本拠地熊日記



○月×日

今日フリックが戦闘中に騎士と協力攻撃をしやがった。
「おい!俺はそんなこと聞いちゃいないぞ!」
と言うと、「なんでお前に断る必要があるんだ。」と言われた。
この攻撃はいったい何なんだと聞いたら、
「・・び・・美青年攻撃だ・・」
と口の中でもごもご言いやがった。
「おい、正気か?そりゃ、『俺は青雷のフリックだ!』と言うより恥ずかしいぞ!」
と言ったら「おまえなんか大嫌いだ!」と言って走って行ってしまった。


「左様でございますか、お似合いで。」とでも言えばよかったのだろうか・・・





○月×日(byマイクロトフ)

ビクトール殿に手合わせをお願いした。
自分はビクトール殿と違って実戦経験が乏しいので、毎回とても勉強になる。
トラン解放戦争を幹部として戦い抜かれただけあって、戦闘の時に出される指示は適切で、また、敵に押されて意気消沈した兵士たちが、ビクトール殿の一言で一気にやる気を取り戻す姿をしばしば見かけた。
そして、戦場の鬼神のような姿とは打って変わって、普段はとても気さくで、女や子供たちにまで慕われている。

「ビクトール殿のようになりたいものだ。」
部屋で飲んでいる時にそう言ったら、カミューに「私はそれでは身がもたないよ。」と言われた。・・?・・なんのことだろう。




夜、風呂から帰ってきたら、ビクトール殿の部屋の外にビクトール殿の剣が置かれていたので、声をかけてお戻ししておいた。
あの剣は真の紋章が姿を変えたものだという。
ビクトール殿のような方だからこそ所有することが許されたのだろう。

しかし、どうして部屋の外に置き忘れられたのだろうか?





○月×日

あのあと、逃げたフリックを捕まえて、なだめすかして、部屋に連れ帰った。
仲直りの最中に、マイクロトフが大声で俺の名前を呼びながら、部屋の扉をドンドン叩くので、しょうがないからドアを開けたら、邪魔になるので表に出しておいた星辰剣を渡されてしまった。
いいやつなんだが気が利かない。

「おい、冗談、俺はやだからな!」
星辰剣を手にしてどうしようか悩んでいたら。フリックが怒りだした。
若夫婦の寝室に親父が乱入してきたってとこか?
フリックが飛び起きて、服に手を伸ばした。
「しょうがねぇじゃねぇか、また、表に出しとくわけにゃいかねぇだろ」
すんでの所で、その手をつかんで止める。


「じゃあ、やめる!あっ、やめろって・・・・あっ・・だめ・だって・・星辰剣が・・見てる・」

恥じらいながら、すごい乱れようだ、見られると燃えるんだろうか?
俺は心の中でマイクロトフに感謝した。





○月×日

「こちら、よろしいですか?」

ひとりで昼食をとっていた俺の前に紅茶を載せたトレーを持って赤騎士がやってきた。
確かマイクロトフは遠征中だったはずだ。

今まで、カミューは俺を見ると眉間に皺を寄せていることが多かったのに、今日はなぜだか微笑んでいる。
いったい何の用だ・・・?
こいつとマイクロトフの性格を足して2で割ればもう少し分かりやすくなるだろうに。

そして、紅茶を飲みながら語りだした。
私はここに来て、あなたのようながさつな人がなぜフリックさんと仲が良いのかわかりませんでした。」
ずいぶん失礼なことをはっきり言うやつだ。

「ところが、マイクロトフまでもがあなたに心酔してしまっている。」
カミューは困ったというように頭を振った。

「それで、私もここのところあなたの姿を追うようにしていたんです。そうしたら、考えが変わりましたよ。悔しいですけど白状します。あなたという人は実は・・・」
そういうとやつは顔を上げて俺の顔を見た。俺もあいつを見返す。


「・・・やっぱり教えてあげません。」
やつは突然立ち上がると去っていった。

俺がぽかんとしていると、フリックがやって来た。
「汚ねえなあ、口のまわりがべちゃべちゃじゃねぇかよ。ガキじゃねぇんだから、しっかりしてくれよなぁ。」
フリックはトレーを置くと、俺の口にナプキンを押し付けた。

しかし、本当に、カミューは何を考えているのかわからねぇやつだ。





○月×日

昼間のこともあって、フリックに「悪い影響があるといけねぇから、あいつらとの協力攻撃は控えろ。」と言ったら。

「俺が悪影響を受けたのはおまえからぐらいだ!」
となぜか赤くなって言われて頬っぺたをつねられた。
協力攻撃も続けると言う。

くやしいから、「それなら俺にも考えがあるからな!」と捨てぜりふを吐いてやったが、特に考えはなかったので、酒場に相談に行った。



「美青年攻撃ね〜」
「確かにフリックさんは、分類すればビクトールのアニキより、あの騎士たちのグループに入るんでしょうねぇ」
酒場にいたやつらが感心したようにつぶやいている。不愉快だ。


「ビクトールのアニキも新しい協力攻撃を編み出したらどうですかい?」
タイ・ホーの隣で飲んでいたヤム・クーが楽しそうにつぶやいた。

「でも、どんな攻撃にすりゃいいんだよ。」
う〜ん、とみんな腕組みをして考え込む。

「そうですね〜、分類ってことにすれば、・・・アマダとリキマルに加わって『超絶アニキ攻撃』なんてのはどうですか?パワーはすごそうですよ。」

「でも、むさくるしいって、リーダーがいやがって連れていかなさそうですよ。」
「・・第一、『美青年攻撃』に対抗できるとは思えねぇな・・・」
タイ・ホーが最後にぼそっとつぶやいた。
みんな人事だと思って勝手なことを言ってやがる。

「どうしたんだい?ビクトール、そんな頭抱えてさ。」
アニタとバレリアが話しに首を突っ込んできた。


「あっ、じゃあ、見た目にこだわるなら、ビクトール、アニタとバレリアと組んだらいいんじゃない?!」
シーナがぽんと手を打って叫んだ。

「ああ、姉さんたちとなら華やかで『美青年攻撃』にも対抗できるようになりますね。」
ヤム・クーが感心したような声を上げた。

「まあ、さしずめ『美女と野獣攻撃』ってぇとこかな」
「なんだよ、俺は野獣かよ・・・」

「まあ、アニタとバレリアとビクトールなら『飲んべえ攻撃』でもいいやな。」
興に乗ったタイ・ホーが次々と攻撃名を口にする。
「飲んべえならタイ・ホーだってそうじゃないか。」
アニタが言った。
「それなら、アマダやリキマルにも資格があるぞ。」
「攻撃する前に酒を飲まなきゃいけないってのはどうだ?」
「そりゃあ、おもしれえや」
「じゃあとんとん拍子で話がまとまった。



「・・・おまえら、馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、揃いも揃ってここまで馬鹿だったとはな・・」
寝不足で、目の周りに隈を作っている軍師から歴戦のつわもの達をも震え上がらせるような怒りのオーラが立ち上っていた。


酔っ払っていた俺たちはついつい盛り上がって、軍師に資金を出してもらおうとここまでやって来てしまった。
やばい、失敗したと思いつつも、みな身がすくんで逃げ出すことも叶わない。

その時、突然入り口の、扉が開いた。
思わず振り向くと、そこにはものすごい形相をしたフリックが立っていた。
前門の虎、後門の狼か?
そして、身を竦ませる周りを無視して、俺の方に足音を響かせて歩いてきた。
「よ・・よおフリック・・」
そう言ったとたん、思い切り殴られた。
あまりの勢いにさすがの俺も床に沈む。

「・・お・・おまえは・・おまえはっ!!」
シンとなった部屋にあいつの声だけが響く。
「酒場でヤムに聞いたぞ!俺との協力攻撃を解消しようっていうのか!!」
い・・いや、増やそうと思っただけだと言おうとしたが、フリックのあまりの剣幕に何も言うことができない。

「ちょっと来い!」
フリックは俺の襟首をつかむとそのまま出口へと引きずり出した。
俺は助けを求めて周りを見回したが、みなかかわりあいたくないのか、そっぽを向いている。


部屋に引きずり込まれると、ベッドへと突き飛ばされた。
『きゃー!フリックさん男らしい』と思ったが、口に出すと殺されそうなので黙っていた。

これはボコボコにされるかと思ったら、あいつはベッドの前に突っ立ったまま、微動だにしない。

「フリック?」
声をかけると、一瞬ビクッとしたあと、あいつはぽつりぽつりと語りだした。

「おまえはここで人が増えて、俺がほかのやつとつるんでばかりいるって言ってるけど。・・・それは、おまえのほうじゃないか・・・」

「酒場でも、俺と飲んでる時より、みんなとわいわいやってる方が明らかに楽しそうだし・・・」

「新しいやつらもどんどん増えていくから、俺はいつ、おまえがほかのやつの方がいいって言い出すんじゃないかと・・・・・、心配で・・・」


フリックはそういうと下を向いたまま、また黙り込んでしまった・・・


「すまねえ、冗談が過ぎた」
立ち上がって、フリックの頭に手を載せると、あいつは不安そうな目で見上げてきた。
顎に手をかけ、顔を近づけると、口付けを待つように目を閉じた。
「・・・ビクトール」
あいつのかすれた声が唇から漏れる。


「ほおー、熊めが一方的に圧し掛かっているのかと思っていたら、その青いのも熊に懸想しておったか。物好きな。」


一瞬で部屋の空気が凍りついた。

次の瞬間、腕の中のフリックがじたばたもがき始める。
「俺はいやだからな!」
「おい、いいじゃねぇかよ、なぁ、今日はたっぷり愛を確かめ合おうな。」
「やだっつってんだろ!」
「い・・いま、こいつは始末してくっからよ!」

こんな素直なフリックにはめったにお目にかかれないのに、とっととしないと、フリックの気が変わっちまう。
表に出そうとドアを開けると、ちょうどマイクロトフが通りかかった。
「おまえにやる!」
そう言ってあわててドアを閉めた。





○月×日(byカミュー)

「カミュー」
「なんだい?」
「ビクトール殿から星辰剣を賜ったぞ。」
部屋に戻ってきたマイクロトフの手には星辰剣が握られていた。

「だが、俺にはまだこの剣を使いこなすのはムリだと思うのだが。」
純朴な青年は思案顔でその剣を見おろしている。

「そうだね、明日、そう言ってお返しした方がいいね。」

まったく、真の紋章を放り出すとは。
私もあなたと同じだ、愛するもののために棄ててしまっても構わないんです・・
あの時、そう伝えようとしたのだが。

やっぱり教えてあげません・・・
あなたは棄てたとさえ思っていないのでしょうから。そして、あのひとも・・


呆れていいのに、なぜか微笑がこぼれて来て、マイクに不思議そうな顔をされてしまった。





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そして、12年後、同じような理由で星辰剣はエッジに押し付けられたのだった。(嘘)

樹林さま、申し訳ありません・・。もっと軽い日記をご所望だったと思うんですけど、日記ともいえない単にだらだら長いものをムリヤリ区切っただけのものになってしまいました。どうぞ返品可ですのでおっしゃってくださいまし。(涙)


樹林コメント
TAYAさんのサイトにてキリ番2800をGETさせて頂きました!
傭兵砦日記が大好きなので、その熊バージョンというリクをさせて貰いました。
ら…こんな楽しい拡大版日記を書いて下さいました!!!
ほんとにほんとに有難う御座いました。
とっても嬉しかったです〜v
しかし挿絵…質より量なカンジですみませ…(汗)
でも、描いててとても楽しかったです。


TAYAさんのサイト




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