氷樹


雪また雪


歩きづらい。
雪が真正面から吹き付けてくる。
マントがあおられて、ついでに積もった雪に足を取られて身体がふらついた。
先刻少し飲んだのが悪かったのかもしれない。
後ろから伸びた腕に支えられて、無様に転ぶのは避けられた。・・・助けられるのだって、充分無様だ。
雪も風も、頬や手やわずかにむきだしの肌に触れるものは全部冷たかった。
今触れたわずかな体温以外は。
支えの腕を振り払って先を急いだ。
男は黙って後をついてくる。
聞こえるのは雪をはらんだ風の音ばかりだ。

雪が降り出したのはまだ日暮れ前で、目的の町の、一つ手前の村についたところだった。
男は身体を暖めるためだと言って、酒場に寄り道することを提案してきた。
「・・・少しだけだぞ」
「おう」
腹ごしらえもわずかな酒も確かに必要ではあった。
一通り腹に収めると、男が言った。
「雪になっちまったし、今日はここらで休むか」
「そうだな・・・」
それは悪くない、というよりはその方が助かる。
この辺りの寒さは自分の生まれ育った場所よりずいぶん堪える。
男の言葉は何気なく口にされたものだった。
「俺はいいけどお前は辛いだろ」
それがひどく気に触った。自分は男に気遣われている。
「・・・まだ、時間が早いんだから、大丈夫だろう」
俺は次の町まで行く、と言い、男が返事をする前に席を立った。
酒場の外に出ると風も少し強くなっていた。
「なあやっぱり、」
男が何か言い出す前に歩き出した。

雪も風も夜に向けてどんどん意地悪くなっていく。
空も気分も暗くなってきた。
自分は何度も足を取られて、そのたびに熊に支えられたり助け起こされたりした。
何度かそれを繰り返して、また振り払おうとした腕を遮って、熊がため息をついた。
「何を意地になってんだよ」
「なってない!」
「・・・まあいいけどな。それなら俺の後ろ歩けや。風よけくらいにはなるだろ」
また強い風が吹いてマントやバンダナが背後になびいた。そのまま今来た道を押し戻されそうになる。
しかし自分の身体はゆるぎもしなかった。男が自分の腕をしっかりとつかんでいる。

熊は寒くないんですかね?


「嫌だ」
「お前なあ、」
男が尚も何か言いかける。
冷たいばかりだった頬が熱くなった。
自分はこの男にかばわれたいから一緒に旅をしているわけではないのだ。

「お前は、別に、俺と来なくてもいいんだ」
一人で先に進んでも、他の連れを見つけて別の道を行っても。それは男の自由だ。
もし自分が足手まといだと言うのなら。
雪が目に入った。
後ろについて歩いていたら、自分が追いつけずにいても、男は気づかずに先に行ってしまうかもしれない。
かと言ってこんな風に少し先を歩き続けていても、いつか男は違う道を選んで、気づいたら自分を助け起こす腕はもうなくなっているかもしれない。
もう一緒に行けないと、はっきり口にされるのと、どちらがいいのかわからない。
また雪が目に飛び込んで、ただでさえ不確かな視界をさらにゆがめていく。
目を閉じて、頼りない体温で解けた雪を追い出した。
自分は何か見失いかけている。
雪の中で。

うつむいた頬に男の手が触れて、それをぬぐった。
「後ろ歩くのが嫌なら、隣歩けよ」
別に道が狭いわけでもないのに、と不機嫌な口調が言った。
瞬きをして男を見た。そのまま腕の中に引き込まれる。
「一人で先に行こうとするなよ」
「・・・・・・」
「せっかく、久しぶりに、ゆっくりできると思ったのに、何が気に入らないんだよ」
俺のことを置いていこうとするなとか、そんなに一緒にいるのがいやなのか、とか。
そういうことも言った気がするが、風に紛れて聞こえなかった。
「とにかくこんなんじゃ野宿は無理だし、この先他の道も村もないんだからな。嫌でも何でも次の町には一緒に行かなきゃならねえんだからな」
強い口調で言ってから、男は身体を離した。
目を離さないので顔をそむけた。
「・・・別に、嫌だなんて、言ってないだろう」
「・・・それならいいけどよ」
ほんの少し唇を触れさせて、男は歩き出した。
「鼻水たらしてたら凍るぞ」
「誰がだ莫迦」
隣を歩く。
雪の中を。
あるいはそこがどこであっても。






そんなわけで恩知らずにモウソウをたくましくする。
弱虫青いの、雪の中でだだをこねるの巻。
あー熊ごつい!かっちょいー!
樹林様、ありがとうございました。(021210)
海保さんのサイトはこちら


2002.12.11〜2003.02.23 TOP画として使用。
先日キリリクの「季節の腐れ縁」を差し上げたところ、
MYパソの壁紙にして下さるとゆー大変な栄誉を与えて下さいました海保様が、
冬バージョンを御所望されましたので…冬の腐れ縁で御座いますです。
「冬といえば雪よね!」と何の捻りもない絵ですみません…
ちょっと身長差ありすぎ…なので、フリックが雪で滑ったのを熊が助けてるって事で(苦しい)
ちなみに熊の防具もちょっと間違ってました…いやーうっかりうっかりー
お気に召されると嬉しいなあ…
(2002.12.08)

で、海保さんに捧げましたら、早速お話考えて下さいました!!!
いやーん。嬉すぃー!いや、ちょこっと狙ってましたが…いやだってね恒例つか何つーか(←厚かましいにも程が…)
ああでも、意地っ張りな青いのが可愛すぎですー!!
想いが擦れ違ってもどかしいのもまた堪りませんなぁ。
そしてどこであっても隣なんですね?!あああ〜(悶)
こちらこそほんとに有難う御座いました!!
いやー寒くても幸せであったかいなあ!(謎)
(2002.12.11)

下絵 タブレット直描き
着色 Painter Classic


・・・ ・・・