振り向かない


しばらくここにいることになりそうだ。
いい天気だな、とのんきなことを言っていた熊は、そのうち本気で寝息を立て始めた。
平和な奴だ。
少し休もう、と思っただけなのだが、しばらくここにいることになりそうだ。





何の変哲もない草原に風が吹く。
髪と足元の草を揺らす。
悪くない。


頬に当たる風は穏やかで、自分の気持ちもひどく穏やかだ。
自分も気持ちもひどく穏やかだ。

不思議だ。
自分は冷たいのだろうか。



おととしと昨年と、自分は多少おかしくなって、連れの熊に迷惑をかけた気がする。

今年は平気だ。
おととしと昨年と、それだけの時間だけで、自分は失った人間のことを忘れてしまったのだろうか。

失った人間


自分はこれから、彼女の2倍、下手をしたら3倍の長さを生きていくだろう。
彼女なしで。
以前なら耐えられないと思ったはずだ。


今は違う。
彼女はいつも自分の先を歩いていた。
これからも同じだ。






いつか追いつくそのために、過去を悔やんでいる時間がないような気がする。



もっと先へ。

もっと先へ。



目指すのはもっと先だ。



一人では耐えられないかもしれない。
しかし目指す先には彼女がいる。
それに多分、傍らには、今隣にいる男が、そのまま隣にいつづけるだろう。




いびきがやんだ。
目をやると熊がまぶしげに目を細めてこちらを見ている。
熊がまぶしげに目を細めてこちらを見ている。
どうした、と言う。



大陽の光のせいだけでなく、この男はたまにこんな風に自分を見ている。
多分自分も同じように見ていることがある。
どうもしない、と言う。


「・・・お前は俺の2倍は生きそうだな」
「何だ急に」
あくびをして起きあがる。


「俺はそんなに高望みはしねえよ」
お前とおんなじくらいがいい、と言う。
自分も同じことを考えている。



「行くか」
「おう」




この先に。



どこまででも。いつまででも。望む限り。



どこまででも。

いつまででも。


望む限り。


fin.


樹林さんに何かもらおう企画手みやげ(大莫迦)
まんまと成功(しめしめ)
(030526)

樹林コメント
えへえへえへー
調子に乗って手土産渡しすぎ…逆にちょっと迷惑なカンジですな…
いや、このお話を戴いた時、頭に浮かんだイメージそのままに描いてみたのですが。
で、ちょっとした漫画仕立てに。
こんな風に文と絵で遊ぶのが好き。
あ、それと文中にある「おととしと昨年」とはこちらのお話ですー
こちらもとても好きなお話なのです。
海保さんありがとーございましたです。今後ともこの調子で是非!(おい)


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