雪合戦



真剣勝負


大雪が降って軍師の命令で城中全員雪かきにかり出された。
せっかくの休暇が台無しだ。
しかも屋上と屋根、という雪の深いやっかいなところを割り当てられた。
「しかたないだろ熊なんだから」
しっかり励めよ、と、冷たく言って、いつもにまして重装備のフリックは中庭に向かっていった。
そこが担当であるらしい。
屋上から見下ろすと、手伝うふりをして小娘がじゃれついている。
腹が立った。
ので、雪をひとかきして、小娘の頭に降らせた。すぐに罵声が返ってきた。
「何をする!この莫迦熊!」
・・・自分の相棒は運が悪いのを忘れていた。
小娘を狙った攻撃はあの男が全部かぶったらしい。
隣で小娘が舌を出している。
「降りてこい卑怯者!」
「おう!」
呼ばれたからには行かないとな。
道具を放り出して手すりを乗り越えた。
雪が積もってるから大丈夫だろう。

「だからっていきなり降ってくるな莫迦!」
「お前が来いって言ったんだろー」
再会のちゅーをしようとしたら雪のかたまりを投げつけられた。
よけた。
男は眉を寄せた。
「・・・何でよけるんだよ!」
子どものように地団駄を踏んでいる。
「俺様はどっかの間抜けな青いのとは違うんだよーん」
「このっ・・・!」
怒ったらしい。
雪玉がぽんぽん飛んできた。
全部よけた。
何せ隣でせっせと雪玉を作って渡しているのはあの小娘だ。中に何が入っているかわからん。
「く・・・!」
それがますます男の気に触ったらしい。攻撃が激しくなった。

「なあにー?雪合戦ー?」
リーダー姉弟が寄ってきた。
男がぎゃあぎゃあ騒ぐので中庭で雪かきしていた人間の注意を引いてしまったようだ。
「よし!お姉ちゃんはニナちゃんの味方につくからあんたはビクトールさんの方に行きなさい!」
それが平等というものよ、とナナミが言うと、忠実な弟はこちらに走ってきた。
「そっちのが一人多いじゃねえか!」
「大丈夫ー!」
ナナミが言うので振り返ると、リーダーの隣でアイリがいそいそと雪玉を作っている。
これは心強い。ナイフ投げの名人らしいからな。
「あの小娘に当ててやれ」
「うん」
投げた雪玉は見事にフリックを直撃した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ま、当たったからな」
よしとしよう。よけられないフリックにも問題がある。
ねらいはともかく誰かには当たる名人のおかげで、戦況は有利に進んだ。

「覚悟しろ!」
しまった。いつのまにか四方八方から狙われている。
あわててそのへんで遊んでいたピリカを抱えて目の前に突き出した。
「・・・・・・くっ」
フリックが唇を噛んだ。
一同がひるんでいる隙に、いつのまにかできていた雪の防壁に逃げ込んだ。何だか本格化しているようだ。
「子どもを盾に使うなよ!」
「勝負の世界は非情なのだ!」
はっはっはっ、と笑うとピリカがうるさそうに耳を塞いだ。
「おお悪かったな」
離してやると元いた場所に戻っていった。雪だるま作成に励んでいるらしい。
後であっちも手伝ってやることにしよう。
さっさと勝負をつけるか。しかし戦場は拡大する一方で、しばらく収拾がつきそうになかった。

雪かきの道具を抱えてマイクロトフが姿を見せた。自分の持ち場を終えて、他の場所も手伝おうという様子だ。まじめなことだ。
しばらく状況を観察していたが、すたすたとフリックの方に歩み寄った。
「・・・助太刀しましょうか」
騎士道精神にのっとって戦況の不利な方につくらしい。そうなると今度はこっちが不利だ。
「そっちばっかりずるいじゃねえか!」
「それじゃあカミューはそちらに、」
「何で私が・・・」
こっそりと引き上げようとしていた赤騎士は、相棒に逆らえずにこちらの防壁に潜り込んだ。
あまりやる気はないようだ。戦力外だな。
しかし敵陣営の青騎士も、雪玉を見つめてかたまっている。おおかた誰を狙うべきかとか、雪玉はこれで固すぎないかとか考え込んでいるのだろう。
雪かきをさぼっていたチャコが空から見下ろしている。
こちらは有利な方につこうと戦況を見定めているようだ。あいつがこっちにつけば空から攻撃できて楽だな。
むささびも味方につけたら有利なんだが、と視線を動かして、そこらを楽しげに飛んでいるのを見つけた。あんまり興味がないようだ。
さらにその先、窓の内側で、軍師が難しい顔をしているのが見えた。
・・・さぼってるのがばれたようだ。
まあアップルがうまくとりなしてくれるだろう。
結局中庭の雪が尽きるまで雪合戦は続き、結果的に雪かきしたのと変わらなくなった。
あとにはピリカ作の雪だるまだけが仲良く並んでいる。
こういう戦争ならいくらでも続いてくれて構わないんだがな。

平和だなあ…




暖かい部屋に戻って一息ついて、飲みにでも行くか、とフリックを見ると、不機嫌な顔をしている。
「何だ?」
「・・・耳が痛い」
それに何だか指先も痛いようなかゆいような、と首を傾げている。
しもやけだろう。
飲みに行くのはやめにした。
「風呂に入ってあったまれば治るぞ」
「ほんとか?」
「ほんとだって」
風呂風呂、と引っ張り込む途中でフリックが我に返った。
「・・・何でお前と一緒に入る必要があるんだ?」
「細かいことは気にするなって」
笑ってごまかした。
翌日は慣れない雪かきで城中の人間が筋肉痛を起こしていたので、フリックがふらふらしていたのはあまり目立たなかった。

                                           了
かわいい。ニナの寒くても根性でミニスカなのが。いや若さか。(莫迦)
そしてなにげなく長袖着用の熊に一安心です。
寒そうじゃなくて良かった・・・。
ココロあたたまるです。平和だ・・・(021212)
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プレゼント用没画。

見たまんま雪合戦で御座います。
腐れ縁の喧嘩の延長でこうなったら楽しいのになぁ(笑)
怒鳴るフリック。
それを茶化す熊。
便乗してフリックに寄り添うニナ。
誰めがけて投げていいのか悩むマイクロトフ。
無理矢理参加させられたので、出来るだけ玉に当らないように隠れるカミュ様。
楽しけりゃあ何でもいい義姉弟。
リーダーの側に居たいアイリ。
面白そうな事に首を突っ込みたいチャコ。
とりあえず参加のコボルト。
マイペースに遊ぶピリカ。
ただ飛んでるだけのムクムク。
それらを冷ややかに眺める軍師。
冷ややかに眺める軍師を見て苦笑するアップル。
以上!!!
(2002.12.08)

うわわわわーありがとうございますー!
こちらにもお話付けて下さるなんてー
しかもお馬鹿な注釈(↑)通りですよ?!
その上締めはビクフリで…言う事なしですな!!
えへーえへーえへー
没絵だったんですけど、救われた気分です。ほんとにありがとうございました!
(2002.12.14)

下絵 タブレット直描き
着色 openCamvas



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