one-way traffic of love. 2



フリックが、仕事の為、一個小隊を引き連れて砦を出てから、一週間経った。
それでも、明日の夕方迄には帰って来ると、連絡が入ってはいる。
今夜は、他の隊員共と騒ぐ気にはなれず、強い酒をかっ喰らって、早いとこ寝支度を決め込んだ。

自分でも、子供の様だと思う。
待ち遠しくて、仕方ないのだ。
フリックが、ここに、帰って来るのが。
なかなか寝付けない気がしていたので、無理に無茶な飲み方をした。
そしてその夜は、酒に呑まれる形で、半ば意識を失う様にして眠りに就いた。





ふと、気が付くと、誰かが部屋に入って来る気配を感じた。
しかし、まだ覚醒しきってないせいか、思う様に体が動かない。いや、酷い飲み方をした酒のせいかもしれないが。
近付くその影からは、殺気は感じられないので、そのまま様子を見る事にする。
すると、ふうと溜息らしきものが聞えて来た。
足元で何かごそごそとしているな、と思ったら、急にすっと足先にあった圧迫感が無くなった。
どうやら、ブーツを脱がされたらしい。
そういえば、部屋に帰ってそのまま寝台に倒れ込んだので、脱がなかった。

「おい、ビクトール・・・起きろよ・・・」
肩を揺さ振られ、聞えて来たのは聴き慣れた相棒の声。
しかし、フリックが、今ここに居る筈はない。
「あ・・・?」
確認の為目を開けると、そこにはフリックの怪訝そうな顔があった。
もしかすると、夢かもしれない。
本当に、フリック・・・?
「・・・・・・なのか?」
掠れて、上手く言葉にならなかった。
夢かどうか確かめようと、覗き込む頭を引き寄せて抱き込んだ。

確かに、腕に、胸に、感触はあるのに。
腕の中のフリックは、文句を言わなければ、拳も蹴りも出さなかった。

「・・・俺だ、フリックだ。」
やはり、夢を見ているらしい。
これが現実なら、こんなに大人しく自分の胸の上に乗っかっている訳がない。
夢に見る程、フリックの帰りを待ち侘びていたとは、自分でも気付かなったが。
「そうかそうか。」
「おい・・・?」

しかし、夢なら。
言ってしまってもいいだろう。

「好きだ。」
「何?」
これは、自分の夢なのだから、自分の好きな様にさせて貰う。
体勢を入れ替えて、上からフリックを押さえ込む。
頬を両手で包み込むと、驚いた表情で見返してきた。
こんなにも現実のフリックに似ているのに、これは夢なのか。
普段から穴が開くほど見ている成果が、こんな所で発揮されようとは。
額を合わせて、鼻の頭でフリックの鼻筋を擽る。
うっとりと、フリックが瞳を閉じた。
やはり、夢、だ。
唇を押し付けると、少し、フリックの体が震えた気がした。

一度、触れてしまえば、後から止め処なく波の様に押し寄せる感情があって。
可愛い、愛しい、大事にしたい。
掌を滑らせて、髪に差入れ何度も梳く。その柔らかい感触が気持ち良い。
頬も、目蓋も、目尻も、こめかみも。
そして、この唇も。
全部触れて、全部自分のものにしたい。

「好きだ。」
何よりも誰よりも。
こんなにも自分の全てを奪われるかの様に、誰かを想う事がある事を思い知らされた。
もっと、もっと触れたい。



そう思った瞬間。
何故か背中に痛みを感じ、気が付くと床の上で一人ひっくり返っていた。



幸せな、夢の様な夢。
を見ていたのだと納得して、また、寝台に潜り込んだ。
これからがいいところだったのに、とは思わなくもないが。
しかし、夜が明けて、またその日が沈めば、本物のフリックが帰って来る。
そう思って、無理矢理目蓋を閉じて、朝まで眠りに就いたのだった。


                               続く。



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