同盟軍内には、それは立派な大浴場がある。 こだわりの風呂職人テツのお陰で、昼日中の今でも大盛況だった。 そこに、ビクトールとカミューは連れたって訪れていた。 珍しい組み合わせである。 一方は熊と称される筋肉質な大男で、粗雑で豪快な元ミューズお抱え傭兵隊砦隊長。 もう一方はすらりと伸びた体躯に誰もが振り返る美貌で、繊細且つ礼節正しい元赤騎士団団長。 何もかも正反対に見える彼等の共通点と言ったら、相棒をこよなく愛する事ぐらいであろうか。 そんな彼等が、仲良く肩を並べて湯船に浸かっているのには、勿論理由がある。 各々お互いの愛しい相棒と、この風呂で待ち合わせをしているからであった。 今日はビクトールの隊とカミューの隊が合同で野外実践を行っていた。 そして残るビクトールの相棒フリックの隊と、カミューの相棒マイクロトフの隊とが、兵舎での合同訓練となっていたのである。 訓練の後は、大概汗を流すべく風呂に入る。 特に約束をしたわけでもないが、暗黙の了解よろしく、先に訓練を終えた両名は、ここで相棒がやって来るのを待っているのである。 「…なんですか?」 「え…?ああ、いや…」 湯に腰まで浸かって、湯船のヘリに凭たれたカミューは視線を感じてビクトールを見た。 「お前さんも、男のくせにえらいきれーだと思ってよ。まぁ、フリックよりかは大分落ちるけどな。」 にっと笑って言うビクトールに、カミューは物怖じずに綺麗に笑って返した。 「…そうですか。それはありがとうございます。貴方も逞しくて頼りがいがありますよ。勿論、マイクロトフには遠く及びもつきませんが。」 「……」 予想に反した答えを戴いたビクトールは、少し驚いて口をぽかんと開けた。 その間の抜けた顔をするビクトールに、カミューが問い掛ける。 「どうしました?」 「はっ…いや、まいったな…そー返されるたぁな。」 「賛辞には賛辞で応えるのが礼儀でしょう?」 「いい性格だな…」 「よく言われます。」 「だろうな。」 「ところで…何をしてるんですか?」 ざばざばと音を立てて近づいたビクトールは、カミューの手を取ってまじまじと見詰めた。 「いや…フリックの奴に、爪の垢でも飲ませてやろうかと…」 「失礼な。そんなもの、ありませんよっ!」 取られた手をカミューが振り払う。 そして「身だしなみも騎士の勤めですから」と踏ん反り返った。 「はっはっは!冗談じゃねーか、冗談!」 その反応を見て笑ったビクトールの視線が、カミューを通り越して止まる。 それにつられてカミューも振り返ると、フリックとマイクロトフが丁度こちらに向って歩いて来るのが目に映った。 「よぉ、お疲れ。」 「あぁ…」 「…?」 湯船にやって来たフリック達を見て、ビクトールとカミューは一瞬、素早く目配せをした。 何かしらぎこちない空気が立ち込めたからだ。 二人とも表情が固い。 「何か訓練で問題でも?」 「いや、何もなかったが…どうしてだ?」 「ならいいんだけどね。」 カミューがマイクロトフに問い掛けると、逆に不思議な顔をされた。 しかし、やはりどこかしら態度がいつもと違う。 「お前も、何もなかったのか?」 「え?ああ。別に…」 カミュー達のやり取りを見ていたビクトールが、フリックに向き直った。 それに応えるフリックもどこか上の空だ。 ビクトールとカミューは、また、目配せして溜息を吐いた。 訓練で何かあった。 そう、結論付けたのだ。 マイクロトフとフリックは似たところがあって、普段はよく気の合う方だ。 しかし二人とも短気で熱くなり易い。 そして頑固一徹で意地を張りやすく自分を曲げない。 しかも、コミュニケーションは不得手ときている。 一旦拗れると、収集が付かないだろう。 きっと、何か意見の食い違いなどがあって、少し揉めたのかもしれない。 後でゆっくり話を聞いて、事態を収めなくては。 ビクトールとカミューは、また、溜息を吐いたのだった。 「じゃあ、また明日。」 「お疲れ様でした。では…」 風呂の入り口で二手に別れる。 勿論、ビクトールとフリック、カミューとマイクロトフに。 そして、それぞれ愛しい相棒と共に一日を過ごすべく、歩き出したのであった。 つづく。 <<マイクロトフ・カミュー 編へ>> |
はせがわ様に捧げます。 え〜と。自分で「熊とカミュ様は意外と仲良さそう」とか言っといて、実際お話考えてみたら、どんな会話してるのか思い付きませんでした…すんません〜! えと、まだ、騎士達が同盟軍入って間もないぐらいのお話って事で。 ではでは、続きをどうぞ〜 |
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