春 はなののののはな まだ少し早いかもしれない、と思ったが、記憶にあった場所は記憶通りに黄色い花を一面に咲かせていた。 余計な寄り道をするな、と機嫌を損ねていた連れの男は、それを見て少し機嫌を直した。 すぐに上機嫌になるのは沽券にかかわる、と思ったようだ。 しかしすぐに満足げに早足になって歩き出す。 どうせだから一番見晴らしの良いところに行こう、と言う。無駄な寄り道を嫌っていた足が街道をどんどん外れていく。 先刻仕入れた団子はまだおあずけのようだ。 遠くに見える山に今を盛りに咲いて散る花が見える。細い小道は見渡す限り鮮やかな黄色い花が咲く。空は前を歩く男のマントと同じ色だ。 この男でなくても浮かれた気分になるだろう。当分足が止まる様子はない。 しかし腹が減った。 歩きながら包みを開いて念願の団子にかぶりついた。 振り返った男が呆れた、という顔をした。 「どうしてそう食い意地がはってるんだお前は」 「お前が場所決めるの待ってたらせっかくの団子がかたくなる」 「別に問題ないだろお前には」 熊なんだから、と言い捨てて一点を指さす。 「あの木の陰にしよう」 「へいへい」 半分になった団子の包みを抱えて後にしたがった。 団子を食べ終えて花を眺めて、のどかな風景にいささか手持ちぶさたになった。 男は熱心に黄色い花を観察している。今手を出したら怒られそうだ。 手近の花に触れてその変わった種子の形や、小さな花が集まって一つの花を作る様子を眺めている。 かわいいなあ、と思っているといきなりこちらを向いたので驚いた。 「これはなんていう花なんだ」 名前を教えると口の中で繰り返す。 「初めてみた。変わった花だな」 「でも役に立つんだぞ」 ゆでれば茎と花は食えるし種からは油がとれるし、と言うと感心した様子で花を手に取って折り取ろうとする。 「・・・生では無理だぞ」 「そうか」 残念そうに手を離す。この男は食べ物と見ると手を出すような奴ではなかった気がするのだが。自分の悪影響かもしれない、と思っていささか反省した。 なるべく食べ物以外の話をして過ごした。 少し話がとぎれた後で男が言った。 「去年の今頃も花見をしたな」 違う場所で違う花だったけれど。 「そうだな」 「来年はどこで花見ができるかな」 「さあなあ・・・」 曖昧な返事をしたが頭の中にいくつか候補を思い浮かべた。口に出さなかったのは他の奴とそこに行かれてしまっては困るからというのもあったし、何しろいきなり連れて行くのが楽しいから黙っていよう、と思ったのもある。 それに、当然のように来年も一緒にいるのだと言った男の顔に少し見とれていたせいもある。 「でもお前はどこに行っても何を見ても食ってるか飲んでるかだからどこでもあまり意味がないよな」 「まあなあ」 どこだっていいのだ。この男がそばにいれば。 ついでに笑っていると嬉しい。 空の端が赤く染まりかけている。 「そろそろ行くか」 「おう」 男が先に立って歩き出してから、振り返って見納めをする。 少し寂しげに見えるのがいやで話しかける。 「腹が減ったな」 「・・・お前の頭にはそれしかないのか」 「他のことも考えてるぞ」 主にお前のこととかな。 「・・・行くぞ」 「おう」 街道へ戻る一歩を踏み出す。 この先に何があろうと、この一歩は来年の花見に向けての第一歩だ。 悪くない気分で、今日の宿をどこに決めるか考え始めた。
2003.03.17〜 TOP画として使用。 あーもーねー身長差は諦めました。 何っっっ回描いてもこーなるんでね…ほんとは5cmくらい(熊187、フリ182)だとふんでたんですが。 仕方ないんで設定を変えます。ええ。 熊192、フリ180くらいでどーでしょー?!(どうと言われても…) しかし身長がどうとゆーよりも、このフリックが20代後半にはとても見えない事の方が問題だと思ったりも…ははは… 菜の花畑は描いてて楽しかったです。 が、敬愛する描き手さんが描かれてたのを目指しておりましたが、あまりにも精進が足らないようで…がっくし。 ああでも、春の楽しい雰囲気が伝わって頂けますと嬉しいなぁ。 そしてこの絵は海保さんへ。 遅くなりましたが、パンのお礼です…苦情・リテイクなんなりとどうぞです…すんません… (2003.03.12) そしてごく当然の如くお話を戴きました! ほぼお礼を戴こうと確信的に差し上げてるあたり…いやだってさあ…欲しいんだもん(開き直り) こちらこそこんな奴ですがほんとにいつもありがとうございますです。 でも懲りてないって言ったら流石に怒りますかね…? (2003.03.22) 下絵 タブレット直描き 着色 openCamvas |
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