昼に程近い時刻。 執務室の扉を開けたビクトールは、自らの口も開けっ放しにする事になった。 「何だよお前・・・一体何時帰って来てたんだ?」 暫く留守にしていて、今日の夕方帰る筈のフリックが、そこに居たのである。 「朝方だ。気になる事があって、俺だけ先に帰って来た。他の連中は夕方には着くだろ。」 「お前だけ・・・?気になる事ってなんだ?」 「ああ、それはもういいんだ。」 怪訝そうな顔をするビクトールに、フリックは手早く説明をした。 帰還の途中で聞いた、良くない噂。 この砦の近くの国境で、敵兵が集結しているらしいとの。 今朝早くに、フリックは偵察に隊員を国境に差し向けた。 その結果が、先程入って来たのだ。 どうやら、集結していたのは間違いないらしいが、戦争の為ではなく、身内の問題だったらしい。罪を犯し国外逃亡を企んでいた要人を捕らえる為だとか何とか。 兎に角、この件に関しては心配する様な事は何もないから、とフリックは締めくくった。 「それよりも・・・お前、俺がいない間、こんな時間に起きてきてたのか?」 眉間に皺を寄せて、フリックが冷ややかな視線をビクトールに送った。 唐突な話の切り替わりと、自分の立場の悪さに、ビクトールが慌てて首を振る。 「えっ?!いや・・・今日はたまたまとゆーか・・・」 「本当だろうな・・・」 言い訳にしか聞こえない返答に、フリックがあからさまに疑った眼差しを送る。 その痛い視線を受けながら、ビクトールはふと思い立って、逆に問い返した。 「お前、朝方帰って来たっつったな・・・そん時、俺の部屋に寄ったり・・・」 話題をすり替えたせいか、じろりと剣呑に睨まれて、ビクトールはその考えを自ら否定する。 「・・・する訳ねぇか。はは・・・」 今朝方見た夢は、もしかすると現実だったのでは。と思ったビクトールであったが、フリックの様子からして、やはり夢だったのだと思い直す。 どこかほっとした様な、そしてどこか残念な気持ちで、ビクトールはフリックに歩み寄った。 経緯はどうあれ、夕方迄逢えずにいる筈だったのが、今こうして目の前に居るのだ。 夢にまで見る程に、逢いたいと想っていたのだ。 出来るだけ側に寄って、近くで見ていたい。 そんなビクトールの想いに気付きもしないフリックはといえば、机に向かい、不在の間に溜まった書類に目を通していた。 その目が赤い。寝ていないという理由だけではなく。 それに気付いたビクトールが、フリックの顎を掴んで上向かせた。 「おい?目が赤いな・・・そんなの置いといて、今からでも寝直せよ。」 「何言ってんだ。こんなに仕事溜め込まれて、寝られる筈なんかないだろ?!」 ビクトールの手を引っ叩いて払い除けると、フリックはまた視線を下へと落とした。 人の気も知らないで。とフリックは思う。 ビクトールの触れたところが熱い。 動悸が少し早くなって、胸が痛んだ。 勿論、こんな気持ちなんか知られる訳にはいかないのだが。 「何だよ、人が心配してやってるってのによぉ。」 叩かれた手を振りながら、ビクトールは不貞腐れた表情で溜息を吐いた。 人の気も知らないで。とビクトールは思う。 自分は逢いたくて逢いたくて、夢にまで見たというのに。 この男は帰ってくるなり、書類だ仕事だと、碌に顔すら見せてくれない。 勿論、そんな事は口に出しては言わないが。 「ま、あんま無理すんなよな。」 そう言って、ビクトールが扉に手を掛けた。 取り敢えず、飯でも食って来るわ。と頭をがりがり掻きながら部屋を後にする。 その後ろ姿を見送って、フリックが大きく息を吐いて目を閉じた。 互いに想いを表に出す事なく擦れ違う二人には、互いの心の声など届く筈もなく。 幸せな安息の日々が訪れるには、まだまだ先行き不安な二人なのであった。 終。2002.01.12 |
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またまた、リク内容を微妙に穿き違えている様な気がしますが。 特定の相手に嫉妬するお話は、裏のキリリクでやった(アナベルでした…)ので、今回は誰か解らない相手にしようと思いまして。 「フリック視点」とあったのですが、それだけだと救い様の無い暗い話で終わってしまうので、ちょっと付け足してみたり〜 「擦れ違い」ってのは、かなりな萌えポイントだと思うのですが、それがちゃんと書ききれない自分が何ともモドカシイ〜!(T-T) しのはらさん、遅くなってしまい、リクもその上リクもこなせているかどうか怪しいですが、これでお許しを〜!(汗) すみませんです。うぅ。 ↑などと言ってましたら、しのはらさんより、お礼とゆー事で速攻イラストを戴いてしまいました〜!!私は大変な幸せ者で御座います! 有難う御座いました〜! しのはらさんのサイトへは『こちら』から〜 |
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