1 朝 朝が来た。目が覚めた。 熊がいた。まだ寝てた。 気に入らない。 つついてみた。ゆすってみた。 まだ起きない。 上に乗った。ちょっと動いた。 でも起きない。 気に入らない。 口づけた。 額に。瞼に。口に。 目を覚ました。 驚いている。 ざまあみろ。 満足した。 もう一度、と熊が言った。 莫迦熊、と言った。 まだ眠い。あくびした。 腕が伸びてきた。枕にした。 また寝た。 2 昼 目が覚めた。陽が高い。これは昼を大分まわっている。 寝台の隙間が温かかった。 いぎたなく寝ていた熊が姿を消して、まだそう経っていないということだろう。 昨夜さんざん好きなようにされて朝方まで抱き枕にされた。 自分が先に目を覚ましたのに、ついつられて二度寝してしまった。 熊がぐうぐう寝てるからだ。 そのくせ目を覚ました時には自分を起こしもしない。 腹でも減って先に食事でも行ったか。勝手な奴だ。 おごらせてやる。 腹も減っていたので腹が立って簡単に身支度して部屋を出た。 太陽が過剰にまぶしいのは誰のせいでもないようだ。天気がいい。空が高い。 まっすぐ食事に行くのはやめて中庭に出ると、ここまで洗濯物が翻っている。 誰でも洗濯したくなるような天気だ。いつもの干場からはみだしてしまったのだろう。 清潔に洗い上がった視界の中の一角に薄汚い熊がいた。子供と、遊んでいる。子供というよりはまだ赤ん坊だ。 「食うなよ」 「起きたか」 「隠し子か?」 「あのな。こいつがこちゃこちゃいたずらしてて仕事になんねえみたいだったから、洗濯もの干す間見ててやるっつったんだよ」 熊が顎で示した先に若い女の姿がある。 「でももうしばらくかかりそうだなあ」 手にした洗濯籠はすっかり空だが、隣の女と井戸端会議に余念がない。 「食事はしたのか?」 「いやあ、天気いいから寄り道したらつかまっちまって・・・」 「腹減らした熊なんかに預けといたら危ないのにな」 頼りない足取りでもためらうことなく歩き回っている。 「・・・こらお前それはやめとけ」 熊がそういったのは自分ではなく赤ん坊だ。 冬支度をする小さな虫を地面に見つけて、張り切って口に運んでいる。 「お前も腹減ってんのにお前のかあちゃんは困ったもんだなあ・・・」 これだから目を離せない、と熊が赤ん坊の手をひらかせた。 虫が逃げた。 「小さい手だな」 「すげえよなー。こんなんでもちゃんと指5本あるんだぜ」 「あたりまえだろ」 「そりゃそうだけど」確かに自分もそう思っていた。 自分を見上げてくる顔も体もとても小さい。動物の中でここまで他者の保護を必要として育つのは人間だけだ。ひどく頼りない気がするのに、目の前の存在は生きる力に満ちている。 目が合うと全開でにーと笑ってみせる。つられて笑うと熊まで笑った。 「かわいいなあ」 「そうだな」 「うんまあ・・・そういうことにしとくか」 何を言ってるんだか。試しに抱いてみた。ふやふやしている。 若い母親が小走りにやってきた。赤ん坊が2、3歩そちらに行きたがったので手を離すと、どう、と顔から倒れた。受け身もなにもあったものではない。 「あ」 「うわ」 「ふえ・・・」 泣く、と思った瞬間に母親の手が赤ん坊の体をすくいあげた。 「おまたせ!大丈夫よ!」 いいこねー、という一言で赤ん坊の大爆発は未然に防がれた。 礼を言って親子連れが立ち去る。 「何かすごいな。ああいうのはいいな」 とても幸せそうに見える。 口にした言葉に、熊が眉を寄せた。 「・・・お前も、作るか?子供」 「お前とか!?」 いくらなんでもそれは無理だ。 あわてて向き直ると熊が次の言葉が出ないまま呆然と口を開けている。一瞬あとに腹を抱えて笑い出した。 「何だよ!おかしなことを先に言い出したのはお前だろうが!」 蹴り飛ばしてもひっくりかえって笑い続けている。 俺はお前が好きな女でもできて、家族を持つなら邪魔はしないぞ、と言ってやろうと思ったんだ、と笑いの隙間に言う。 「うう・・・」 顔が熱い。いくら何でも男同士で子供はできない。それはそうだ。そんなわかりきったことを言うはずがなかった。どうして自分はこの男と自分のことだと思ったのだろう。 「うるさいぞお前」 「『お前とか!?』だってさ!」 「うるさい!」 まだげらげら笑っている。切れ切れに、全くかわいいねえ、とかくだらないことを繰り返す。 「そうかー!フリックは俺以外の相手は考えられないか!しばらく俺の地位は安泰だな!」 「くそ!莫迦熊!黙れ!」 大体この熊が一時も離れずにいて、他の人間とどうこうなるはずがない。 それを疑問にも思わず遠ざけもしない自分も相当おかしいが。 まだしつこく笑い続けている。黙らないなら黙らせてやる。 転げた熊の喉元をつかんで引き寄せた。 静かになった。 熊の腹がぐう、となって静寂が途絶えた。 名残惜しげに寄ってくる熊の顔を平手でおしのけた。 「飯、食いにいくぞ」 「おう」 髪も服も草だらけだ。 お互いの草をつまみあげ、軽口を叩きながら食堂に行った。 3 夜 熊が来た。 飲もうと言った。 嫌だと答えた。 しようと言った。 嫌だと答えた。 疲れたから寝る。 熊がふてくされた。 仕方ない。 口づけた。 額に。瞼に。口に。 機嫌が直った。 単純な奴だ。 寝台に潜り込んだ。 熊がついてきた。 腕が伸びてきた。 枕にした。 夜が来た。 |
「ラブい路線で、困り果てるかいほさんのお顔が目に浮かぶ様ですが」 といいつつラブいリクをくださったラブい師匠樹林様へ。 樹林様のラブいサイトはこちら。 さてここまで私は何回「ラブい」と使ったでしょう。 返品苦情やり直し命令は常時ウケツケ。 私にはこの程度が限界です!いかがでしょうか!!!(脱兎)(011103) |
樹林コメント 念願のキリ番をGETして書いて頂きました〜! しかも苦手と言われるラブい路線で(笑) でも、ちゃんと書ける所が流石で御座いますv 無理言ってすみませんでした。でも、とっても幸せです〜!!えへ。 熊が大変愛されてますな!青い人がめさめさ可愛いです〜! そして子供も可愛いです(いや、個人的感情で…/笑) 海保さん、本当にどうも有難う御座いましたvv ちなみにリクは「熊にちゅ〜するフリック」でした〜 |
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