昼飯前にその町について、一休みして食事を済ませた。 ジャックは姿を消していたが、いつものことなので誰も何も言わなかった。 最近腹が出てきたので、町の外までおっさんと腹ごなしの散歩をした。もちろんそれだけが理由でもなく、今夜宿泊する町の、周辺の見回りも兼ねている。 しばらく歩いて岩陰に怪しい人影を見つけた。 ・・・ジャックだ。 「・・・何をしておる?」 おっさんが声をひそめて話しかけた。ジャックはなにやらボウガンを構えて臨戦態勢だ。 振り返らずに答えを返した。 「・・・・・・・・・・・・昼飯に・・・ウサギを・・・」 何だそりゃ。 「宿に食堂があっただろう」 「・・・・・・・・・辛い、から・・・」 確かにこの地方の料理には山ほど香辛料を使うが。 「・・・がんばれよ」 他に言葉もない。 ジャックは一つ頷くとまたボウガンを構え直した。 少し離れてからおっさんが言った。 「あんなでかいボウガンで兎なんぞ射抜いたら食うとこっろ残らんのじゃないか?」 「さあなあ」 |
|
夕飯まで一休みすることにして、宿に戻った。 夕飯を済ませる頃になっても、ジャックは宿の周辺に姿を見せなかった。 まさかな、と思いながら見に行くと、昼と同じ岩陰に同じ格好で座っている男がいた。 ・・・ジャックだ。 「・・・何してるんだ?」 「・・・・・・・・・夕飯に・・・ウサギを・・・」 「昼飯の兎は食えたのか?」 「・・・・・・・・・」 小さいため息が聞こえた。 「子どもじゃないんだから辛いのくらい我慢しろよ」 「・・・・・・・・・」 何なんだこいつは。 大将が何でこいつを連れ歩きたがるのかわからなくなるときがある。こういう時だ。 「夜食の時間までにはどうにかしろよ」 「・・・・・・・・・」 返事はなかった。仕方のない奴だ。 酒場に行くとアイラ以外の3人が既に飲み始めていた。 「また飲んだくれて・・・!」 会計係の俺が困るのだと言うのに。 「やりくりするのがあんたの仕事だろ」 クイーンが瓶を空にして追加を頼んだ。畜生。 給仕が追加の酒と、ソーダを運んできた。クイーンの隣に座ったアイラに。 「お前えええ!ソーダは一日1杯までと決めただろう!朝飯の時も昼飯の時も夕飯の時にも飲ませてやっただろうが!」 アイラが頬を膨らませた。 「違うよ。これはえーと、・・・ジャックが戻ってくると思ったから、頼んでおいてあげたんだよ」 嘘をつけ。こいつらに何とか言ってくれ、というつもりで大将を振り返ると、さっさと杯を空にして立ち上がるところだった。 |
|
「大将どこへ?」 「ウサギを食いに行って来る」 「はあ」 ジャックの腕は悪くないが、兎狩りには向いていないようだ。 「うまくありつけるかどうかわかりませんぜ」 「大丈夫だ」 アイラがソーダを手に立ち上がった。 「それならこれジャックのとこに持っていってあげてよ」 この小娘、証拠隠滅を図ってやがるな。 大将は頷いて受け取った。 「そうだな。ウサギも喜ぶだろう」 |
|
大将が行ってしまって空いた椅子に座ると、アイラが首を傾げた。 「変なの。何で兎がソーダ喜ぶんだろ」 そういう猟の仕方がカレリアにはあるのかな、という。「・・・・・・」 知ってるか、と重ねて問われて、俺は都会の生まれだから、と酔っぱらったおっさんに相手を任せた。 ・・・大将が食いに行ったのは、兎ではなくウサギちゃんであるに違いない。 何もそんなことを宣言していかんでもいいいだろうが! どうも隊の風紀が乱れているような気がする。俺の苦悩をよそに、げらげら笑いながらクイーンとおっさんが追加の酒を頼んだ。 |
|
「兎とれたか?」 翌日朝食の席でアイラに聞かれて、いつも無口なジャックはやや不機嫌そうに、好みに合わない朝食を飲み込んだ。 おっさんとクイーンは二日酔いとかで起きてこなかった。 大将は腰痛と称して部屋から出てこなかった。 宿泊費がかさむ・・・。 |
わかりづらいですが語り手はジャック・・・ではなくてエースです。そして書けば書くほど傭兵隊のみなさんがニセモノになっていくのですが(T.T) 樹林様へ。お引っ越しお疲れさまでした。(020804) |
|
海保さんのサイト |
|