彼氏彼女の事情(その2)
1999年頃作成
最終更新日 2005年11月12日

キャラ別感想
宮沢雪野  有馬総一郎  芝姫つばさ

宮沢雪野編
7巻  8巻  9巻  10巻  11巻  12巻

有馬総一郎編
13巻  14巻  15巻  16巻  17巻〜20巻  21巻

【有馬総一郎編】

『いよいよ有馬編スタート(13巻)』

 いよいよ待ちに待った有馬編がスタートした。個人的にはドッペル有馬の闇に囚われて自暴自棄になったことが原因で大変なことになると思っていた。そうしたら、有馬がその存在を認めたばかりか、あろうことか親戚共に復讐を誓うという予想外なことに驚きを禁じ得なかった。まさかそうくるとは思ってなかったものの、想像以上に手の込んだ伏線が貼られていたので今後の展開も非常に期待が持てる。

『本心を隠し続ける有馬』

 有馬は自分の本心を宮沢に知られたら嫌われてしまうと思っているようだが、そんなことはない。むしろ、本心をさらすことを彼女はもちろん有馬の叔父と叔母も望んでいるはずだ。それに、このことを知れば宮沢は一家全員で協力してくれるだろうし、育ての御両親にしても心から打ち解けてくれたと思って大喜びしてくれるに違いない。
 あと、ことある毎に有馬は宮沢とは違うんだ、と言っている。どの辺だろうと思っていたが、どうやらストレスの溜め方、及び発散の仕方にあるように感じた。
 宮沢は嫌なことがあれば感情を露わにしてその場で解消しようとする。対して有馬は嫌なことがあっても我慢して溜め込んでしまう。この相違点が有馬にとってどうしても受け入れられない理由なのだと思う。
 こうして見ると有馬の心が癒されないうちは心から幸せだと実感することは叶わないのだろう。彼の心の問題が解決されれば物語は終了すると思っているのだが、そう簡単に終わるということはなさそうだ。

「意外な理由に驚く」

 それにしても有馬が執拗なまでに勉学に打ち込む理由が親戚共への復讐だったことに少なからず驚いた。とはいえ、まだまだ分からない部分もある。確かに、社会的評価で自分が一番になることで、これまでバカにしてきた連中を見返すことは出来る。けれど、それだけで積年の恨みが晴らせるとは到底考えられない。だとすると、こちらの想像もつかないような恐るべき計画を人知れずに準備しているのかもしれない。

「気持ちは分かるけど」

 相変わらず有馬のことを見下す親戚共の態度に憎悪の炎を燃やす気持ちは痛いほど分かる。他人でもむかつくのに、血の繋がりのある人間であるなら尚更である。こんな奴等にはそれ相応の仕返しをしなければ気が済まないと思うのも無理はない。それが分かるだけになんとしても復讐をやり遂げてほしいと願いたくなる一方、そのような下らない連中とは関わらず宮沢と幸せな道を歩んでいってくれればいいのになと思う気持ちもある。
 復讐したいのは山々なのだろうけど、このままでは有馬自身の心が崩壊してしまうのではないかと心配になってくる。今のところ彼の本心を知る人物は浅葉だけである。その浅葉も時折浮かない表情を見せるあたり、彼も有馬のことが心配でならないようだ。

『実の母親登場でこれからどんな波乱が巻き起こるのやら』

 そして、この巻の最後に登場した有馬の生みの母親。ちょっとだけなのでまだなんとも言えないのだけど、わざわざ出てきたのだから、今後有馬とその周辺の人間にどんな波乱を巻き起こすのかと思うと、今から楽しみである。


『有馬の根底にあるもの(14巻)』

 今そこにある幸せを素直に喜べない、否、喜んではいけないんだという強迫観念に有馬は囚われてしまっている。その傾向は叔父叔母夫婦に引き取られた頃の利発で可愛らしい少年の頃から色濃く現れていた。目の前に何かご褒美を差し出されて「本当に自分のものなの」というような目で訴える姿は可愛らしくはあるが、儚くも感じてしまう。虐待の日々に怯える記憶を封印しても尚これ程の後遺症を残し、現在も突如登場した母親の影に怯える有馬を見ているとなんだか居ても立ってもいられなくなってしまう。

『産みの母涼子の悲哀』

 なんとなくだけど、涼子は口が達者なんだなと思った。確かに水商売という職業柄、相手の気持ちを掴むのはお手のものだろう。それでなくても幼い頃まで有馬と一緒に暮らしていたのだから、自分側に抱き込むことなんか赤子の手を捻るように簡単なことかもしれない。
 だからといって息子が抱える不安な部分につけ込んで自分の思い通りに操っていいことにはならない。しかし、最後の方で辛い体験を切羽詰まった表情で叫ぶ涼子を見ていると彼女のこともなんだか可哀想に思えてきてしまった。もし、子供の頃に受けた性的虐待で深く傷つき、まともな愛情というものを全く知らずに成長してきたのが真実なら、現在のようなだらしのない大人に変貌するのはむしろ当然であろう。
 そういう視点で読み直してみると、涼子の策略にまんまとはめられていく有馬はもちろん可哀想なんだけど、彼のことを籠絡させることだけが生き甲斐になってしまった彼女も哀れに思えてならない。


『複雑な有馬の胸中(15巻)』

 花華院美木(「天使な小生意気」)の時にも感じたけど、子供の頃に植え付けられた負の感情はなかなか払拭できるものではない。それが良くないんだということを頭では理解していても気持ちがそれを拒んでしまう。複雑な有馬の胸中を見ているとなんだか切なくなる。
 けれど、彼には宮沢や浅葉、それに叔父夫婦といった心から心配してくれる人達がいる。良いところも悪いところも全て受け入れてくれくれる人がいるという恵まれた環境に有馬がいるのだと思うとちょっと羨ましいなと思ってしまう。

『微妙な違和感』

 最初のうちは有馬視点を中心にするのも悪くはないと思っていた。15巻でも一人では抱えきれない辛い過去を思い出して苦悩する有馬の心境はよく描かれていて、それに関しては申し分ない出来だとは思う。
 ただ、最近になって本当にこれで良かったのだろうかと疑問を抱くようになった。浅葉もいってたように有馬は誰かに照らされることで初めて輝くことができるキャラなので、そういうタイプはあまり主役には向いてないのではと思うようになった。
 これはあくまでも理想だけど、メインを貼るのであれば弱さだけでなく、それに負けないくらいの強さもないと駄目なんだと思う。10巻までの宮沢はその条件を満たしていたし、有馬も2番手というポジションにいたので、その関係が保たれている間は充分に楽しめていた。
 それが有馬編になってから逆転してしまった。それだけでなく、宮沢の活躍がめっきり減ってしまって存在感が希薄になってしまったことで微妙な違和感を感じるようになってしまった。これではまるで宮沢は何も出来ずに手をこまねいていたような印象すら受けてしまう。
 こちらが勝手に思い込んでいる宮沢なら有馬の演技にもっと早く気づけたのではないだろうか。確かに恋愛に関しては鈍いし、外に目を向けるようになってしまったせいで彼の微妙な変化に気づけなかったのも判る。しかし、宮沢ほどの器の大きい人物なら有馬の精神が酷く歪んでしまう前に察してくれてもいいのではないかと思った。
 それで結果が同じになっても構わない。とにかく「有馬のことで宮沢はこんなにも心配していたんだよ」というエピソードをもっとたくさん盛り込んでいれば、自分もこんな気持ちになることはなかったと思う。


『これにて一件落着(16巻)』

 有馬の心が救われた一番の功労者はやはり宮沢雪野をおいて他にいないだろう。もともと主人公だった訳だし、彼女がいたからこそ「彼氏彼女の事情」も16巻まで漕ぎ着けられた。宮沢がいなければ彼が抱える悩みというものは生涯取り除かれなかったことだろう。そういう意味では、有馬に惜しみなく愛情を濯いだ叔父夫婦の存在も大きかった。人から愛されるという土壌があったからこそ、宮沢に対する過剰なまでの執着心というものも発揮できたと思う。その執念によって獲得した掛け替えのない人に深く根ざした闇を取り払ってもらったのだから、これほど喜ばしいことはない。
 そして、実は浅葉も陰ながら有馬をしっかりと支えていたのだ。自分としてはてっきり芝姫(旧姓池田)一馬がその役目を果たすのかと思っていた。ただ、一馬は一馬でつばさとのことや歌のことでいろいろと大変だったので、そこまでの余裕はなかった。となると、やはり浅葉が最も適任ということになる。なんだかんだいっても要所で傍にいてくれたことは有馬にとって何よりの慰めになっていたと思う。
 時間は掛かったけど、これで有馬が抱える問題というものは一先ず解決したといっていいだろう。あとは、周辺の雑音(このまま母親は引き下がるのか、親戚連中はどう思っているのか)をどうするのか、そして、宮沢と有馬はこれからどんな道を歩んでいくのかが、17巻では描かれることだろう。


『ちょっと引き伸ばし過ぎたか(17〜20巻)』

 最初のうちは、有馬が抱えていた暗闇が如何にして、底なし沼のように淀んでしまったのかが明らかになるところは、それなりに興味を惹かれたものの、流石にちょっと引き伸ばし過ぎたような気がする。本来の主人公はやはり雪野なので、もっと内容を凝縮して・・・いたとしても、結果は一緒だったかも。だったら、ある程度読者に認められた有馬編で稼げるだけ稼いでしまおうという魂胆が見え隠れする。商売上仕方がないとはいえ、なんとも解せないのも確かだ。
 光の象徴である雪野を陰で支えていたからこそ、有馬の存在価値はあった訳である。何事に置いても目立つ彼女は主役に相応しいキャラであったのに対して、個性という点では一歩劣る有馬は、メインを張るには今ひとつパンチに欠けていた。雪野あっての有馬という感じで、光の彼女によって照らされることで、闇で燻っていた彼が浮かび上がれるのだ。欲を言えば、有馬にも雪野にない個性があったら、また違った可能性もあったやも知れぬ。


『拍子抜けだった(21巻)とまとめ』

 全てが丸く収まってしまって目出度いはずなのに「なんだか拍子抜け」というのが、正直な感想だ。雪野から灰汁の強さが抜けてしまったことで彼女のみならず、作品の魅力というものが薄らいでしまった。上手く纏まっているとは思うが、やはり、なんとも言いようのない物足りなさというものを感じたと言ったら贅沢だろうか。
 この作品の魅力はなんといっても、強力な個性の持ち主である「宮沢雪野」の大立ち回りが全てであった。それ故に、雪野の放つ自由闊達なオーラが、有馬編以降は影を潜めてしまったのが惜しまれる。とはいえ、彼女のハイテンションに有馬が引っ張られる9巻までは、非常に面白かったことに変わりはない。雪野が暴走して空回りする様の気持ち良さは半端ではなかった。有馬編も、そこだけを見ればそんなに悪い内容ではなかったが、如何せん、雪野の持つ強烈なパワーを上回れなかった。有馬編という壮大な蛇足でも、雪野が代わらぬ大活躍を見せてさえいれば、ひょっとしたら不朽の名作として語り継がれたかもしれない。


【今回読んだコミック】
タイトル作者 出版社第1巻出版年度
彼氏彼女の事情
14〜21巻
津田雅美 白泉社1996年


【参考資料】(その2)
『本』
タイトル作者 出版社出版年度
子供が育つ
魔法の言葉
ドロシー・ロー・ノルト
レイチャル・ハリス
石井千春=訳
PHP1999年


『コミック』
タイトル作者 出版社第1巻出版年度
天使な小生意気 7〜9巻西森博之 小学館1999年