デジタルテレビの大津波(上)

00/02/10

作成・横田真俊


a デジタル放送の問題点

 

「はじめに」でも書いたとおり、デジタル放送の可能性にはまだ不透明な部分が多い、インターネット上のストリーミング放送が(1)本格的になれば多チャンネルというメリットも失われるし、ドラマの主人公を演じるタレントの情報や身に着けているグッズなどの情報を表示する。双方向的なアプローチも一つのコンテンツに対し情報量が膨大になるためテレビ局が用意するのは難しい。

また、デジタルテレビの便利な機能も時には新たな問題を引き起こす事がある。例えば「TiVo」や「Reply Network」に代表される、ハードディスクレコーダーの登場である。これは、好みのタレントや番組のジャンルなどを登録し該当する番組をハードディスクに記録したり、番組を録画しながら一時停止や巻き戻しができる、将来は現在のビデオデッキに取って代わると期待されている商品である。

しかし、この商品の登場によって、今までのテレビ放送のようにCMを流す事によってテレビ番組をタダで見られるような仕組みが崩れてしまうかもしれい。なぜなら、このようなハードディスクレコーダーは極めて高度な「CMカット機能」か付いているからだ、今までのビデオデッキもCMカット機能がついていたが、デジタル放送でのテレビの視聴の仕方と今までのテレビの視聴と仕方とは明らかに大きな違いが出てくる。詳しい事は次章の「b デジタル放送とインターネットの融合」で述べる。

さらに、データ放送による双方向通信が可能になれば、今までのテレビよりもはるかに多くの情報を表示する機会が多くなる。それにともないテレビの機能も今とはくらべほどにならないくらい複雑になるだろう。

「第一段階 情報、AV機器の融合」でも述べたとおりこのような複雑になる機能をコントロールする「リモコン」には携帯電話やPDAなどのモバイル情報端末が利用されると考えられる。これらのモバイル情報端末をただの「リモコン」だけでなくデジタルテレビの情報をモバイル情報端末でも利用できれば情報をテレビで表示できるだけでなく様々な場所で利用できるようになる。詳しい事は「c モバイルとの融合」で述べる。

また、デジタル放送は地域社会に大きな影響を与える可能性がある。
今までは、民放キー局は全国放送を実現するために、各地のローカル局とネットワークを形成し、番組供給を行うと同時に、電波料としてのネットワーク配分金を支払ってきた。ところが、民放キー局がBS放送への参入を果たすことにより、一波で全国をカバーできるようになるため、民放キー局のネットワークにローカル局は必ずしも必要なくなってしまった。また、地上波もデジタル化する事により、デジタルネットワークの整備を行うことになる。これはローカル局にとって思い負担だ。(3)

ではどうしたら良いだろうか?答えの一つにやはりインターネットがある。例えばローカル局がプロバイダーになり、その地域のポータルを構築すれば、その地域において大きな情報基地になりうる。これらについては「d ローカルとの融合」で考えたいと思う。

さて、今までのデジタル放送の問題点を整理したいと思う。

  1. 多チャンネルといってもインターネットほどではない。
  2. 双方向のCMや番組はたしかに魅力的だが、作るには情報量が膨大になる。
  3. 今までCMベースで考えられてきたモデルがハードディスクレコーダーによって通用しなくなる。
  4. 情報が「テレビ」だけで終わってしまい、モバイルとの連動が考えられていない。
  5. 地域のコミュニティを考える上で重要な地域メディアが生き残れない可能性がある。

今回のレポートはこれらの点を中心にディジタル放送が与える影響を考えていきたい。

b インターネットとの融合

デジタルテレビのデータ通信がどのようになるとしても、インターネットとの融合はさけられない、最近まで「インターネットは能動的なメディアであり、テレビは受け身的なメディア」などと言われテレビとインターネットは相性が悪いと思われていたが実はインターネットとテレビは非常に相性が良いメディアであるという事わかってきた。日経BP社が行ったアンケートではWWWの利用と同時に行われる動作で最も多いのが「テレビをつけながら(40.6%)」という結果が出ており、「パソコンとテレビを同じ部屋に置いている」と回答した人も約6割にものぼることを挙げている。(4)

事実、このようなインターネットとテレビとの融合は着々と進んでいる。
例えば、最近ではテレビをインターネット上の電子テレビ欄(EPG)(5)を使ってハードディスクに録画できるパソコンや録画しながら巻き戻しや一時停止ができるHDビデオレコーダーが開発されている。これらが進化すれば、自分の好みにあった番組を自動的に録画してくれたり、好きなタレントが出ている番組をすべて録画してくれるようなシステムも開発されている。

しかし、このようなHDビデオレコーダーには問題がいくつかある。まずは記録できる時間の問題だ。現在のハードディスクの容量では満足できる時間を録画する事はできない。27Gのハードディスクで大体高画質で6時間、標準の画質では12時間しか記録できない。「好きなタレントが出ている番組をすべて録画する」などという事は、現時点ではほとんど不可能だ。

もちろん、ハードディスクの性能は驚くべきスピードで伸びている。(6)あと数年もすればハードディスクの容量も今とは比べものにならないくらい増大し録画に十分な容量を確保する事もできるし、記録メディアもDVDに移行すれば高画質な映像を記録する事ができる。

しかし、問題はこれだけではない。より大きな問題はハードディスクビデオレコーダーにはCMスキップ機能がついているという事だ。現在、NHKを除けば民放各社はまだCMベースのビジネスモデルを適用している。ハードディスクレコーダに完全なCMスキップ機能がつけば今までのように、CMベースのビジネスモデルは完全に破綻する。

「現在もCMスキップ機能がついたビデオデッキが売られているのだから、たいした問題にはならないのでは?」という意見もあると思うが、現在のアナログ放送のテレビの見方とデジタル放送のテレビの見方は大きく異なる。

現在のアナログ放送はチャンネルの数が少なく、見る番組もある程度限定される。そのような状態でビデオを使うのは、ある特定の番組が見られない時などで、ビデオを使ってテレビを見るよりも普通にテレビを見る方がはるかに多かったが、多チャンネル化するデジタル放送ではハードディスクに蓄積された映像の方をより多く見る事になるだろう。もしハードディスクレコーダーに高性能なCMカット機能が搭載されれば、CMを見られる機会を大幅に失う事になる。CMカット機能をハードディスクレコーダーから削除してもCMを早送りで飛ばされてしまう恐れがある。

ではどのようにすれば、コンテンツを提供する側もされる側も納得するような放送ができるのであろうか?これにはいくつか方法がある。

まず一番簡単に料金を徴収できるモデルとしてコンテンツをペイパービュー方式にする事があげられる。しかしこのモデルは特別なコンテンツ(公開されて間もないハリウッド超大作映画など)以外には適用しづらい、一般的な番組には別な方法を考える必要がある。

次に考えられるのは、コンテンツとCMを同時に流すことだ、しかしこのモデルを採用すると、CM側としては音声が表示されないなどの制約が出てくるし、コンテンツ側としても画面の表示が小さくなるなどの問題がある。このような方法が適しているのはPDAなどの情報端末でコンテンツを提供する場合であろう。これについては後で述べる。

3番目の選択肢としてコンテンツのほとんどをインターネットに移しストリーミングで提供するという事も考えられる。まず、通常は自分の好みにカスタマイズされたプログラムで放送を提供する。これはあらかじめ、自分の趣味や好みの番組をあらかじめ登録しておき、放送する側はそれに合わせた番組表を作り視聴者にネットを使ってそれを送る。視聴者はもし自分用にカスタマイズされた番組を見て気に入らなかったら、自分でコンテンツを探す事もできる。

ここで重要のはハードディスクに録画する必要性をなくすために、完全なオンデマンド方式を確立する事だ。完全なオンデマンド方式になれば、視聴者とすれば、番組をいつでも見られるようになるし、先に自分の好きな番組を登録しておくことで、むやみに番組を探すことはない。また、オンデマンドでいつでも好きな番組を見られるようになれば録画をする必要がなくなる。番組を提供する側もこのような方式になれば番組を録画されなくなるのだから、CMを必ず見てもらえるし、双方向的なCMから、詳細な商品情報にナビゲートできるかもしれない。しかも、見ている人間がどのような事に興味があるかわかっているのだから、効果的なCMを流すことができる。(さらに、「巻き戻し」や「一時停止」ができても、「早送り」ができないようにしておけば、確実にCMを見せる事が可能だ。)

ここで問題なるのが「オンデマンドで流すだけのコンテンツがあるのか?」という事だ、当然過去に流した番組を再び流す事は当然だとしても、それ以外の番組はどのように調達するかが問題となる。どこから調達すれば良いのか?答えは簡単だインターネットでストリーミング方式でながれているリッチコンテンツを利用すれば良いのである。

今後、テレビ局はオンデマンドで提供するためのコンテンツ(特にインターネット上のストリーミングメディア)を集めなければならなくなる。どのように集めるかは様々な方法があるが、広く集めやすい方法として、個人が撮った映像やアマチュアからの映像をアップできるサービスを始めれば比較的容易に集まるだろう。(6)

「個人レベルの映像をどんなに集めてもあまりコンテンツとしての価値がないのではないか?」という意見もあると思うが。個人的なコンテンツでもやりかた自体では魅力的なコンテンツになる。たとえば、あるカップルの結婚式の映像があったとする。ほとんどの人はまったく興味もないし、他人の結婚式のどうでもよいと思う人が大半だ。

しかし、これらの映像も使い方によっては魅力的なコンテンツに変化する。たとえば、結婚式の映像の中でも印象的なものを選び編集し、これから「結婚式」するカップルに提供すればどうだろう?さらにそのコンテンツに結婚式のプランの見積りや割引サービスなどを双方向でやりとりできればりっぱな「番組」になる。アマチュアレベルでも、それらを集め上手く編集すれば立派なコンテンツとなる。(9)

また、このような個人映像が集まるサイトに、編集ソフトや機材のオンラインショッピング、チャットなどを提供すれば、コンテンツを集めるサイト自体も「個人ビデオのポータル」となる可能性も秘めている。(7)

もちろん、このようなニッチ向けコンテンツだけでなく、一般的なコンテンツも重要だコンテンツを提供する側は今からできる限り多くコンテンツ(またはコンテンツとなり得るもの)を集めなければならない。数少ない競争相手と「視聴率」をめぐって戦っていた時代は過去のものになりつつある。これからは「見ている人間」が少なくとも、やりかたによってはビジネスになる時代がそこまで来ている。(8)

 


関連リンク

(1) 北米のインターネット通信,1カ月あたり35万Tバイト,ストリーミングが10%より
http://bizit2.nikkeibp.co.jp/wcs/usn2/article/20000120/11.shtml

(2)「崩壊する"テレビ局の不倒神話"[要旨]」によればローカル局には厳しい現状が待っている
http://www.sakura.co.jp/sir/report/r_econom/00020104.htm

(3)“テレビを見ながらネットサーフィン”が今風のスタイル?より
http://www3.nikkeibp.co.jp/MA/guests/release/990408inet.htm  
また、アメリカでも「テレビを見ながらWWWを閲覧する人間」が増えている。

(4)このようなEPGは各社共通ではないが、ソニーがインターネット経由の録画予約方式「iEPG」を業界に提案している。
http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/article/20000117/sony3.htm

(5)「1年半毎にプロセッサーの速度は倍になり、サイズは半分になる」というムーアの法則はあまりにも有名だが、ハードディスクの容量はムーアの法則以上の勢いで進歩している。
http://www.alles.or.jp/~dando/backno/991111.htm

(6)このようなサービスをすでに始めたところもある。
http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/3610.html

(7)そのようなサイトを作っても個人がビデオを撮影したり編集などしないのではないかという意見もあると思うが。appleのスティーブ・ジョブズCEOはビデオ編集ソリューション「iMovie」のプレゼンテーションで、発売されて90日しかたっていないにもかかわらず、iMac DVユーザーの10%はiMac DVを使って映画を制作したことがあるとし、「iMovieは、非常に大きくなる。これは、キラーアプリだ」と述べている。 また、「Windows98 SE」の後継機「Windows ME」でもデジタルビデオ編集アプリケーション『Movie Maker』が付属する。パソコンに標準でこれらの機能がついていれば、ビデオ編集を目当てにパソコンを買う人も出てくるだろうし、初めからビデオ編集の機能がついていれば、はじめは興味がなくともやがて「ビデオ編集」に興味を持つ人間が現れるだろう。
http://cnet.sphere.ne.jp/News/2000/Item/000209-1.html?rm

 

(8) テレビとインターネットとの間で「コンテンツ」をめぐる争いはこれから激化する。新しいコンテンツを集めたり、今までの「番組」を保護する動きが日本でも活発になるだろう。
「Web放送界のロビンフッド? 米メディア大手の神経を逆なでするiCraveTV」
http://www.zdnet.co.jp/news/0002/09/icrave3.html

 

(9)もちろん、このような「個人」の物の取り扱いには十分注意しなければなせらない。

アップル、苦情を受けて『iTools』契約書を改訂
http://cnet.sphere.ne.jp/News/2000/Item/000208-2.html?rm


 

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