<<ビクトール・フリック 編>> 部屋に戻って来るまでに、フリックは一言も口を開かなかった。 相当、不機嫌らしい。 愚痴のひとつも零さないとなると、根が深いかもしれない。 「なぁ、訓練、マイクロトフと組んでどうだった?」 まわりくどいが、地道に訊いていく事にする。 「え?ああ、そうだな…統率がしっかり取れてて、誰かさんとことするよりかはずっとやり易かったな。」 「あーそー…」 なんか棘がある… 怒ってる。怒ってるぞ、これは。 しかしマイクロトフにはそんなでもない感じがするのだが。 「訓練中に、何か変わった事とかは…」 「何もねーよ。誰かさんとこと違って真面目な奴ばっかだからな!」 「そーか…」 誰かさんて、そりゃ勿論俺ん事なんだろうな… って、もしかして俺に怒ってんのか? しかし今日はまだ何もしてない筈なんだが。 朝一で訓練に出掛けて、フリックにはさっき会ったばかりだ。 昨夜は今日の訓練の為に、酒もそこそこに早くに寝させられて、やりたい事もやってない。 色々思いつく限りの出来事を辿ってみるが、思い当たる節がまったくない。 「さっきから、何が言いたいんだよ、お前は。」 様子を探る自分に不審気な顔付きでフリックが睨んできた。 ここは予定変更で単刀直入にいこう。 「何って…お前こそ、何怒ってんだ?マイクロトフに何かされたか?」 「…別に怒ってなんか…それにマイクロトフが何するってんだ。お前と一緒にすんなよ!」 「俺と一緒に…って、俺が一体何したってんだ?!」 「何しただと?!さっき、お前っ…!!」 「さっき…?」 声を荒げるフリックにつられて、こちもつい大声を出してしまった。 いかん。 冷静に冷静に。 「さっき、何だって?」 「何でもない。」 「あぁ?!ちゃんと言えって、こら。」 目を逸らして、脇を通り抜けようとするフリックを捕まえる。 「言わねぇと、酷い目に合わずぞ…」 「酷い目って何だ?!」 「このまま外に出て、皆の前でのーこーなキスしてやる。」 「…っ?!」 後ろから羽交い絞めにしてたのに暴れて抵抗していたフリックの動きが止まった。 この手の脅しが一番有効だ。 「観念したか?」 「…解ったから、離せ、ばか。」 素直に離してやると、数歩遠ざかった。 「…さっき、お前…」 「おぅ。」 フリックは後ろを向いたままだ。 「…カミューの事、口説いてたじゃねーか。」 「お…おぉ?!」 「そりゃあカミューは、男の割りに色は白いし顔は綺麗だし頭もいいし物腰も柔らかいし、お前がくらっときてもおかしくはないとは思うけど−−−」 「ま、待て!ちょっと…っ、何か、誤解がないかっ?!」 「何が誤解だって?!俺は見たんだ!風呂でお前がカミューの手握ってニヤ付いてんのをっ!!」 「あー…あれはだな…」 風呂でのカミューとのやり取りを思い浮かべて苦笑する。 そうか、あれがそんな風に見えたのか。 そしてそれにヤキモチ焼いて、怒ってたのか。 そーかそーか。 なんて、可愛いんだ。こいつ。 「別に怒ってないって言ってるだろっ!…お前が、誰を口説いたって、俺には関係ない…」 まだ、後ろを向いたままのフリックに、また抱き付いた。 今度は抵抗がない。 大人しく佇むフリックの肩口に顎を乗せた。 「ほんとに、そう思ってんのか…?」 「うるさい。」 肯定の言葉はない。 「ほんとお前、可愛い奴だな。」 「……」 「こんなかわいーお前放っといて、他の奴、口説いたりするわけねぇだろ?」 「……」 「それに大体、カミューなんかよりもお前の方が、一億倍くらい可愛い。」 「…可愛いとか言われても嬉しくない…」 「ははは、じゃあ、なんて言って欲しいんだ?」 肩をまわしてこちらを向かせて、顔を覗き込む。 「それは…」 しばらく、何か言いた気に見詰められていたが、視線が落とされた。 その、頬が赤い。 「好きだ、とか、か?」 強く、抱き寄せた。 普段、フリックからの意思表示は少ない。 思いがけず、愛されている事を実感させられて、幸せで堪らない。 そして、自分も、とてもとても愛してると想う。 「あー…なんか、クセになりそーだな〜」 「何が?」 「たまには、ヤキモチ焼かれるってのもいいもんだなぁと思ってよ。」 「だっ、誰が、ヤキモチなんかっ…!」 「あ〜はいはい。」 「っ…?!」 煩い口は閉じてしまうに限る。 この、意地っ張りな反応を眺めるのも、本当は好きなんだけれど。 今は、そんな余裕はありそうもない。 一度離した唇を、またゆっくりと近付ける。 そうすると、フリックが瞳を閉じるのが目に映って、また、幸せな気分になった。 おわり。2002.07.20 |
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はせがわ様に捧げます。 え?いらないって?!(笑) いや、青赤編書いたら、こっちもついつい書きたくなっちゃって… まぁそー言わず、おひとつどうぞです。 そしてはせがわさんが更にビクフリにのめる事をお祈りしつつ…無理だろーけどね… |
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