翌朝、厳原からタクシ-で豊玉村(現在の豊玉町)の鑓川に向かった。無医地区の住民検診の学生実習である。白血球や赤血球のカウント。検尿の実習。心電図の電送実験も行われた。そして、当時注目を集めていたHB抗原の検体集め。鑓川から千尋藻への移動。害虫の駆除の講義と続く。1週間の対馬の暑い夏はあっというまに過ぎていった。美しい海と山そして風、将来私はこのようなところで働くことになるであろう高まる期待と不安とが交錯していた。検診が終わった日対馬の海で泳いだ。海のひんやりとした冷たさが火照った体を冷やしてくれた。そして、夜は…実習で一緒だった保健婦さんの案内で、上見坂展望台に上った。雲一つない晴天の空だった。頭上の天の川が近い。満天の星が空から降ってくるようだった。そして、海上には漁り火の明かりが海を照らす。まるでこの世の物とは思えない美しさに、感動し心が洗われるのを覚えた。次の朝フェリーは凪の玄界灘を博多港へと向かった。真夏の太陽も、潮風に体は心地よかった。船上にはチューリップの”心の旅”が流れていた。
漁り火
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