ファースト・コンタクト
08 テーマパーク内を隈なく捜しても結局ティエリアを見つけられなかったロックオン達は、これ以上の園内の捜索を諦め、失意のうちにホテルへと戻った。 夕闇の迫った部屋に漂う重苦しい雰囲気をなんとか和らげようとアレルヤが口を開く。 「ティエリアのことですから、なにか面白いプログラムとか見つけて夢中になっているだけかもしれませんよ」 「家族向けのテーマパークのどこに面白いプログラムがあるって?」 「じゃあ、早々に戻ってシティに買い物にでも行ったかも。新作のパソコンに興味持ってたみたいだし」 「財布と携帯を忘れてか?」 「………あ」 アレルヤの希望的観測をロックオンが端から低い声で潰してゆく。それ以上何も言えなくなってしまったアレルヤが助けを求めるように窓際に座る刹那へ視線を向けると、年下の少年は妙に大人びた表情でゆるく首を振ってみせた。一人悶々としているロックオンに何を言っても無駄だから、暫く放っておけというジェスチャーだ。仕方ないと溜息をついたアレルヤは、刹那の隣に座るとこそっと耳打ちする。 「スメラギさん達にはそれとなく聞いてみた?」 「ああ。ティエリアからは何の連絡も入っていないそうだ。あと王留美からも」 ソレスタルビーイングのエージェントである彼女の元には、ありとあらゆる情報が集まる。もし仮にティエリアに何かあった場合、何らかの情報を得た彼女から一報が入るかもしれない。 「そっか。じゃあ、取り敢えずは最悪の展開にはなっていないってことかな?」 「そう単純に楽観するのは危険だと思う。ただ情報を掴んでいないだけかもしれない」 淡々と正論を述べる刹那に、アレルヤは頭痛がするかのように額に掌を押し当てた。 「……刹那。それ、ロックオンには言わない方がいいよ」 「何故だ?」 「ブチ切れるから。ただでさえ、爆発ギリギリの感じだからね」 溜息を吐きつつまなざしを向けると、ソファに座って組んだ両手の上に額を乗せてじっと考え込むロックオンの姿があった。背中を向けているため表情はわからないものの、その背から立ち昇る張り詰めた空気が、彼の精神状態を如実に表わしていた。 実際、ロックオンは焦っていた。 現状は最悪の方向へ進んでいるとしか思えない。ティエリアの腕は認めてはいても、ふいをつかれればわからないし、多勢に無勢ということもある。ティエリアに限って…と思いつつも、万が一の可能性が頭から離れない。 こんなことになるなら、渋るティエリアを連れ出すんじゃなかったと、何度目かの後悔が胸に押し寄せてくる。他人との間に壁を作り自らを独りに追い込んでしまう彼を引き出し、陽の光の下で笑う顔が見たかっただけなのだが、裏目に出てしまった。 ロックオンは己が浅はかさを悔やんだ。と同時に、もしティエリアの身に何かあったらただじゃおかないと、身も知らぬ相手に憎悪を燃やす。 こうしている間にもティエリアは…と考え始めるととても落ち着いてなどいられない。じりじりと胸を焼く焦燥感に突き動かされるかのように、ロックオンは勢いよく立ち上がった。 「俺、ちょっとその辺の様子見てくるわ」 居ても立ってもいられないといった様子でドアに向かうロックオンに、アレルヤも慌てて立ち上がった。 「え? じゃあ、僕も行きます。刹那は残って連絡係でいいかな」 「わかった」 頷く刹那を残してアレルヤはロックオンを追いかけた。 ずんずんと歩調を速めるロックオンに追いついたアレルヤは、厳しい横顔に向かってわざと軽い調子で言ってみる。 「ロックオンがそんなに焦る姿、初めて見ました」 「悪いかよ」 不機嫌も顕に横目で睨みつけてくる年長者に、シルバーの双眸がやさしく細められた。 「いいえ。親近感がわいていい感じです」 「ふん」 何を言っているといわんばかりにすぐに前を向いてしまったロックオンに、アレルヤはそっと苦笑を浮かべた。 ティエリアに関して本当に過保護な彼が案外可愛いらしい。そんなことを言うとロックオンをさらに怒らせるだけだとわかっているから、もちろん黙っているけれども。 どれだけ彼が心配しているか手に取るようにわかるから、アレルヤはティエリアの無事を願わずにはいられない。もし彼が傷つけられでもしていれば、ロックオンは自分自身のことを絶対に許さないだろう。 だから、ティエリア。どうか無事でいて。 ロックオンの隣を歩きながら、アレルヤは祈るような気持ちでいっぱいだった。 |