上司からの、そんな一言が始まりだった。
? 本当に`アレ’が新顔の下についたとは考えがたいが、
実際、腕の立つ殺し屋をそろえてるのは間違いない。
? なに、お前も暇だろう?探ってこい。
こうして私はあの男を調査することになった・・・
〜〜
なんの用意もなく、相手の名前だけ伝えられた。
情報も首も、組織は特に期待はしていないのだろう。
火のないところに立った煙が、ただの朝靄だったとわかればよいのか。
しかし、その程度でも目標を直に確認しないと難しい。
とりあえずインターネットで情報収集を試みる。
名前と、殺し屋という条件があれば、行動テリトリーくらいは絞れると考えていた。
作業を始めて数分。頭を抱えてしまった。
行き詰まったわけではない。
むしろ行き当たったというべきか。
本人ブログを発見。それもファミリー募集中・メール可。
こんな無防備なマフィアがどんなやつなのか。
興味がわいてメールを送ってみることにした。
〜〜
会う約束をとりつけた後、自分が本名でやりとりしていたことに気づいた。
英語名ではあり得ないから、華人だと気づいているだろう。
? なぜ会うことにした?
華人から、ウチの組織を連想しないわけがない。
逆に情報でも聞き出すつもりか、あるいはもっと単純な罠か。
けれど、攻撃を受けたところで、返り討ちにしてやればいい。
そもそも潜入捜査の訓練は受けたことが無い。
いっそ殺り合いに持ち込んだ方が楽か。
そう結論づけて、待ち合わせ場所に向かった。
〜〜
目的地に着く直前。
少年の方が警戒しだしたのがわかった。
こちらも反撃体制を整えたまま会話をする。
少年の不信の目。
当然だろう。
しかし、当のターゲットは違った。
「だって、風火は俺らとダチになりてぇっていってるんだろ、な?」
驚いた。
信じている。この華人…異人の言葉を。
「だったらそれでいいじゃ無ぇの、な?」
朗らかに目を細める男。
? いいバカ、か。
少年との会話で、つい出た言葉だが、言い得て妙だった。
しっくりくるような、まったく違うような。
それでも、だからこそ。この言葉の意味を知ろうと思った。
私は、彼の後ろをついて行く。
「念のため言っておくが、寝返ったの理由は、別に歓迎会の酒が量・味ともに最高だったからではないぞ?」
「・・・アニキ、酒屋一軒で命拾いしましたね…」