その31 霊峰白嶽


 

 対馬は山の島である。500メートル級の小高い山があちこちにある。厳原町と美津島町の間にある霊峰白嶽もその山の中のひとつである。この山は頂上が岩になっており実に格好がいい。その神秘的な姿から霊峰と言われる対馬を代表する山である。
 登山口は、厳原町の上見坂(かみさか)からと、美津島町の洲藻(すも)からのふたつである。上見坂からは約4時間の登山でなだらかな道のりが続く。洲藻からはやや急な斜面で2時間の行程である。
 白嶽登山を決行したのは、1988年秋、まだ長男が7歳の頃であった。職員宿舎のお隣のS医師の家族と一緒の登山だった。
 なだらかな道とはいえ、4時間も歩き続けるのはさすがに足にこたえる。長女はまだ5歳だった。励ましながら歩いたが、疲れは徐々にやってきて歩けなくなる。
 白嶽は最後の頂上までが急に険しくなっている。勾配が急なためロープが張ってあり、そのロープを引きながら登る。歩けなくなった長女をおんぶして登るのはさすがに荷が重い。
 白嶽の頂上は絶景だった。頂上は大きな岩がかたまっていて、展望は抜群である。心地よい風が体の疲れを癒してくれる。そして、この360度の大パノラマが私の心を熱くする。緑の島対馬とその周りに広がる東シナ海の大海原が実に美しい。このままずっとこの景色を見ていたいという思いにかられながら神秘の山を下りたのである。

 
白嶽