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【アレッサ・ラングの手記 :1枚目】
こんにちは! こんにちは!
挨拶はこう書くんです、こんにちは!
あたしの名前は 「アレッサ・ラング」 です。
歳はいま、14歳でつぎは15歳になります。
今はアシュレイ兄さんと一緒にコトウの街道を、隊商の人たちを護衛しながら進んでいます。
目的地はホワイトヘルムの街で、馬車にゆられて明日には到着する予定なんですよ。
その、隊商の人から 「売り物にはならないから」 と、いらない紙の束と文字を書くための木炭をもらったので、字の練習をする事にしました。
あたしはまだ、あんまり沢山のことばを覚えていないので、いっぱい練習をして、いっぱい言葉をわかるようにしたいと思います。
でも、何を書いていいかわからないから、どうしたらいいかとアシュレイ兄さんや隊商のおじさんたちに聞いたら 「日記をかいたらいいんじゃないか」 と言われたので、日記を書いてみようと思います。
日記とは、じぶんの事とか、今日あった出来事を書くので、あたしも自分の事とか、今日あった事を書きます。
あたしは、今お兄ちゃん……アシュレイ兄さんといっしょに「ボウケンシャー」をしています。
アシュレイ兄さんは小さい頃、騎士さまの下で修行をしていたので剣の扱いが上手なので、あたしもそれを真似しながら兄さんを手伝っています。
それでも兄さんは、あたしがまだこどもだから危ない事は出来ないと、比較的安全な仕事をしているみたいです。
だから、ほかの「ボウケンシャー」さんみたいに、有名じゃないけど、あたしは兄さんが世界で一番強くてかっこいいボウケンシャーさんだと思っています。
あたしはまだ半人前だから、兄さんのお手伝いしか出来ないけど、はやく立派なボウケンシャーになって、兄さんを楽させたいとおもいます!
そのためには、今はホワイトヘルムの街に無事にたどりつかないとだね。
隊商の人たちはとてもいい人だし、ホワイトヘルムの街に行くまでの一番きびしい道は今日、無事に乗り越えたからあとは緩やかな道になると思います。
野生の狼とか、大きな熊とか出なければ、にんむかんりょー!
……今日は野宿だけど、無事に街についたら宿で柔らかなベッドで眠りたいなぁ。
そして、あたしは兄さんの大好物な野菜のスープをつくってあげたいとおもいます。
早く街につかないかな……。
あしたも早いし、ランプの油がもったいないので、今日の文字の練習はおわりです。
夜のあいさつは「おやすみなさい」こう書くんです。
おやすみなさい!
【アレッサ・ラングの手記 : 2枚目】
ホワイトヘルムの街に無事についたので、隊商の護衛とはサヨナラしました。
たった1週間くらい一緒だっただけだけど、お別れはいつも寂しい気がします。
「またあえるといいね、元気でね」 ってバイバイしたら、感激した隊商のおじさんから、赤いかわいいスカーフをもらいました!
少しおおきいから、帽子みたいに頭に被ろうと思います。
赤いずきんみたいだね、ってアシュレイ兄さんに言われました。
赤いずきんだから、目立ちすぎるかなと思うけど、隊商のおじさんも 「かわいい」 っていってくれたし、アシュレイ兄さんも 「似合うよ」 って言ってくれたから、ずっとつけていたいな……。
誰かから、プレゼントをされるのってあんまりないから、あたし本当にうれしいです!
そうだ、ホワイトヘルムの街についたら、お手紙が着てました。
冒険者のラング兄妹といえば、だいたいあたしたちの事だから間違いないと思います。
あたしはまだ、あんまり読み書きが出来ないし、字も共通語が少しわかるだけだから、お手紙の事はよくわからなかったんですが、お手紙はヨハンのおじさんからでした。
ヨハンのおじさんは、あたしたちがトロイアという街を拠点に活動していた頃によく声をかけてくれた、先輩のボウケンシャーさんです。
もしゃもしゃの、赤毛で、髭がはえていて……。
目つきも悪いし身体もクマみたいに大きいから怖い人だと思っていたんだけど、話していたらすごく優しいおじさんでした。
自分は、弓を使う後方支援の方が得意だからって、剣術が得意なアシュレイ兄さんを誘ってモンスター退治の依頼なんかをよく受けていたと思います。
……思います、っていうのは、あれは多分3,4年前の事で、あたしはまだその頃小さくて、冒険の時、宿でお留守番をしている事が多かったから。
今おもうと、ヨハンのおじさんは小さいあたしをつれて冒険する兄さんを可愛そうに思って、一緒に冒険をしてくれていたんだろうな……。
ヨハンのおじさんは、お手紙で「タルシスという街でボウケンシャーを募集しているから、一緒にこないか」と誘ってくれているそうです。
タルシスでは「世界樹」という大きな大きな木があって、それの調査をするのとか……そういうので、依頼がたえないのだそうです。
そういうのは「ほっとすぽっと」というのだと、ヨハンおじさんのお手紙に書いてありました。
ほっとすぽっとで一攫千金! イッパツ当てようぜ……このへんはちょこっとだけど読めました。
ヨハンおじさんの字は、ニョロニョロしているからとっても読みづらいです……。
アシュレイ兄さんは、ヨハンおじさんはずっと西方出身で日常的に西方の言葉をメインで話していたから、共通語の言い回しが苦手なので、手紙でも共通の言語と西方の言語がマゼコゼになってしまうから、あたしには読めない言葉が多いんじゃないかな……っていってました。
世界には、いろいろな言葉があって、あたしたちボウケンシャーは世界各地を渡り歩くから共通語で話すけど、土地によって言葉はかなり違うんだそうです。
タルシスの方にいくの? ヨハンおじさんと一緒にボーケンするの?
と聞いたら、アシュレイ兄さんは 「ここからは少し遠いけど、行くつもりだよ」 と言ってました。
ヨハンのおじさんと久し振りに一緒にボーケン出来ると思うと、とてもわくわくします。
あたしが成長して、お兄ちゃんと一緒に戦える立派なボウケンシャーになった所を見せてあげるんだ!
……そういえば、ヨハンのおじさんはいつも一緒に組んでるお兄さんがいました。
ボサボサの頭で、ヌボーっとした、カワウソを大きくしたような感じの白衣を着たお兄さんで……いつも、あたしに甘いアメとかをくれる優しい人だったな……。
ヨハンのおじさんと違って、あたしやお兄ちゃんとあんまり喋ったりしなくて……。
いつもひなたで本を読んでるのんびりした人。
あの時は名前を聞かなかったけど、今もヨハンのおじさんと一緒にボーケンしているのかな?
もし一緒にボーケンしていたら、今度はちゃんと名前を聞こうと思います。
【アレッサ・ラングの手記 : 3枚目】
タルシスを目指す事になったので、しばらく隊商の護衛とか、商船の護衛とか……そういった仕事を探す事になりそうです。
でも、都合よくそちらの方面に行く隊商もないし、路銀をつかって寄り合い馬車に乗ったりする事になるだろう……って、お兄ちゃんがいってました。
最近は周囲の街も「ちあん」が良くなってきたし、街道も整ってきたのでボウケンシャーがいなくても近距離なら大丈夫……。
そう思う商人さんも多いみたいで、依頼そのものが減ってきているようにも思えます。
だったら、ちあんがもっと悪くなればいいのに〜。
そう思ったけど「ちあん」がいい方が、街や国全体が平和だって事だから「ちあん」はいいほうが、いいんだよ……ってお兄ちゃんはいってました。
でも、本当に「ちあん」がよくなったら、ボウケンシャーの仕事、なくなっちゃうんじゃないかな?
あたしは……小さい頃からボウケンシャーだったし、ボウケンシャーじゃない仕事はよくわからないから、ボウケンシャーがなくなるのは困る……けど……。
お兄ちゃんは「本当に平和になったら、こういう仕事はなくなった方がいいんだよ」って言ってました。
あたしは、お兄ちゃんといっしょに世界中を旅して、少しずつ言葉を話せるようになって、色々な人にあって……。
旅をしながら生活をするのは楽しいと思うけど、お兄ちゃんは楽しくないのかな?
あたしと一緒だと、楽しくないのかな……?
……あたしは、小さい頃街に住んでました。
トロイアの街は「ちあん」が良くて平和な街だったんじゃないかな、って思います。
大きな騎士団があって……あたしが物心ついた時には、あたしとお兄ちゃんは大きなお屋敷の、薪割り小屋で寝泊まりをしていました。
あたしはよく覚えてないんだけど、あたしの生まれ育った村は化け物の襲撃を受けて、一晩で燃やされてしまいました。
あたしのお父さんは、その時の襲撃で村を守ろうとして死んでしまったそうです。
それからあたしは、お兄ちゃんと、お父さんの知り合いである貴族のおじさまに引き取られて育ちました。
貴族のおじさまの家は広くて……あたしはいつも、お屋敷を走り回って、お掃除とかお洗濯とか……沢山の仕事を言いつけられ、走り回っていました。
まいにち、毎日、手は真っ赤になって……靴をはくのもダメって言われて、裸足で走って。
でも、怪我をして血をこぼしたら「じゅうたんが汚れる」ってたくさん怒られて、そういうのが毎日まいにち続いて……。
……イヤだったな。
でも、お兄ちゃんが屋敷からあたしを連れて出ていってから、そういう意地悪をする人は世界に沢山いないんだって知りました。
いじわるをする人がいても、そういう人がいない場所にいけばいいんだ、ってお兄ちゃんが教えてくれて、それでもう、あたし我慢しなくても大丈夫なんだって思って……。
これからずっと、お兄ちゃんが一緒にいてくれると思うと、とってもとっても嬉しかった。
だからあたしは、街でずっとくらすのはイヤ。
意地悪する人とかと離れたり出来ないし、色々なものを見る事が出来なくなる生活はイヤだけど……。
お兄ちゃんは、やっぱり街で暮らしたいのかな……?
ムズカシイ事を考えた気がします。
明日から、いっぱい歩いてタルシスを目指すぞー!
【アレッサ・ラングの手記 : 4枚目】
お金を出して乗合馬車で、街道をずっと南下して……それから商業都市をさらに西に、そして船に乗ったらさらに北へ、それから……。
タルシスに行くには順調でも一ヶ月以上はかかるとアシュレイ兄さんがいっていて、あたしはそれだけで 「ふぁぁぁぁぁ〜」 って感じです。
もともと、あんまり地図を見るのは得意じゃないから道順は全部お兄ちゃんに任せてるけど……いっぱい旅が出来るのは嬉しいけど……。
それでも、一ヶ月ずーっと移動し続けるのは初めて!
今回も、ヨハンおじさんの手紙がなかったらホワイトヘルムの街にしばらく留まって依頼を受けるつもりだったし……。
今までも、少し移動して拠点をかえたらしばらくそこで依頼を受ける……って事が多かったから、こんなに長い時間、仕事でもないのに移動するのは初めてだから……。
ワクワクするけど、不安もいっぱいあるかな。
あんまりお金もないので、依頼がありそうなら依頼を受けながら進むってお兄ちゃんもいってるし……そうなると、タルシスにつくのは、もっともっと遅くなりそうです。
思ったより大変……。
お金がないと、宿に寝泊まりさせてもらえないし、馬車にも乗れないから徒歩で野宿も増えるし……旅は嫌いじゃないけど、やっぱり暖かいベッドで寝たいし、ごはんも石みたいに堅い携帯食のパンとか干し肉、干しリンゴばっかりじゃヤダし……。
旅をしながらの生活、楽しいけどやっぱり大変だな……。
ひとまず、タルシスに到着したらしばらくここが拠点になるし、ひょっとしたら1年くらいはその近辺で生活するかも……。
そういってたから、こんな大移動はとうぶん無いと思うけど……。
今までで一番の大移動!
お金も足りるかどうかわからないし心配がいっぱいだけど、お兄ちゃんが一緒だから大丈夫だと思います。
タルシス、どんな所かな……?
【アレッサ・ラングの手記 : 5枚目】
最後の日記を書いてから、とーーーっても日にちが開いてしましました。
お兄ちゃんに 「三日坊主かな」 って笑われちゃったけど、本当に、本当に、字を書く練習に飽きちゃったから日記を書いてなかったんじゃないよ?
ただ、日記を書くのにつかっていた木炭をなくしちゃって……。
新しい木炭を買うのも勿体ないし……路銀の事を考えて、我が儘も言えないかな……と思ってたら日にちがどんどん開いて……うぅー。
共通語、ちゃんと書けてるかな?
こんにちは! あいさつはちゃんとかけます。(たぶん) こんにちは!
そうしたら、アシュレイ兄さんが「ちゃんと練習しているご褒美」といって、羽ペンとインクをくれました。
すごく高いものじゃないから、インクはなくなったら言えば買ってくれるそうです。
嬉しい! 嬉しい!
アシュレイ兄さんがあたしにプレゼントしてくれた!
嬉しい!
嬉しい事といえば、しばらく旅をして、やっとたどり着いた大都市のボウケンシャーが集まる宿で、なんとヨハンおじさんに会いました!
ボウケンシャーが集まる宿とはいえ、この街にはたくさん宿があるのにヨハンおじさんと会えるなんて、すごい偶然!
ヨハンおじさんはもじゃもじゃの髪が燃えるように真っ赤だから、遠くからもすごく目立つのです。
弓に長けた赤毛のおじさんだから、ボウケンシャーの中では「赤雷のヨハン」って、二つ名もついてるんだって。
でも、ヨハンおじさんは「そんな大仰な名前はガラじゃねぇよ!」って、そう呼ばれるのは凄く恥ずかしそうでした。
あたし、遠くから見ても「あれはヨハンおじさんだ!」って思って「ヨハンおじさーん!」って思いっきり抱きついちゃった。
今思うと、もし違ってたらすっごくはずかしかったなーって思います。(あってたけど!)
そうしたら、ヨハンおじさんは、あたしを見てもあたしが誰だかわからなかった見たいで、しばらくじーっと立ってて……。
んー、きっとあたしの事を忘れてたんだろうな〜。
でも、後ろからアシュレイ兄さんが出てきてたら、思いだしたみたいで 「アシュレイ! という事は、こっちが……アレッサか!」 そうやって笑うと、あたしの頭をもみくちゃにして撫でてくれて……。
何か、久し振りにあったかかったなぁ〜。
でもそのあと 「だが俺ぁオッサンじゃねぇ! まだお兄さんだ! ……まだ30にもなってねェんだからな!」 そうやって怒るから、あたし本当に 「え!」 って言っちゃった。
後できいたら、ヨハンのおじさんはまだ28歳なんだって。
それでも、あたしより倍は長生きだからやっぱりおじさんかな? って思ったけど「世間では28はオジサンじゃねぇの」って言い張るから、ヨハン「お兄さん」って呼ぶ事にしました。
勝手におじさんだと思っててごめんね、ヨハンお兄さん。
それにしても、あたしの記憶にあるヨハンおじ……ヨハンお兄さんは、クマみたいに大きくていかつい人だったんだけど、今見てみたら思ったよりほっそりしていて、小柄……。
といってもあたしよりずっと、ずっと大きいけど、お兄ちゃんよりちょっと背が低くて 「あれ? ヨハンおじさん縮んじゃった?」 って、そう言ったら 「お前らがでかくなったんだよ!」 ってまたヨハンさんを怒らせてしまいました。
以前あった時は、ずっと大きく思えたけど……。
そっか、あたしもお兄ちゃんもすっごく大きくなったんだな〜。
それで、ヨハンさんは縮んじゃったんじゃなくて、アシュレイ兄さんが大きくなったんだ……。
いつもそばにいたから、お兄ちゃんはずっとお兄ちゃんだと思ってたけど、久し振りに会う人にはすごく大きくなったように見えるんだ……あたしも、きっとすごく大きくなったから、ヨハンさんもわからなかったんだね。
そうだ、驚いたといえばもう一つ。
あたしがカワウソみたいにヌボーっとした感じの優しそうな人だなって思っていた人は、まだヨハンさんと組んでお仕事をしてました!
その人は、あたしの記憶ではいつも猫背で小さくまるまって本を読んでた人だったんだけど、実際会ったら、すごくすごく大きい人。
ヨハンさんは勿論、お兄ちゃんより大きくて肩幅もあって……。
猫背だから小さくなっている印象だったけど、本当はすごく背が高くて、記憶って結構あいまいになっちゃうんだな〜っておもいました。
ヨハンさんの相棒の名前は 「ギン・シラヌイ」 さん。
変わった名前だな〜って思ったらあたしの今いる土地よりもずっとずっと離れた所から来た人なんだって。
ヨハンさんとは腐れ縁?
何かと同じような仕事を受ける事が多くて、それから自然と連むようになった……って、説明を求めてないのに、ヨハンさん勝手に説明してくれた!
別の仕事を受ける事もあるから完全な「相棒」「コンビ」という訳でもないみたいだけど、最近はすっかり一緒の行動が増えたんだって。
それってもう「相棒」って事だよね?
ヨハンさんは「相棒」とか「コンビ」として扱われるのは何となく気恥ずかしいみたいだけど……。
ギンさんは、あまり喋らないでただじーっと話をしてるあたしや、お兄ちゃんや、ヨハンさんを見ていただけだった。
でも、何となく楽しそうだったかな……?
「せっかく会えたし、これからタルシスまで一緒に行きましょう!」 っていったら 「あぁ」 と小さく頷いて 「よろしくな 」って笑った顔、何となく嬉しそうに思えたんだ。
「久し振りに賑やかな旅だ」 って……あたしも、お兄ちゃん意外のボウケンシャーと旅をするのは久しぶり。
同じ依頼を受けたボウケンシャーさんと何日か一緒に組んで戦ったりする事はあるけど……。
何となく、今回はもっと長いお付き合いになりそうであたしもとっても楽しみです。
タルシスも、いい所だといいな……。
【アレッサ・ラングの手記 : 6枚目】
あたしは、小さいながら剣をもってモンスターと戦う……よく、「戦士」とか「傭兵」とか「ソードマン」とか「ファイター」とか……。
そういう風に分類される「アタッカー」という役割なんだよ、ってお兄ちゃんによく言われてました。
「本当はアレッサには前線じゃなく、後衛に回って欲しいんだけど」
お兄ちゃんはそうやってあたしの事を心配してくれるけど、あたしだってお兄ちゃんを守りたいし、お兄ちゃんの相棒はあたしなんだよって思われたいから、あたし、がんばるんだもんね!
で……ヨハンおじさ……お兄さんは、弓が得意。
前に立てない訳でもないけど、後方から狙って撃つ! そういうのが得意な人なんだって。
ボウケンシャーには、あたしやお兄ちゃんみたいな 「前に立ってモンスターを倒す人」 とかヨハンお兄さんみたいに 「後衛にまわり時期を狙う人」 とか。
そういう、自分の技や腕で喰う連中が多いんだ、って言うけど、ギンさんのお仕事は、お医者さん。
メディックとよばれる救護班の一つで、効率よく回復させたり、怪我の治療をしたり、毒を吸い出してなおしたりする、そういう治療のエキスパートなんだって。
最も、そういう 「お医者さん」 って人は儲からないまでもどこにだって必要とされるから街から出ない事が多いのが普通なんだ。
ギンさんは、どうしても旅に出なきゃいけない理由、きっと何かあったんだろうな……。
「今まで、後衛二人で旅してたからなァ、これから前を任せる事が出来る奴がいるのは頼もしいぜ」
ヨハンさんはそうやって嬉しそうだった。
実際、今日出た狼も(群れじゃなかったから簡単に追い払えたけど)ヨハンさんが真っ先に威嚇射撃をしてくれたからあたしと兄さんはひるんだ相手をすぐに追い払う事が出来たし。
ちょっとした怪我は全部、ギンさんが 「簡単な治療だが」 その一言でなおしてくれるから、戦った後もそんなに疲れないでまた歩き出す事が出来るの。
戦ってもほとんど怪我が、ちゃんと治療されてる。
それだけでもすっごい心強いよね。
ギンさんは、そのへんにある薬草とかすぐ見付けて薬にもしてくれるし……メディックってすごいんだなーって、感心しちゃったよ。
でも、戦いがあるとあたしも、お兄ちゃんもボロボロ。
別にあたしが弱い訳じゃないよ! そう思うんだけど。
「やっぱり、一人くらいは欲しいよな。アルケミストか、星読みか、ルーンマスター」
アルケミスト? 星読み? ルーンマスター?
あたしは聞いた事がないけど、ヨハンさんが言うには 「炎を出したり氷を飛ばしたり、そういう事が出来る人たち」 なんだって。
最も、アルケミストは「触媒」と呼ばれる、炎を出したりするような道具? が必要。
その調合には技術がいるし、大体のアルケミストは学院と呼ばれる……学校? のような場所から出てくる事もないし、星読みと呼ばれる人たちも特定の地域しかいない魔術師。
たくさんいる、ボウケンシャーの中でもこの「属性」で攻撃を自由に出来る人たちはほんの少ししかいないんだって。
「タルシスにはルーンの学業が盛んだときく、ルーンマスターなら……いるといいんだがな」
ギンさんもそういってた。
あたしも、兄さんも弱くないと思うけど、そんなに大事なんだね、火を出せる人。
確かに便利だもん。あたしたち、火をおこすのにいつも小さな種火をつくってそうやって出してるけど、「属性」をつかえる人は、一気にボーン! って出せるんだよね。
それってすっごい事だよ。
……あってみたいな、ルーンマスター。
タルシスにルーンマスターは居るのかな……? もし居たら、仲間になってくれるといいんだけど。
【アレッサ・ラングの手記 : 7枚目】
また暫く、文字の練習をするための時間があいてしまいました。
こんにちは! あいさつはちゃんとかけるよ。こんにちは!
……忘れてた訳でもサボってた訳でもないんだ。
タルシスの方に向かうための、護衛の仕事があったんだけど、その仕事が厳しいの!
元々、軍? 騎士? の関係者の護衛だったから、朝5時起床! 就寝は21時!
2時間ごとに見張りの交代!
……あたしだって、ボウケンシャーだから、命令されなくてもやるよ、そういう事は!
でも時間きっちりで、出来ないと、ジャムだと思って食べたパンがカラシソースだった時のクレーマーみたいに早口でまくし立ててお説教するし、ちょっとでも話したりすると「私語は慎むよーに」って命令口調で黙れっていうし。
本当、イヤになったったよー。
すっごいしぶちんで、あたしが買って、あとで楽しみに食べようと思っていた干しりんごを「依頼人優先であーる!」とかいって、勝手に食べちゃったし。
あたしが買ったやつだよ! あたしのおやつなのにー。
もう本当、あったまきた!
……あたし、普段は兄さんと一緒に自由で旅していたから、あぁいう奴と一緒の旅はすごい疲れるんだよね〜。
兄さんもギンさんも「あぁいう奴もいるよ」って冷めた感じだったけど、あたしはイヤだったなー。
ヨハンおじさんもすっごい、あぁいうエラそうなのは苦手みたいで、いっつもかくれて舌打ちしていたからあたしもかくれてベロ出してやったんだ。
あーあ、本当にイヤな仕事。ううん、仕事は普通だから、イヤな依頼人だったなぁ。
でも、これで一気にタルシスに近づいたよ!
やっとあの依頼人と別れる事も出来たし、あと乗合馬車をひとつのれば、タルシスなんだって。
このへんは、あったかくてごはんも美味しいしからきっとタルシスのごはんもおいしいよね。
おいしいもの大好き! おいしいといいなぁ。
そういえば、タルシス発の馬車が出る所で先に、明日の出発便のチケットを予約しておいたんだけど……。
交通の便がいいところだと、予約って出来るんだね、べんり!
あ、そこでね、ヨハンさんみたいな真っ赤な髪の毛の、ふわふわした服をきた人とあったんだ。
手に杖をもっていて、ボウケンシャーみたいなんだけど、ボウケンシャーってさ、あたしとか兄さんみたいに、鎧を着こんだ人が多いんだけど、あの人は布みたいなぺらぺらな服を着ていて。
あれ〜? と思って見てたの。
切れ長の目をして、お人形さんみたいで綺麗だなーとも思ったし。
そしたらその人、あたしたちの事に気付いたのかな。
「これから、タルシス行かれるんですか」 って話しかけてきたんだけど……その声が、すっごく低いの!
女の人かなーと思って見てたんだけど、あっ、男の人だったんだって、あたし驚いちゃった。
背も、あたしと同じくらいかな? と思ったから、女の子だと思っちゃったんだよね。
兄さんが 「これからタルシスに行く」 って事。
それと 「世界樹の迷宮、探索に希望している事」 を説明すると、その人も興味深そうに聞いていてね。
「あはぁ、実はボクもなんですよね。奇遇ですねー、お仲間さん? いないんだったら、ご一緒にどうですか」
って、そういうの。
あたしは、 「あなたみたいに、ひらひらの服でボウケンシャーなの?」 って聞いちゃった。そしたらね。
「ボクはルーンマスターって、魔法みたいなモンを使う職業ですから、かさばる服は苦手なんですわ」
そういうの。
ルーンマスター! 魔法使いさんだったんだよね、あたし、魔法使いさん初めて!
ずっと、戦士とかが多い場所にいたから……。
今までいたけど、あんまり関わらない事の方が多かったからあたしが気付かなかっただけかもしれないけどね。
その人は自分の事「ウェスト」って名乗ったの。
人当たりもよさそうだし、きっと悪い人じゃないだろうなーって思ったんだけどね。
「何かあるよな、あいつ。直感的にだけど、何となく……イヤな雰囲気だ」
ヨハンさんはそういってた、何か、ひっかかるみたい。
それは兄さんも同じみたいで。
「……こう、説明はできないけど。何か……隠している、嘘を付いている奴だと、思う」
そうやってあたしに説明してくれた。
嘘つき……?
うん、確かに何かちょっと、うまくいえない、違和感みたいなのがあったけど……考えすぎだと思うな。
「タルシスでもしあって、魔術師が必要ならボクにお声をかけてくださいな。……こっちもワケアリで今、一人旅ですから。向こうで仲間を捜そうと思ってますんで」
ウェストさんはそういって去っていったけど。
ルーンマスターは魔法使いで、きっとあたしたちと一緒にいけばちょうどいいんじゃないかなって、そう思うけど。
兄さんとヨハンさんの 「冒険者のカン」 ってやっぱり邪険にはできないもんね。
どうするんだろうな……?
あっ、ギンさんは 「どうでもいいなぁ、それより腹減った」 って言ってた!
ギンさんは、あんまり細かい事気にしないみたいね。
「冒険者なんてやってれば、多少後ろめたい連中もいるだろ」 って感じ。
あたしも、それはそうだと思う〜。
でも、すっごい悪い人だったらイヤだな……。
そんな事なさそうだけど。
タルシス……どんな所かな……。