> ハイラガ行 〜 仰がば虹の橋ありて。






 樹海へと続く道に、凄惨な血の臭いが香る。


 「一刻も早く、この事を伝えねば。大変な事に……」


 血を失いすぎているのだろう。
 足下のおぼつかない衛士に、アズマは黙って肩を貸す。

 無言のまま与えられた優しさに、衛士は静かに会釈だけで感謝の意を示した。


ローズ : 「……無理はいけませんわ。傷はふさがっておりますけれども、無茶出来る身体ではございません事よ?」


 それにしても、あまりに急ぎすぎである。
 己が命も使い尽くす程、直向きに進む姿に不安を覚えたローズは彼の顔をのぞき込んだ。


シュンスケ : 「お守り致しますから、暫く休んだらどうですか……」


 衛士の体調が気がかりなのは、衛生兵たるシュンスケも一緒なのだろう。
 だが衛士は無言で首をふると、出口を目指し進み続ける。


 「いいんです、私は伝えなければいけないのです、そう……」


 あの 怪物 の存在を。
 衛士の目には、強い決意の色が伺えていた……。




> 彼とらの事情。




GM : 「さて、かくしてキミたちは傷だらけの衛士をつれ、エトリア……じゃなかった、ハイラガの街へ戻ってきた訳だが」


アズマ : 「ひとまず、ここなら安全でしょう……さて、それで衛士の旦那がいう『大変な事』ってのは何ですかねぇ? 聞かせてもらえますか?」


GM : 「ふむ……話はひとまず、公宮へ向かってからだな。報告したい事もあるし……」


アズマ : 「なるほど、それじゃぁアタシらも公宮までお供しましょう。よござんすね、皆さん?」



一同 : (無言で頷く)



GM : 「では、皆公宮に向かうのだな……すると、キミたちを見つけた大臣が大慌てでやってくる。 (大臣)『おぉ、さばみそギルドのモノたちか。やや、そちらは……よもやこんなに早く衛士を探し出してきてくれるとは』



ミクト : 「じいさん、大臣だったのか?」


GM : 「ん、行ってなかったか? 大臣だ……何だと思ってたんだ?」




ミクト : 「越後のちりめん問屋」




GM : 「それは隠居しているけど実は王様クラスの権力者って事だからな? ……衛士は大臣に自分の見た事、体験した事をザックリと説明する。だが、自分一人で聞くよりキミたちも聞いた方がいいと判断したのだろう。彼は君たちの方を向くと (大臣)『一緒に聞いてもらえますかな、さばみそギルドの皆様。実は……』と……」



ミクト : 「そのジジイ、話長いからかいつまんで説明してくれ」



GM : 「相変わらず大臣の扱いがぞんざいだな……まぁいいが。かいつまんで説明すると、衛士の報告より、最近3階のような浅い階層でも衛士達も太刀打ちできない強敵が現れ始めたのは、5階に現れたキマイラの咆吼により、強敵が呼び寄せられ。あるいはモンスター達が鼓舞された結果らしい」


アズマ : 「キマイラ……? ちょっとまってくだせぇ、キマイラってのは、何もので?」


アクセル : 「名前はよく、RPGなんかで聞きますけど……」


シュンスケ : 「キマイラは、一般的にはギリシア神話に伝わるライオンの頭とヤギの胴体、毒蛇の尻尾を持つ魔獣の事ですね」


ローズ : 「知っておいでですのね、おじさま!」


シュンスケ : 「し、知ってるって程詳しい訳じゃないけど……」


ミクト : 「流石だな、雷電!」


ローズ : 「おじさま、雷電ですわ! 雷電!」


シュンスケ : 「い、いや! 雷電じゃなくてシュンスケ・ルディックだよっ!」


ミクト : 「それで、そのキマイラという魔物は何が弱点なのだ、雷電・ルディック」


ローズ : 「弱点は何なのか教えるのですわー、シュンスケ・雷電おじさま!」




シュンスケ : 「ひ、人の名前を勝手に変えないでくれよ! えぇっと、弱点といってもなぁ……僕が知っているのは、だから、ライオンの頭だったりヤギの頭だったり、尻尾が毒蛇だって事くらいだから……せいぜい、毒攻撃をつかうのかなぁって事くらいだよ?」



アズマ : 「う〜ん……今までの経験から、シュンスケの旦那がもっている知識とこの世界樹に住む魔物の知識にかなりの相違があるから、常識を捨ててかからなきゃいけないやもしれませんが……」


ローズ : 「おじさま、針ネズミ様とかひっかきもぐら様にボコられてましたものね〜」


アクセル : 「でも、キマイラは現実の動物じゃないですよ。ファンタジーの魔物なら、実際に現れるかもしれない……毒攻撃は警戒しておいた方がいいかもしれませんよ」


GM : 「(大臣)『……よもや、5階に住み着いたキマイラなる魔物、そなたらがうち倒してくれるというのか?』




ミクト : 「うわぁっ、じいさんまだいた!」




GM : 「いるぞ。当然だろう、ここを何処だと思っている、公宮だぞ? この人の職場だぞ?」(笑)


アクセル : 「要点をかいつまんで説明してもらっちゃったから忘れていたけど、そうか、これは公宮からの依頼(ミッション)なんですね」


GM : 「そうだ。5階にいるキマイラ、その咆吼により他の魔物たちが凶暴化しているのなら、捨て置けないというのが公宮の見解だ。すぐに、キマイラ討伐の冒険者を派遣したいのだが……」


アズマ : 「よござんすよ、乗りかかった船でござんす。ここは、アタシたちが決着をつけてさし上げましょうや。皆さんもそれでいいでしょう?」


アクセル : 「俺は構いませんよ。公宮の依頼なら、報奨金も多いでしょうから……」


ローズ : 「はいはいはーい! 私(わたくし)もいきますわー! 悪い事をするキマイラさんにおしりペンペンしちゃいますの!」


アクセル : 「でも……アニキの言う通りだと、キマイラのお尻には蛇がいるぞ、ローズ」


ローズ : 「蛇! む〜……ローズ、蛇さんはちょっと苦手ですわ……」


ミクト : 「……」


ローズ : 「……ミクトお兄さま? ミクトお兄さまは、一緒に行きませんの?」


アクセル : 「そうか、残念だな、置いていくから留守番を頼む」




ミクト : 「いやいやいやいや、勝手に置いて行くなって! いや、ただなぁ……こういうイベントって結局、俺らがやる事になるだろ? こういう時、他のギルドメンバーたちは何してんだろーなーと、思ってさ」



GM : 「他の奴らは他の奴らで活動はしているだろう。ただ、キミたちより先に進んでいるか、キミたちより未熟なんだ」


アクセル : 「この街にいる冒険者も、まともに戦える連中は案外と少ないのかもしれませんね」


ミクト : 「でも、前あったフロなんたらって奴は結構やり手だろ? ……アイツの力とか借りられねーの?」


アズマ : 「たしかに、フロースガルの旦那ならかなりの戦力が期待できそうですねぇ……アタシらに力を貸してくれるなら心強いですが」


ローズ : 「クロガネ! クロガネも、いつでもモフモフできますわ〜」


アクセル : 「そうですね、フロースガルさんは恐らくパラディン。アズマさんの補助をしてくれれば助かりますから、白あたまを首にしてでもすぐにギルドINしてほしいくらいですが……」



ミクト : 「ちょ! 俺首はイヤ! イヤァァァァ! おいて、まだここに置いてぇぇぇぇ!」


アクセル : 「ただ、残念ながらフロースガルさんが今どこにいるかは分かりませんよ。何か用があるとかいってましたし」


GM : 「フロースガル、その名を聞いた大臣は少し難しい顔をする。 (大臣)『フロースガル、とはベオウルフというギルドを率いていた男か?』」


アクセル : 「はい……ご存じなのですか、大臣様?」


GM(大臣) : 『あぁ……どうやらベオウルフは、キマイラは浅はかならぬ因縁があるようでな……』


ローズ : 「まってくださいまし、大臣のおじいさま。あの……フロースガル様と、クロガネは……キマイラさんと、何かありましたの?」


GM(大臣) : 『ワシも詳しい事は知らぬが……フロースガルが率いるギルド・ベオウルフは以前、キマイラと闘って多くの仲間を失ったと聞く。そして、ベオウルフのリーダーはその仇を討つ為、キマイラを探し迷宮探索を続けていた、とも……しかし、かつて5名で挑んで勝てなかった相手。はたして、今、フロースガルとクロガネのみとなったベオウルフに太刀打ち出来るかどうか……』




一同 : し〜ん。(ゴクリ)




アズマ : 「どうやら、急がないといけねぇみたいですねぇ……」(チャキッ)


ローズ : 「こ、こ、このままでは、フロースガル様が! クロガネが大変ですわ、おじさま……」


シュンスケ : 「そうだね……大臣、この討伐の任務、我々に任せてください! さぁ、急いで迷宮に……フロースガルさんと、クロガネもきっとキマイラの所にいる。早く追いかけて、彼らを手伝わないと! さぁみんな、行くよ!」




一同 : 「「「おー!」」」



 そうして、公宮よりキマイラ討伐の依頼(ミッション)を受けたさばみそギルド一同は、フロースガルに以前教えてもらった「磁軸の柱」を用いて地下3階へ戻るのであった……。



GM : 「かくしてキミたちは迷宮は3階。最後に、フロースガルたちと出会った扉の前まで戻ってきた訳だが……」


ローズ : 「フロースガルさま〜、クロガネ〜!」


シュンスケ : 「流石にここには居ないようですね……奥でしょうか」


アズマ : 「あの時、ここで出会ったフロースガルの旦那が言う『他の仕事』ってのは他ならぬ、仲間たちの仇討ちの事だったんでさぁねぇ……」


アクセル : 「……そうですね。とにかく追いかけないと! 奥に道があるようです。鹿に注意して、先に進んでみましょう」


GM : 「その先には、4階への階段が存在する」


ローズ : 「おじさま、こっちに道がありますわ! フロースガル様もきっとこっちに……」


シュンスケ : 「ま、まってよローズ。急いだら危ないよ!」


GM : 「4階に向かっても、一見すれば3階と様子は大差ない。ただ……」


ローズ : 「フロースガル様ー、クロガネー!」(トコトコ)


GM : 「不用意に前に出たローズの目の前を、何ものかの影がかすめた」


ローズ : 「きゃぁぁ! 何ですの!?」


アズマ : 「危ない、お嬢ちゃん! ……慌てて手を引き庇いやすが、間に合いますでしょうか?」


GM : 「うむ……問題ないな。現れたのは、どうやらF.O.Eの影だったらしいが……F.O.Eは特定の軌道をまわるだけのようで、ローズに気付かず進んでいく……」


ローズ : 「あ! あの、F.O.E、壁をすり抜けて進んでますわ!」


GM : 「正確には、壁ではなく低い瓦礫だな……このF.O.Eは、キミたちがこえられない岩場や瓦礫などを、飛び越えて接近してくるF.O.Eのようだ。幸い追いかけてはこないが……」


アズマ : 「こいつは追いかけてこないだけで、空を飛び追いかけてくる輩もいるって事ですかねぇ……どっちにしろ、肝に銘じておきやしょう」


ローズ : 「ですわ!!」


ミクト : 「ふむふむ、肝に銘じておくのはわかったが。なぁ、アズマくん」(ぽんぽん)


アズマ : 「はい? 何ですかねぇ、ミクトの旦那」




ミクト : 「貴様! いつまでローズちゃんとくっついているつもりなんだ! 助けたついでに抱きついて離さないとはけしからん! ゆるしません、おじさんはそういう不純異性交遊許しませんよ!」




アズマ : 「ちょっ!? べ、別にアタシはそんなつもり、てんでありませんよっ! あらぬ疑いをかけないでくだせぇ!」



シュンスケ : 「不純……!? だ、駄目ですよローズ! は、は、離れなさい!」


ローズ : 「離れますわー」(ささっ)




アズマ : 「しかも保護者にまで疑いをかけられる始末! ……ち、違いまさぁで、シュンスケの旦那。アタシはローズの嬢ちゃんにそんな感情は……」



ミクト : 「ほーほー……子供連れのシュンスケくんを気の毒に思ってギルドINしたのではなく、ローズちゃん目当てでギルドINしたんですな!」


アズマ : 「ちがっ! ……ミクトの旦那、あんまり変な話作らないでくだせぇ!」



シュンスケ : 「……ローズ、僕以外の大人に近づいたら駄目だよ」


ローズ : 「わかりましたわ、おじさま!」



アズマ : 「ほ、ほら! 保護者の信頼を著しく損ねたじゃぁないですか! どーするんですか!」


ミクト : 「……ふふ、これでライバルが一人減った」


アズマ : 「ライバルじゃなくて、アタシら仲間でしょうが! 何でこんなつまらない事でアタシらが仲間割れなんぞしなけりゃ……」


ローズ : 「ローズ、アズマ様にとってつまらない女の子ですの?」


アズマ : 「え? い、いや、そんな訳じゃ……」


ローズ : 「……そうですわね、アズマ様のような大人の男性にとって、私はつまらない女の子ですわね……」(しょぼんぬ)


アズマ : 「いやいやいや、お嬢ちゃんは充分魅力的な淑女(レディー)ですぜ!」(オロオロ)


ミクト : 「ロリコンめ!」


アズマ : 「だから、別にそーいう訳ではっ……」



アクセル : 「はいはい、馬鹿やってないで先に進みますよ。F.O.Eの軌道を読みながら地図をつくらないと……F.O.Eは、追いかけてくる様子ありますか?」


シュンスケ : 「こんな時でも、冷静だねアクセル」(笑)


アクセル : 「大人の馬鹿に付き合ってたら、時間がいくらあっても足りませんよ……どうですか、GM?」


GM : 「……いや、ないな。キミたちの様子は目に入ってないようだ」


アクセル : 「俺たちに気付いてないだけか、それとも……とりあえず、アイツの軌道に入らない方向に進みましょう」


シュンスケ : 「それだと、西側にそれるコトになるね……」


GM : 「そうして、キミたちがF.O.Eを避けて西側へ向かうと、敵が現れる。現れたのは、イビルアイ……巨大な目に翼がはえたようなモンスターだ」




ミクト : 「イビルアイ!?」




アズマ : 「どうしたんですか、ミクトの旦那。そんな驚いて?」


シュンスケ : 「何か知っているモンスターとか、ですか?」


ミクト : 「いや…………たかだかめだまお化けイビルアイだなんて、随分中二病精神旺盛な名前つけちゃったなぁ、って思っただけ」


アクセル : 「そんな下らないコトでいちいち大人がでっかい声出すな! 全く……とにかく、見たコトがない敵だ。用心していきますよ、皆さん!」


GM : 「おっと、残念だが今回はこっちの先制攻撃だ、ローズに攻撃。ダメージは……68」


ローズ : 「ぴやっ!」


アクセル : 「大丈夫か、ローズ!?」


アズマ : 「ダメージ68だなんて、今の嬢ちゃんの体力ほとんどもっていったじゃないですか、全く……」


ローズ : 「ふぇぇぇ、痛いですの。痛いですの、おじさまぁぁ。アクセルぅぅ、あのおっきなお目めが、ローズの頭をげんこでぶったですのー、ローズ、悪い事してませんのにー」(ぴぃぴぃ)


シュンスケ : 「だ、大丈夫かいローズ……こら、泣いちゃ駄目だよ」(なでなで)


ミクト : 「おい、非道いぞこんな可愛いローズちゃんに容赦なく拳を振りかざすとは、GM、どういう神経しているんだ! 抗議する! 俺は猛烈に抗議するぞ!」


GM : 「……そんなコト言っても、手加減はせんからな? ルールはルール、ローズは前衛だから狙われやすい……当然だろう?」


アズマ : 「仕方ないでさぁね……やられたら、やり返すのが筋ってモンですよ。ローズの嬢ちゃんは怪我を治して。アタシは小手打ちで、とっととアイツを仕留めちまいましょうかねぇ!」


ローズ : 「ぐすぐす……わかりましたの、キュア! 痛いの痛いのとんでいけ〜で、ローズ痛くなくなったですわ!」


シュンスケ : 「よ、よかった……ローズ、怪我はもう大丈夫だね?」


ローズ : 「はいですの!」


ミクト : 「だが、心の傷は二度と消えないのだった……何て残酷なコトを! このGMは鬼だ! 悪魔だ!」


GM : 「勝手に大層な事件にするな。ローズは完全に立ち直ってすぐに闘っているぞ? 少しはオマエも闘ったらどうだ?」


ミクト : 「うぐ」


アクセル : 「そうだ、マトモに寝かせられない呪言をマスターするなら、弱体化でもとって少しは俺たちのサポート役でも徹したらどうだ?」


ミクト : 「うぐ。うぐ」


アズマ : 「ぐうの音も出なくなりやしたね、ミクトの旦那」


ミクト : 「いやー、でもたしかに俺、ねむらせられない相手が出たら今とんと役立たずだからな〜……アクセルの言う通り、弱体をスキルでも伸ばしていくかねー。アズマ打たれ弱いから、敵の攻撃力を下げる敵な奴とかいいよな」


アズマ : 「そりゃ、アタシには嬉しい提案ですが……ここはひとまず、目の前に居る敵に集中しましょうや! さぁ、小手打ちいきやす。よござんすか?」


GM : 「ふむ……流石に火力特化のアズマだな。それで倒れた」


アズマ : 「……また、つまんねェものを切ってしまいやした」(チャキッ)


ローズ : 「ううう〜、痛かったですわ〜」(ぐすぐす)


シュンスケ : 「よしよし……。(なでなで) う〜ん、しかし素早い上に攻撃が痛い相手でしたね。先を急ぎたい所ですが、新しい敵も出ますし。慎重に進む必要もありそうですね……」


アズマ : 「そうでさぁねぇ……今の攻撃、ローズのお嬢ちゃんは硬いからあの程度で済んでやしたが、アタシだったら一撃で沈んでいたかもしれやせんぜ?」


ローズ : 「アズマおにーさま、薄着でらっしゃいますからね……ほとんど裸ですわ」


アズマ : 「刀を持つとどうにも、分厚い装甲は邪魔でいけやせんからねぇ……」



ローズ : 「分かっておりますわ! アズマお兄さまは…………ろしゅつきょう、という方なのですわね!」



アズマ : 「いやいやいやいやいや! 別にそんなっ……積極的には出してやいませんぜ!」



シュンスケ : 「ど、ど、何処でそんな言葉覚えたんだい、ローズ!」


ローズ : 「ミクトお兄さまが言っておりましたわ! やたら裸になりたがる変態さんを、世間では露出狂というそうですわ〜」


シュンスケ : 「あはは、ローズ。そうかそうか…………ミクトさん、ちょっとハナシが」




ミクト : 「お、あっちにまだ道があるぜー! ガンガン先に進んで、フロなんとか男を助けにいこうぜー!」(脱兎の如く!)




シュンスケ : 「ま、待ちなさいミクトさん! ……コラ、待て! 待てぇぇぇぇぇ!」


アクセル : 「アニキが珍しくマジギレして、汚い言葉を使っている!」


ローズ : 「駄目ですわー、おじさま! あんまり先に行きますと、また強いモンスターが現れます事わよー?」


GM : 「…………そう言ってるうちに出たぞ、また、イビルアイ。また、先制攻撃だ、ミクトにガツン」


ミクト : 「あべし!」(ぺち)


アクセル : 「だぁからもう、言わんこっちゃない……ショット!」


アズマ : 「立て続けでいきやすよ! 集中攻撃でとっとと、ノシてやりましょうや」


GM : 「ふむ……流石に集中攻撃には弱いな。それで散った」


アクセル : 「ふぅ……あんまり突進しないでください、アニキ。今回狙われたのが白あたまだったから良かったものの、アニキに何かあったら、俺……」


シュンスケ : 「アクセル……ご、ごめん。ちょっと頭に血が上っちゃって、反省するよ」




ミクト : 「って。何で俺だったら良かったんですかー! 血、びゅーびゅー出ているんですけどー! 俺も重症なんですけどー!」




アクセル : 「オマエのソレは、完全に自己責任だ」


ミクト : 「そ、そうですね……自分でもそう、思います……」


アズマ : 「しかし、ここにきてちょいと敵さんの攻撃もまた厳しくなってきやしたねぇ……やはりここは一つ慎重に進みましょうや」


GM : 「そうやって方針をアレコレ相談しながら進んでいると、奥に衛士と思しき人影が現れる。 (衛士)『やぁ、君たちはキマイラ討伐を引き受けたギルドの人たちだね』 彼は人なつっこい口調で君たちに話しかけてきた」


シュンスケ : 「えっ? あ、あ、はい……その、出来るかどうか分かりませんが、出来る限り頑張ります!」


アクセル : 「アニキ、もうちょっと自信もって発言してくださいよ!」


ミクト : 「そうだぞ! 仮にもエトリアを踏破した英雄、さばみそギルドの名が廃るぞ!(勝手に名前を借りてるだけだけど)」


GM : 「さばみそギルドの名を聞いて、衛士は幾分か驚いたように見える。 (衛士)『あぁ、そうかキミたちがあのエトリアの迷宮を踏破した有名な、さばみそギルドの……キミたちが相手なら、ひょっとしたら本当にキマイラを倒せるかもね。いや、是非倒して欲しい。そうして、ベオウルフを……フロースガルを、復讐の束縛から解いてもらいたいんだ』」



ローズ : 「バケツ被ったおにーさま、フロースガル様をご存じなのですか?」


GM : 「別にこの大仰な兜はバケツではないんだが……。 (衛士)『うん、彼は我々衛士の手伝いもよくしてくれる……何より、若い冒険者たちを良く助けてくれる、とてもいい青年だよ。だから、私は出来れば、彼には生きていて欲しい。でも、彼は仲間の復讐の為、きっとその身体を犠牲にしてもキマイラを討とうとしている…あの執着、私たちにはもう止められないと思うんだ』


アクセル : 「キマイラとの因縁、か……」


アズマ : 「どうやら、フロースガルの旦那とキマイラとの因縁。アタシらが思っている以上に根は深ぇようですねぇ」


ローズ : 「バケツの衛士様! フロースガル様は? フロースガル様は、もう先にいってしまいましたの?」


GM : 「だからバケツでは……まぁもう、バケツでもいいが。 (衛士)『あぁ……とても険しい顔をして、傍らに黒い獣を携えさらに迷宮の奥へと向かっていったよ…………彼はいい奴だ。何も、なければいいのだけれども……』


ローズ : 「た、た、大変ですわ! フロースガル様、もう随分先に進んでらっしゃるみたいですの! このままではフロースガル様が……クロガネが……!」


ミクト : 「慎重に進んで行きたい所だけれども、どうやらあまり悠長に構えてはいられないみたいだな……よし、ここは慎重かつ大胆に牛歩でガンガン進んでいくぞ!」


アズマ : 「全然どうやって進むのかわかりませんぜ、ソレ」(笑)


ミクト : 「気持ち急いで、って事だよ! 全てのイケメンを憎悪する俺だが……世話になった奴を見殺しにする程、無慈悲なつもりはねぇからな!」



 かくして、4階への道を慎重に。
 かつ、大胆に進んでいく事と決めたさばみそギルドご一行。

 その道中。




GM : 「イビルアイが現れた。戦闘を始めてくれ」


ミクト : 「まためだまおばけか……」


アズマ : 「なぁに、とっとと刀の錆にしてくれやすよ、それ」(チャキッ)


GM : 「だがその前に、イビルアイの先制攻撃だな。ダメージはアズマだ……」(ガツン!)


アズマ : 「しまっ……!?」


ミクト : 「……おい、大丈夫か? 何かやたら、当たり所がよかった音が聞こえたんだが?」


アズマ : 「…………」(無言で首を振る)


ミクト : 「おいおいおい、前衛のダメージソースが離脱しちゃっちゃマズくないか!?」


アズマ : 「後は任せやしたぜ、皆さん……」(ガク)


ローズ : 「きゃー、アズマ様! アズマ様、死なないでくださいませー!」


シュンスケ : 「ど、どうしよう……回復? いや、でも……リザレクション?」(オロオロ)


アクセル : 「駄目だ! ローズもボロボロなんだからあと一発もらったら死ぬ……撤退、撤退だー!」



 イビルアイの思わぬ攻撃力に苦戦と撤退を強いられたり。



アクセル : 「この道は……あれ?」


ミクト : 「どうした? アクセル」


アクセル : 「いや、この林……何か踏み分けたようなあとになっているので、ひょっとしたら抜け道になっているのかなぁ、と思いまして」


ミクト : 「抜け道! 面白そうだな、何かお宝があるかもしれねぇし、行ってみようぜ!」(ずんずん)


アクセル : 「こら、勝手に行くなおい! 寄り道しているヒマはないぞ!」


アズマ : 「まぁまぁ……折角だから行ってみましょうや。何かいい武器でもあるかもしれませんし……」


GM : 「小道に入ると、その先は細い路地に繋がっている」


ミクト : 「お、いかにもお宝のにおいだな〜、ふっふー、探すぞ〜」


アクセル : 「おい、あんまり先に行きすぎるな、オマエは後衛なんだからな!」


GM : 「……等と宣いながらミクトが奥へと進むと、背後からF.O.Eがひょっこりと現れる


ミクト : 「え!?」


アクセル : 「だから言わんこっちゃないっ……逃げるぞ!」


ミクト : 「あ〜れ〜、ごむたいな〜!」


ローズ : 「や〜ですの! 追いかけてきますわ!」


アクセル : 「くぅ、アイツはどう見ても俺たちより力量が上ですよ、どうしたら……」


シュンスケ : 「……! 駄目だ、アクセル。ここから先は、行き止まりだよ!」


アクセル : 「!? ……本当だ、罠が沢山あって、これじゃとても抜けられそうにないよ。どうしたら……!?」


アズマ : 「ちょいと乱暴ですが失礼して……皆さんちょいと下がっていてくださいね……一閃!」(ずばっ!)


GM : 「……少々乱暴なやり方だが、アズマの一刀で罠は全て破壊され、君たちは木々を乗り越え奥にある小部屋へと逃れる」


ミクト : 「ふぇ〜、助かったー」


アクセル : 「全く、オマエが後先考えずに突っ込むからだぞ! 反省しろ!」


ミクト : 「てへ!」(ペロ)


アクセル : 「オマエがそれやっても、可愛くないからな!」


ローズ : 「あ、でも奥に宝箱がありますわ〜」


ミクト : 「よかったな、結果オーライじゃねーか! な!」


アクセル : 「ど・こ・が、オーライだ! コラぁぁぁぁ!」(ぎりぎりぎり)


ミクト : 「あふ〜ん!」



 F.O.Eに追いかけられつつ、隠し小部屋に迷い込んだり。



GM : 「現れたのは、マイマイダイオウだな。ずらっと森マイマイを引き連れてのご登場だ」


アズマ : 「森マイマイ自体は、1Fに出てくる雑魚ですが……こうも沢山出てくると、一気に倒せない分厄介でさぁねぇ……」


ローズ : 「マイマイさん、ヌメヌメしているから、戦うとベタベタになっちゃいますの〜、イヤですわ〜」


シュンスケ : 「まぁ、地道にやっつけていきましょう……殴るくらいしかできませんが」


ミクト : 「……」(じっ)


アクセル : 「……何やってるんだ、しろげ頭。オマエも戦闘に参加しろよ」


ミクト : 「いや、どうせ俺の攻撃はさしてダメージ与えられないし、こうしてガードでもしてようかと思ってな」


アクセル : 「たしかにオマエの攻撃力は微々たるもんだが、森マイマイなら多少はダメージ与えられるだろう? あいつ、1Fのモンスターだぞ」


ミクト : 「……それに、このまま粘液だらけのローズちゃんを黙って見守りたいという欲求が、だなぁ」



アクセル : (ガツン!)



シュンスケ : 「……ん? 何かいま、隣ですごい音がした気がしたけど、何かあったのかい、アクセル?」


アクセル : 「何でもないですよ。今ちょっと、生ゴミを処理しただけですから」


ミクト : 「ぴよぴよぴー」



 密やかにミクトランさんが処理されていたり。
 そんなどたばたがありつつも……。




ローズ : 「きゃー、後ろからF.O.Eが追いかけてきますわ〜!」


シュンスケ : 「とにかく、逃げるよ! あの扉を開けて、先の部屋に進もう! 流石にF.O.Eも扉を越えて追いかけてこないはず……」


GM : 「そうしてキミたちが扉を抜けると、眼前に上への階段が現れる」


アクセル : 「よし、このまま一気に階段で上の階へ!」


ミクト : 「え〜、俺そんな体力ないぞー。か弱いカスメになんてことを……」


アクセル : 「イヤならここに残ってモンスターに食われろ!」


ミクト : 「すいません、実は俺全力疾走大好きでした! ほっぷ! すてっぷ! かーるるいす!」


GM : 「上の階段をのぼると、すぐに磁軸の柱が見える」


アクセル : 「よし! 早速この磁軸の柱を起動しましょう! これで5階から探索が可能になりますよ!」




一同 : 「「「やった〜!」」」




ローズ : 「まっていて下さいませ、フロースガル様! クロガネ! すぐに私たち、さばみそギルドのみんなが助けに参りますわ〜!」



 ……何とか、5階へとたどり着くのだった。




> 誰がに鉄(くろがね)は鳴く




GM : 「かくして5階までたどり着き、探索をはじめたキミたちだが……」


ローズ : 「あ! キューブゼラチンさんが出ましたの!」


アズマ : 「あの敵は、こっちのHPを吸収しますからねぇ……殺(や)るんなら、一気に叩かないといけやせんぜ」


シュンスケ : 「その敵は、突攻撃でレアドロップしますから、とどめはアクセル。貴方がお願いしますね」


アクセル : 「わかりました、任せてください。アニキ!」(ジャキッ)




ローズ : 「あ! 今度はサイミンフクロウさんが出ましたの!」


シュンスケ : 「全体睡眠攻撃が厄介ですね……早めに仕留めてしまいましょう!」


アクセル : 「もし寝ても、俺が起きればドラッグバレットで一気に治療出来ますから、ご安心を!」



GM : (流石に5階まで行くと、レベルも上がり危なげがなくなってくるな……スキルも増えているし)



シュンスケ : 「駆け寄る襲撃者が出ました! 皆さんお気をつけて、ミクトさん!」


ミクト : よし、力祓いの呪言だ! これでダメージ軽減されるだろ」


アズマ : 「ミクトの旦那、恩に着ます! 嬢ちゃん、鬼力を!」


ローズ : 「わかりましたわ〜!」



GM : (ローズの鬼力化、ミクトの力祓いもレベルがあがって利いてきてるな……かなりパーティに安定感が増してきている、良い傾向だ)



シュンスケ : 「ふぅ……随分と、奥まで来ましたね。そろそろフロースガルさんと出会えてもいいと思うのですが……」


GM : 「……キミたちが奥に進むと、どこからか悲しげになく獣の声が響く」


ローズ : 「獣? ……クロガネ〜? クロガネ〜!」


アクセル : 「まて、ローズ! ……前の道を見ろ。血痕だ、血の痕が……道についている……」


ローズ : 「クロガネ! きっとクロガネですわ、クロガネ……クロガネ……」(とてとてとてとて)


アズマ : 「嬢ちゃん、先走っちゃいけませんぜ……北側の通路行ってみましょうや。何か、居ますか?」


GM : 「そこにいたのは、フロースガルの傍らに常にいた、黒い毛皮をもつ獣だった。その身体には、痛々しい傷痕から鮮血が滲み出ている……」


ローズ : 「クロガネ! ……あぁ、非道い怪我! 大丈夫でしたの、クロガネ? 今、お怪我を治してさし上げますわ! 大丈夫ですの、私、キュアも。ヒーリングも使えますのよ! キュア!」


GM : 「……しかし、クロガネの傷はふさがる様子はない」


ローズ: 「あら? あら……大丈夫ですわ、ヒーリングもつかえますの! ローズ、今度は上手にやりますわ! ……ヒーリング! ヒーリング! ……どうですの?」


GM : 「傷は、一瞬ふさがったように見える。だが……すぐに傷口は爆ぜると、また鮮血の臭いを周囲に漂わせた……」


ローズ : 「クロガネ……クロガネが、治りませんの。ローズのヒーリングが、きっと下手くそだから……クロガネが。クロガネが……」


シュンスケ : ぽむ。(と、無言でローズの肩に触れる)


ローズ : 「おじさま……」


シュンスケ : 「ローズのせいじゃ、ないよ。クロガネはね、もう……命を一生懸命使って、身体が疲れちゃったんだよ……もうそろそろ、休まなきゃいけないんだ」


ローズ : 「クロガネ……クロガネ…………」(ぎゅ)


GM : 「クロガネは、君たちを見ると傷だらけの身体をゆっくり起こし、毅然とした態度で西側の方を見据え一度、切ない声をあげる。そして、それまで床に丸めておいてあった羊皮紙をくわえた。その地図は、西側の様子を途中まで記してあり、だが途中からはぷっつりと記録が途絶えている。おそらく、フロースガルが……ベオウルフが使っていた、地図だろう」


シュンスケ: 「この地図が、ここにあるという事は……フロースガルさんは……」


ミクト : 「あぁ……恐らくは、もうこの世には……」


GM : 「ミクトの言葉に反応するよう、クロガネは一度遠吠えをする。それは、すでに亡き主の面影を偲ぶかのようであった……」



一同 : ……沈黙。



ローズ : 「クロガネ……クロガネ、偉いですわ。フロースガル様に地図を託されて、ここまで来たんですわね。フロースガル様の言いつけを守って、クロガネ。クロガネは、お利口さんですわ……」(ナデナデ)


GM : 「クロガネは、静かにその毛を触らせている。だがその毛先には、じっとりと鮮血が滲んでいた……」



ローズ : 「……許せませんわ。クロガネにこんなに非道い事をして、フロースガル様まで……! 私、怒りました事よ! 絶対に、絶対に、キマイラを……うち倒してさし上げますわ!」



ミクト : 「おお、ローズちゃんが本気だ!」


アズマ : 「クロガネは、嬢ちゃんのお気に入りでしたからねぇ……いや、アタシだって同業者をねじ伏せられればいい気はしませんし、ここは一つこのまま、キマイラ討伐といきやしょうや! ……ギルド、ベオウルフの意志。無駄にしちゃぁ、いけませんからね」


アクセル : 「全く、みんなもう突っ込む事を考えて……」


シュンスケ : 「でも、いつか戦わなきゃいけない相手だし……フロースガルさんには、お世話になっている。まだ、安否の確認は出来てないんだ……クロガネの姿を見ると望みは薄いけど……それでも、まだ間に合うかもしれない。行ってみる価値は、あるよ」


アクセル : 「そうですね……では、行きましょう。フロースガルさんの地図を頼りに、迷宮の向こう側へ!」




一同 : 「「おー!」」」



 かくしてさばみそギルド一同は、フロースガルの。ギルド・ベオウルフの仇を討つ為。
 彼らが命がけで残した地図を頼りに、さらなる迷宮の奥へ……。

 キマイラの住処へと、向かうのであった……。




アクセル : 「……地図通りだと、ここがキマイラの住処のようですね」


シュンスケ : 「あぁ……」


アズマ : 「名うてのギルド、ベオウルフのメンバーをたやすく屠る魔獣……さて、どんな奴でしょうかねぇ……皆さん、扉を開けますぜ。よござんすか? (皆が頷くのを確認してから) ……では」(ギィィ)


GM : 「アズマが扉を開いたのと同時に、殺気だった視線が迷宮の奥より注がれる……視線は複数。見れば、周囲には獣の王・キマイラの従僕たる者達が控えているようだ。王と従僕は、突如現れた君たちを得物として歓迎している……」


ローズ : 「ううう、こ、こわいですわ。アクセル、おじさま……」(びくびく)


アクセル : 「雰囲気に飲まれちゃダメだ、ローズ……あの中央にいるのがキマイラ……迷宮の平穏を脅かし、クロガネを。フロースガルさんを手にかけた親玉なんだろ? ……得物にするなら丁度良い!」(ジャキッ)


ミクト : 「カッコつけてるけど、声が震えてるぞー、アクセル」


アクセル : 「ち、ちが! これは……」


アズマ : 「あんまりチャチャ入れちゃアクセル坊が可哀想ですぜ、旦那……さて、でも坊の言う通りだ、こりゃ、得物にするにゃ充分の相手……腕が鳴りまさぁ」


GM : 「君たちが近づくと、眼前には獅子のような顔と身体に、ヤギの頭。毒蛇の尻尾をもつ、まさに伝説上の生き物そのままなキマイラが悠然と立ち上がる。その爪にはキミたちには見覚えのあるモノが……かつて、フロースガルと呼ばれた聖騎士の身につけていた、装飾の一部がきらりと輝いた」


ローズ : 「フロースガル様! フロースガル様、やっぱり……」(ぐす)


シュンスケ : 「ローズ……まだ、泣いてる場合じゃないよ。僕たちはやらないと……フロースガルさんの、仇を!」


ローズ : 「そう、ですわね……おじさま! アクセル……いきましょう! アズマお兄さま。ミクトお兄さま、力を貸してくださいましね?」


アズマ : 「勿論でさぁ!」


ミクト : 「可愛いお姫様の頼み、断れないって。なぁ?」


ローズ : 「では……魔獣・キマイラ! 今日のローズは、本気で怒っておりますのよ? 覚悟はよろしくて? ……いきますわよ!」




一同 : 「「「おー!!!」」」




GM : 「君たちが武器をかまえるのを見て、キマイラは笑うように牙を剥く……キミたちを完全に得物として認識したようだ。さぁ戦闘だ、どうする?」



アズマ : 「アタシは、小手打ちを!」


ミクト : 「小手、あるのかな。アイツ?」


アズマ : 「適当に前足あたりを打ちのめしておきまさぁ」(笑)


ローズ : 「だったらローズは、巫術:鬼力化でアズマ様をサポート致しますわ! 鬼力化を!」


アズマ : 「すまねぇ、お嬢ちゃん。恩に着まさぁ」


シュンスケ : 「私は……どうしましょう。まだ誰も怪我をしてませんし、えーと、アイテムで何かつかえるものは……。(ごそごそ) あ! ありました、氷術の起動符です! これで攻撃を……えっと、これはどう使うんでしたっけ」(オロオロ)


アクセル : 「大丈夫ですかアニキ? 俺は……とりあえず、精密射撃で様子を見ます」


ミクト : 「んじゃ、オレ様は力祓いの呪言を! これでちったぁダメージが軽減されるといーがなぁ……」



GM : 「了解、じゃぁ戦闘は……ローズからだな」


ローズ : 「鬼力化! ……発動致しましたわ!」


アズマ : 「よござんすよ、お嬢ちゃん……それじゃ、そのまま小手打ち! ……よござんすか?」


GM : 「ダメージは249……利いてるな」


アクセル : 「精密射撃! ……どうですか?」


GM : 「ダメージは88だ」


ミクト : 「敵の攻撃はまだだな、よし……力祓いの呪言!」


GM : 「……弱体にされるとこっちは解除が出来ないのは地味につらいな、抵抗はできん。かかった」


ミクト : 「よしよし、これで装甲の薄いアズマでも初撃で死ぬ事ぁねぇだろ…………多分」


アズマ : 「旦那、忍びねぇなぁ」


ミクト : 「かまわんよ!」


シュンスケ : 「私は、氷術の起動符を……触媒はこれですね……発動せよ! 氷の刃よっ!」(ぼぼん!)


GM : 「……きいてるな、ダメージは115」


シュンスケ : 「やった!」


GM : 「一通りの攻撃が終わったらこっちの番だな……キマイラの攻撃は、双連撃!


ミクト : 「双連撃?」


GM : 「これは、単体に二回攻撃を繰り出す技だ……狙いは、前衛だな。ローズに二回攻撃!」


ローズ : 「きゃぁぁぁぁ、いやーですわー!」


ミクト : 「率先してローズを狙いやがって! このロリコンめ!」


アクセル : 「こいつロリコンなのか、全く厄介な!」


ミクト : 「え……アクセルくん、こいつも、ってどういう事、か、なぁ!?」



ローズ : 「ぺちっ、ぺちっ。う〜、いたいですわ〜」


GM : 「そんな、ぺちっ程度の痛みではないぞ……とはいえ、ミクトの呪言がきいてるな……ダメージは22が2回。つまり44」


ローズ : 「へっちゃらですの! まだ泣きませんわ!」


シュンスケ : 「ローズは強い子だねぇ」(なでなで)


ローズ : 「えへへ……ほめられましたの! ローズ頑張りますわ!」


アズマ : 「地味にアタシより守備力ありますからねぇ、嬢ちゃんは。羨ましいでさぁ」




GM : 「では、次のターン。2ターン目に行くか……」


アズマ : 「キマイラの旦那は、まだピンピンしてるんですよねぇ……とにかく小手打ちを!」


ローズ : 「私は、今度はアクセルに鬼力化を致しますわ〜」


アクセル : 「ありがとう、ローズ」


シュンスケ : 「私は、ローズに回復を……どうやら行動はキマイラより私の方が早いみたいですね。キュアにしておきます」


アクセル : 「……精密射撃より、属性ショットの方がいいかな? だけど、属性だともし属性違いがあるとダメージ与えられないし。うーん……迷うけど、とりあえず雷打ち込んでみます。サンダーショット


ミクト : 「もう一個弱体入れておいた方がお前ら有利だべ……軟身の呪言を!」


アズマ : 「ありがてぇ……ここにきて、旦那のスキルが輝いて見えまさぁ」(笑)


GM : 「最初はスキル無しだった男が、今は力祓いレベル10だからな……流石にレベル10だと弱体もキツいんだ」


ミクト : 「オレも戦闘でする事増えた気がするぜ! もう役立たずなんて言わせない! スキルをとっただけで戦闘でこんなに頼りにされる! 女の子にもモテモテ!」


アクセル : 「大人の嘘はこれくらいにして……次の戦闘にいきましょう」



GM : 「キマイラはそんなに早くない。行動はそっちからだな」


ローズ : 「私からですわね! 鬼力化を、アクセルに! アクセル〜、頑張ってですわ〜」(おててふりふり)


アクセル : 「あぁ、ありがと」


アズマ : 「アタシは小手打ちを……ダメージはそんなに変わりませんね、221です」


シュンスケ : 「僕はキュアを! ……大丈夫だったかい、ローズ」


ローズ : 「はいですの! ……大丈夫ですわ、全快いたしました〜」(おててふりふり)


アクセル : 「次は俺がサンダーショットを!」


ミクト : 「……の、前に俺が守備力下げておいてやるぜ。軟身の呪言だ!」


GM : 「……弱体はもらい放題だな。うん、守備力が下がった」


ミクト : 「よし! ……とはいえ、守備力弱体の方はスキルレベル1だから大した事ねーけどな」(苦笑)


アクセル : 「だが助かる! こっちは属性攻撃……サンダーショット! ダメージは?」


GM : 「151……随分跳ね上がったな。鬼力化&弱体のコンボは恐ろしいな」


アクセル : 「良し!」


GM : 「では、こっちの攻撃か……キマイラの劫火! ……これは、炎攻撃だ。炎を吐くぞ、ごぱー……っと。対象は、アズマ、ローズ。二人だ」


ローズ : 「またですの〜!?」


アズマ : 「炎まで吐いてきやがるんですか、全く厄介な……!」


シュンスケ : 「前衛二人同時に攻撃……という事は、前衛・後衛どちらか全員を攻撃する技ですかね……」


GM : (正確には、最初に狙った相手の、左右にいるキャラに炎属性攻撃、だがな……今回はアズマを狙ったから、ローズもおまけについてきただけだ)「ダメージは、アズマが66。ローズは60だ」


アズマ : 「……っ、結構利きましたね、コレ」


ローズ : 「ドレスが燃えちゃいますの……お気に入りですのに……」(しゅん)



GM : 「さて、次のターン。3ターン目だが」


アズマ : 「アタシは小手打ちしか脳のない男ですからねぇ……小手打ちいきやす!」


ミクト : 「一本気だよなぁ、ある意味」


アズマ : 「拙者、不器用ですんで」(笑)


ローズ : 「ローズは、お怪我を治しますわ! アズマ様に、ヒーリングを」


シュンスケ : 「ローズだって怪我してるじゃないか、全く……私はローズにヒーリングを!」


アクセル : 「……炎を吐くという事は、炎は耐性があるかもな。逆に氷は耐性ないかも……俺は、次はアイスショット行きます!」


ミクト : 「俺は〜……弱体ってあらかたかけるとヒマなんだよなっ! 利くかわからない睡眠病毒どっちがいい?」


アクセル : 「どっちでもいい」


ミクト : 「じゃ、決まったらラッキーって事で睡眠と病毒交互にかけていくか! とりあえず睡眠から〜」


GM : 「うむ……」


ローズ : 「順番は私からですわね! ……ヒーリングを! アズマ様、痛いの痛いのとんでいけ〜、でーすわ!」


アズマ : 「あぁ、ありがとうお嬢ちゃん!」


ミクト : 「…………」(じー)


アズマ : 「? どうかしやしたか、ミクトの旦那」




ミクト : 「べ、べ、別にローズちゃんのヒーリングが羨ましいとか思っていないんだからねっ!」




アクセル : (羨ましいんだ……)


シュンスケ : (羨ましいんですね……)


アズマ : (だが何故ツンデレ風……?)「アタシも攻撃いきますか、小手打ち! よござんすか?」


GM : 「よござんすだな……ダメージは250」


アズマ : 「ふぅ、まずまずでさぁね」


アクセル : 「俺は、アイスショットを! ……どうでしょう?」


GM : 「ダメージは188……そこそこだな」


アクセル : 「うん、やっぱり氷が利くみたいだな」


シュンスケ : 「私は、ヒーリングをローズに。はい、痛いの痛いのとんでいけー」(なでなで)


ローズ : 「おじさま〜……おじさまのナデナデは、世界一の治療魔法ですわ〜」


GM : 「次はこちらの攻撃だな……劫火、今度はアクセルを狙い、その左右にいるシュンスケとミクトもダメージを入れておいてくれ」


アクセル : 「っ……!?」


シュンスケ : 「!? 大丈夫ですか、アクセル?」


アクセル : 「えぇ、アニキこそ大丈夫ですか?」


シュンスケ : 「勿論です、このくらいの傷……」


アズマ : 「ガマン強いですねぇ、お二方。それにひきかえ……」




ミクト : 「ウォおぉっぉおおぉぉ〜、あっちぃぃ〜!!!」




アズマ : 「旦那、設定上はこのメンバーでは最年長なんですからもうちょっと大人らしく忍耐を身につけた方がよござんすよ?」


ミクト : 「だからって、熱いモンは熱いんだから仕方ねーだろーがー! 死ぬ〜、死ぬ〜!」(じたじた)




GM : 「次は、4ターン目か……さて、それまでじわじわと遠目で見ているだけだったキマイラの従者たちも、ゆっくりと近づいてくる」


アズマ : 「……次くらいには乱入してきますかねぇ。そろそろカタぁつけたいんですが……小手打ちを」


ローズ : 「私は……えっと、シュンスケおじさまにキュア……」


シュンスケ : 「僕はまだ大丈夫だから、アクセルかミクトさんを治してあげなさい」




ミクト : 「はいはいはいはいはいはい! 俺、大けがです! 俺、非道い怪我をしています、死ぬかもしれません! 俺を治した方がいいと思います! ローズちゃんの治療を立候補します!」(ビシッ)




シュンスケ : 「!? ミクトさん、そんな大けがなんですか……わかりました! 私がヒーリングしますからご安心下さい!」



ミクト : 「え?」



シュンスケ : 「ローズは、アクセルを治してあげなさい」


ローズ : 「はいですの!」



ミクト : 「えっえ〜!」



アクセル : 「……下心見え見えだったな」


ミクト : 「がびーん!」


アクセル : 「俺は、アイスショットを! これで何とかトドメをさしたい所だけど……」


ミクト : 「俺は……そだな、さっき睡眠だったから、今度は病毒で」


GM : 「行動はそっちからだな」


ローズ : 「わかりましたの! アクセルにヒーリング! 痛いの痛いのとんでいけ〜、ですわ」


アクセル : 「そんな子供っぽいおまじないするなよ、ローズ……」


ローズ : 「子供っぽいですの? じゃぁ、もっと大人っぽいやりかたしますわ! ……うふ〜ん、痛いの痛いのとんでいっちゃぇ。ですわぁ。あは〜ん」


アズマ : 「嬢ちゃんの大人のイメージって……」(笑)


ミクト : 「だが可愛いから許す!」


アズマ : 「それじゃ、次はアタシの番ですね……小手打ち、よござんすか……ダメージは?」


GM : 「まて。それで倒れた! ……キマイラはその巨体を僅かに震わし、急に動きを留める……かと思えば、咆吼をあげ、その場に崩れ落ちるのだった……」




一同 : 「「「やったー!」」」(ぱちぱちぱち)





GM : 「アズマの一閃がキマイラの胴体を捉える……キマイラはその巨体を揺らし、ゆっくりと崩れ落ちた」


アズマ : 「はぁ……また、つまらぬモノを切ってしまいやした……」(チャキッ)


ローズ : 「フロースガル様……仇は、討ちました事よ……」


ミクト : 「残された形見で、墓くらいつくってやるか……」(ざくざく)


GM : 「キミたちがそうしていると、どこからか獣の悲しげな声が響いてくる……臓腑を吐き出さんばかりの、悲痛な声だ」


ローズ : 「クロガネ……クロガネが、泣いてますわ……」


シュンスケ : 「……行ってみよう、クロガネの所へ」


GM : 「君たちがクロガネの所へたどり着くと、すでに息も絶え絶えのクロガネが微かに頷くような仕草を見せる。すると、クロガネの首からするりと首輪が抜けた……」


ミクト : 「……主の仇を討った礼のつもりか?」


ローズ : 「クロガネ……無理しなくてもいいのですわよ、もう全て終わりましたの。クロガネ、貴方も……帰りましょう、街へ……」


GM : 「クロガネは、一度だけ悲しそうにクルルゥ……と小さな声をあげる。そして、よたよたとローズの膝へやってくると、その膝にゆっくりと頭を乗せる……」


ローズ : 「クロガネ……クロガネ……」


GM : 「……息も絶え絶えで、だが……キミが撫でる手を、静かに眺めている……」


ローズ : 「クロガネ……クロガネ、よく頑張りましたわ、偉いですわよ……でも、もう頑張らなくてもいいですわ……クロガネ、お疲れさま。クロガネ……クロガネ……」


GM : 「……クロガネは、安心したようにふぅ、と一つ呼吸を吐く。そして、静かに目を閉じると……胸にある空気を吐き尽くし、急速に、萎んでいくように見えた……」


ローズ : 「あっ……」


アクセル : 「どうしたの、ローズ?」


ローズ : 「…………クロガネが、フロースガル様を追いかけていってしまいましたわ」


シュンスケ : 「……」


アズマ : 「…………」





 ……かくして、無事に強敵をうち倒したさばみそギルドの仲間たち。

 だが、直面した別れは彼らの中に虚ろな穴を残していった。

 その手の中にただひとつ。

 形見の、首輪だけを残して……。






劇 : 押し問答。





 幕間劇を始めよう。

 それは、現実世界の「彼ら」の物語。

 彼らの築く、日常。その欠片の物語。


 ……君は、彼らの現実にある日常に、触れても、触れなくても良い。


 ・

 ・

 ・


 本日のセッション終了後。

 都内 某所――旧・西園寺馨の研究室。





西園寺馨(GM) : 「システム、オールグリーン……よし、システムを終了する……今日は一階層のボスまで倒したからな、これくらいでセッションを終わりにしよう。ちょうど、きれもいい所だしな」


月岡沙織(ローズPL) : 「クロガネ……クロガネ……」(ぐすっ、ぐすっ)


月岡晃(アクセルPL) : 「泣くなよ、沙織……」


月岡陽介(シュンスケPL) : 「沙織、クロガネは自分の役目を終えたんだからね? そんな顔しちゃ、クロガネが天国にいけないよ?」(ナデナデ)


沙織 : 「わかっておりますわ……クロガネは、フロースガル様の所にいったんですの……フロースガル様と一緒に、今、きっと幸せですわ……」


月岡 : 「沙織……」


椎名哲馬(ミクトPL) : 「さおちゃん……よし、悲しいんだな。悲しいんだろう。このお兄さんが好きなだけ胸を貸してあげるから、この海原のように広く、木漏れ日のように温かい哲馬お兄さまの胸板でその傷ついた心を癒すがいい! さぁ早く! カモン! カモン!」



晃 : (ドスッ!)



椎名 : 「うぐっ!?」




狩名義明(アズマPL) : 「……大丈夫ですかい、旦那? 今、いい音がしましたが」


椎名 : 「うぐぐ……ひーくん、小さいのに鳩尾を的確に狙うとは、なかなかやるな……というか、駄目だろ乱暴な事しちゃぁぁっ、うぐぐ……」


晃 : 「乱暴? さぁ、知らないなぁ? 勝手にアンタがうずくまったんだろ?」


椎名 : 「うぐぐ……うぐぐ…………だがこの苦しみ、リアル○学生からもらったものだと思うと! 悔しい! ちょっと気持ちよく思えちゃうなんて……ビクンビクン!」




晃: 「お前は実に馬鹿だな!」




西園寺 : 「やめておけ、晃君。その位の罵倒、奴にはただのご褒美……だぞ?」


狩名 : 「……旦那、逞しい変態っぷりですねぇ」


晃 : 「オレ、絶対あぁいう大人にはなりたくない」


椎名 : 「はぁはぁ……はぁはぁ……」




沙織 : 「うふふ……哲馬お兄さま、面白い方ですわ〜」 (コロコロコロ)


晃 : 「面白い、というかオカシイって気がするけどな……」




椎名 : 「大の大人を捕まえてオカシイとか! クレイジーだとか言うなですよ! ンだが……やっと、笑ったな。さおちゃん」(ぽむ)



沙織 : 「あ……」


椎名 : 「男ってのは女の子が笑ってる顔が好きなんだ……そうやって笑っている方が、クロガネもフロ……なんとかもきっと喜ぶから、さおちゃんは笑っている方が可愛いぜ?」(ナデナデ)


沙織 : 「……そう、ですわね。はい、私もう元気になりましたわ! 哲馬お兄さま、ありがとうございますの!」


椎名 : 「うんうん」


沙織 : 「それに、さおちゃん、お母様と約束しましたの! さおちゃん、泣き虫だから……泣いてばっかりで、お母様を困らせてばかりいたから……泣き虫なさおちゃんのままだと、お母様心配で天国にいけないって言っておりましたから……だから、無闇になかないって決めたんですわ! 天国の、お母様が心配しますから……」


椎名 : 「さおちゃん……」


狩名 : (ぼそぼそ)「月岡の旦那……ひょっとして、アンタの奥さんは……」


月岡 : (ぼそぼそ)「はい……1年ほど前に……病気で、もうこの世には……」


狩名 : 「そう……だったんですか。まさか、透さんが……」


月岡 : 「!? 狩名さん………………私の、妻の事をご存じなのですか?」


狩名 : 「あ…………いや、知っているという程親しい訳じゃなかったんですが……以前、ちょいと世話になりましてね……」


月岡 : 「そうだったんですか……すいません、妻の交遊関係は良く知りませんでしたもので、お知らせする事も出来ず……」(ペコリ)


狩名 : 「いや、気にしないでくださいな……本当に、ちょいと世話になっただけですから……ね。いや、でもそうすると、そうか……晃くんがあの時の……そうか、そういう事か……」


椎名 : 「どうした、狩名? さっきからボソボソ独り言……気になる事でもあるのか?」(ぽむ)


狩名 : 「あ! いやぁ、別に何でもないんですが、ただ……いや、ちょいとすいません。俺、少し急用を思い出したので、今日は先に帰らせて頂きまさぁ……お疲れさまでした、旦那がたにお嬢ちゃん。んでは、お先に……」



 …………狩名義明が退室する。



月岡 : 「何だか、狩名さんしゃべり方が段々とアズマさんに似てきますね」


西園寺 : 「キャラを演じた直後だと、すぐにしゃべり方が抜けないんだろうな……」


沙織 : 「ん〜」(ウトウト)


晃 : 「どうした、沙織?」


沙織 : 「……沙織、眠たくなってきちゃいました。兄さま」


月岡 : 「あぁ、もう9時過ぎてるもんね……沙織は普段もう寝ている時間だからね。うん、そろそろ僕たちも帰ろうか。それでは、西園寺先生。僕たちはこれで……」


西園寺 : 「あぁ、お疲れさま」


沙織 : 「西園寺お兄さま! お疲れさまでした、また、沙織と遊んでくださいましね!」


晃 : 「……お疲れさまでした」



 月岡陽介、晃、沙織親子が退室する……。



西園寺 : 「さて……俺たちも帰ろうか。兄さん


椎名 : 「……帰る前に、そろそろ聞かせてくれないか。なぁ、自称西園寺馨


西園寺 : 「兄さん……以前、言ったでしょう。何を聞かれても、俺は……何も、答えられないと」


椎名 : 「……俺にも話せない事なのか? 一体何がおこっているのか……お前がそんな馬鹿げた仮装をしてまで、何をしたいのか……この、ハイラガ・ゲームは一体何の為にやっているんだ? 一体お前に。いや……お前たちに、何が起こっているんだ、何が……」


西園寺 : 「兄さん……ごめん、でも……答えられない」


椎名 : 「……西園寺馨という偽名を使っている、理由もか?」


西園寺 : 「答えられない」


椎名 : 「ハイラガ・ゲームという名でこの、世界樹の迷宮という仮想空間を作り続けている理由もか?」


西園寺 : 「それも、答えられない……哲馬兄さん、分かってください。俺は……答えないんじゃない、答えられないんだ……答えてしまったら、途絶えてしまうんだよ……大切な人を、助ける方法が……」


椎名 : 「そうか……」


西園寺 : 「ごめん、兄さん……本当に、本当に……」


椎名 : 「……わかった、お前がそう言うなら、俺はもうお前からは聞かねぇーよ。ただ……」



 と、そこで椎名は振り返る。
 その横顔は、彼らしくない程か弱く……何処か儚げに見えた。




椎名 : 「ただよ……俺、多分お前が思ってる程強い男じゃねぇからな…………何も知らないまま、ゲーム続けるの結構キツいんだぜ……それだけは、分かってくれよ、な……」


西園寺 : 「兄さん……ごめん」



 謝る事しかしない『西園寺馨』に、僅かに微笑みかけると椎名はその頭をくしゃくしゃと撫でる。



椎名 : 「そんな顔すんなって言ってるだろ…………でもよ、全て話せるようになったら、その時は……一発、殴らせろよ?」


西園寺 : 「兄さん?」


椎名 : 「西園寺馨じゃなく……淳平の横っ面をな?」


西園寺 : 「ちょっ、兄さん何を……!?」



 西園寺の問いかけには答えないまま、椎名哲馬は振り返り片手を挙げて去っていく。
 ひらひらと揺れる片手……。

 自分がそれ以上語らないのであれば、椎名もまたそれ以上語る言葉を持たないのだろう。

 疑問、怒り、憤り。
 それらを全て飲み込んで、道化でいる事に徹してくれるのだろう。

 そう。
 自分の心が傷つき、限界に達するその時までは……。




西園寺 : 「哲馬兄さん…………すいません。すいません……」



 誰もいなくなった部屋、西園寺は椅子へ深く腰掛けると悲しげに声をあげた。
 そして、幾度も幾度も謝罪の言葉を口にする。

 その言葉全ては、室内に響くファンの音がうねりを挙げて飲み込んでいった……。



 ゲーム終了まで、あと25日。




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