<act.15> フリックとマイクロトフと共に。 ナナミが執務室に入ろうとしたその時。 扉が向こう側から開けられた。 「きゃっ!」 「えっ?!」 驚いて後ずさったナナミの前には、同じように驚いた顔をしたヤマトが立っていた。 そしてその後ろにはもっと驚いた風なビクトールとカミューが。 「ナナミ?!」 「え…と、その…ヤマト…」 「ごめん!!!」 「ごめんねっ…!!」 ナナミと、ヤマトが同時に頭を下げた。 そして。 そろそろと顔を上げて。 お互いの顔を見詰めあって。 罰が悪そうに、小さく笑いあった。 「ヤマト…泣いてたの…?」 ヤマトの赤くなった目元を見て、ナナミが心配そうに手を伸ばした。 そっと頬に触れて、目元を拭う。 大人しくされるままになっているヤマトも、気付いて問う。 「ナナミこそ…泣いてた?」 「…うん…ちょっとだけね。」 お互いが、泣いてた事を知って。 お互いが傷付いてた事を知る。 「でもね、もう大丈夫なの。」 フリックさんに慰めて貰ったから。 そう言ったナナミの言葉に、ビクトールとカミューの視線がフリックにと刺さる。 信じられない、というその視線に、フリックが憮然として二人を睨み返す。 「うん、僕も、ビクトールさんに慰めて貰ったんだ。」 名を出されたビクトールの、その腕も出される。 そしてヤマトの頭に置いて。 「さあ、もう仲直りだろ?だったら、飯でも食いに行かねぇか?」 「うん!」 「お腹空いたね!私、待ってたんだよ。」 ビクトールの提案に、子供達の顔がぱっと明るくなった。 そしてそれを見守っていた大人たちの顔も。 「行こう!」 「うん!!」 ナナミが、ヤマトの手を取る。 そして。 レストランへと一目散に駆け出した。 それを見送って、ビクトールが言う。 「まさかお前がナナミを慰めらるたぁなあ…」 「なっ、何だよ?!そのくらい俺だって…っ!」 言われたフリックが、むっとして声を荒げる。 「まあまあまあまあ。我々も食事に行きませんか?」 その間に、素早くカミューが割り込んでにこやかに告げた。 「あ、うん…」 「そうだな。すっかり腹が減っちまったぜ。」 カミューの笑顔には逆らい難い何かがある。 その笑みを向けられた二人は、にべもなくその提言に肯かされた。 「じゃあ、行こうぜ。」 ビクトールが、皆を促し、歩き始める。 その背に、フリックが。 「ビクトール…あのな…っ!」 「ん?」 肩を掴んで、振り返らせる。 その、反対側の腕を。 「え?」 がつ、とマイクロトフが力強く掴んでいた。 険しい、表情をしている。 「フリック殿、ちょっと宜しいですか?」 「え・・・?あ、ああ…?」 何事かと驚きで目を見開いたフリックが、肯いた途端。 「…て、おっ!おいっ?!!」 マイクロトフは猛然とした勢いで、フリックの腕を掴んだまま歩き出した。 腕を引かれたフリックは、何が何だか解らないという表情だ。 ビクトールの肩に置いた手が、するりと離れる。 その手を。 ビクトールは掴もうかと一瞬思って。 けれどやめる。 そして。 遠ざかる、何か言いた気なフリックの瞳から目を逸らした。 あっという間に視界から消えた二人を見送って。 カミューはふうと溜息を吐いた。 そして、ビクトールを見る。 苦い顔で、フリック達が消えた方を睨んでいる。 「…気になりますか?」 その、問い掛けに。 びくりと体を揺らがせて。 ビクトールはカミューを見た。 「ああ?ならねぇよ。」 「そうですか?」 伺うようにしてカミューがビクトールを覗き見る。 「私は、気になりますけどねえ…」 言った後、今度は先程までビクトールが見ていた方に顔を向ける。 「……」 「……」 暫し沈黙があった後。 ふいとビクトールが歩き始めた。 カミューが穏やかに訊く。 「どちらへ?」 「決まってんだろ!!」 背を向けたまま、ビクトールが吠えるように答えた。 「めし!!!!さっき食いに行くっつったろーがっっ!!!」 「ああ、でしたね…」 ずんずんと怒ったように歩くビクトールを追って、カミューもまた歩き出す。 そして、ふっと笑う。 自嘲気味に。 「ほんとは…気になるどころか、邪魔しに行きたいくらいなんですけどね…」 その声は低く小さくて。 ビクトールには聞こえたか聞こえなかったかは解らなかった。 |
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