識の流通経路を確保せよ!(下)

 


 

関連リンク

(1)NapsterとGnutellaの登場で「著作権の時代」が終わる?
http://www.zdnet.co.jp/news/0004/24/arnold.html

(2)Web検索に革命を起こす? 「Gnutella」を引き継いだプログラマーが語る強化計画
http://www.zdnet.co.jp/news/0004/17/gnutella1.html

(3)広がる「Gnutell」の波紋――幼児ポルノが横行,ポータルにも脅威?
http://www.zdnet.co.jp/news/0004/14/gnutella.html

(4)「共有」という所有方法
http://orion.mt.tama.hosei.ac.jp/seminar/kozai/000409kyoyuu.htm

(5)検索エンジンは、本来の“検索機能”を強化すべき〜ユア・ブレイン調査
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0426/ybrain.htm

@ユア・ブレイン 「検索エンジン利用に関する意識調査 http://www.yourbrain.co.jp/shukei03.htm

(6)ブックマークをベースにしたオンラインコミュニティーを構築−−Blink.comのガロンCOO
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue/2000/0502/srvc01.html

(7)米blink.comのCEOデビッド・シーゲル氏によれば、「ネットワーカーは、自分の知識をほかの人と共有したいという意識が高く、75%の会員が情報を公開している」との事。

ヤフー脅かす異色サイトが日本上陸--米ブリンク・コム
http://biztech.nikkeibp.co.jp/wcs/show/leaf?CID=onair/biztech/inet/95418



00/05/05

作成・横田真俊

協力・梅田 英和

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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