ファースト・コンタクト 34



 ロックオンに部屋まで送ってもらったティエリアは、そのまま真っ直ぐにシャワールームへ向かった。
 熱いシャワーを浴びていると沈んでいた気持ちも少しは浮上する気がして、ティエリアは暫くの間注ぎ落ちる飛沫を全身に受けていた。
 少し長めのシャワーを終えると、ティエリアはバスローブ姿のままシャワールームから出てきた。タオルで頭を拭きながらベッドに腰を下ろすと、思わず深い息が形のよい唇から零れる。
 最近、ロックオンがあれこれと構ってくるのは、地上で不安定な姿を見せてしまったからだろう。
 自分の気持ちを認められず、かといって諦めきれずに思い悩んでいた自分を励ましてくれたのはロックオンだった。
 だから、アレルヤにどこか様子のおかしいロックオンを見守って欲しいと言われたとき、今度は自分がロックオンの力になる番だと思っていた。それなのに、逆に彼に気を遣わせてしまっているのが現状だ。あまりにも不甲斐なくて、ティエリアの胸に苦い思いが込み上げてくる。
 こんなにも自分は無力だったのだろうか…?
 これまでガンダムマイスターとしての資質を疑ったことなど一度もなく、計画を遂行するに足りる人間だと自負してもいた。
 それなのに、最近の自分はロックオンやアレルヤや刹那に頼りきってばかりだ。辛うじてミッションは成功させてはいるものの、マイスターとしての自信も正直揺らぎかけている。こんなことでは、イオリアの計画を遂行するなど夢のまた夢だ。
 このままではいけないと思いながら、けれど自分ではどうすることもできない。自分はなんて非力で脆弱な人間に成り下がってしまったのだろう。
 浮上しかけた気分がまた沈みこんでしまったティエリアの唇から、深い溜息が零れ落ちる。何かを振り払うように緩く頭を振り、何気なく向けた視線の端に、デスクの上に置かれた携帯端末を捕らえた。
 ―――――グラハム……。
 ティエリアの脳裏に、自信過剰な男の顔が浮かんだ。
 あきれるほどに唯我独尊で、傲慢なほど自信に満ち溢れている彼ならば、こんな風に迷ったとき、どうするのだろう……。
 そう思ったら、自然と身体が動いていた。
 携帯端末を手に取ったティエリアは、諳んじてしまったメールアドレスを入力する。
 久しぶりのメールにグラハムが応えてくれるか少なからず不安はあったが、それでも心のどこかで大丈夫だと確信している自分がいる。
 手短に用件を入力し、送信ボタンを押したティエリアの口元には、微かな笑みが滲んでいた。