こなたよりかなたまで

   F&Cの人気タイトル全般に言えるのは、初回出荷分が完売したらエロゲ売り場でほとんど見かけなくなることが多いことなんです。この「こなたよりかなたまで」も例外ではなく、発売日に買い逃してしまった俺はパッケージを一度も拝むことすら出来なかったわけです。しかし、このタイトルはF&Cのタイトルで人気が高かったらしく、最近になってパッケージをリニューアルしたパッケージ新装版が発売されたのでそれををすかさず購入。実はこれも最後の1本だったというそんなタイトルだったわけで。

   さて、この「こなたよりかなたまで」のシナリオはいわゆる病弱系の物語でして、主人公は余命数ヶ月宣告された末期ガン患者。そんな主人公が最後の最後まで症状を隠し通し周りに普通を装って最後の学園生活を過ごそうとする課程を描いた話なんです。
   出だしからそういう展開になっていて「病弱系シナリオ=号泣系」という等式が脳内で成り立っている俺としては、プレイ開始数十分でこれは期待できそうだなと思いつつ進めていったんですが…なんて言うか、その、いきなり吸血鬼のヒロインが登場ですよ。その後は退魔士のヒロインが登場が登場ですよ。って、おいおい!せっかくリアルな病弱系の展開で涙腺が開きかけてきたところに吸血鬼かよ!退魔士かよ!どんな世界だよ!

   …いや、そりゃあマニュアルにも登場人物として載ってはいたんですけどね、せっかく病弱系な展開を期待して、死が近づくことによる心の葛藤とか、苦しみとか主人公のそんな心境を考えつつの物語にめり込もうというところに現実にはあり得ないキャラを登場してきたわけですよ。BGMもはかなさを感じさせる雰囲気も盛り上がってきたのに。せっかくF&Cもたまにはやるじゃん!とか思ったのに。

   だからといって、そういうキャラが登場したからダメだったかと言うと、決してそんなことはないと思うんです。なぜならそういう現実にあり得ないキャラが登場することによって助からない病気、刻一刻と近づく逃れられない結末、主人公が人生の終着点をすぐそこに迎えようとしているこの雰囲気の重みと、現実離れしたキャラを登場させることによるギャップとでも言うんでしょうか。非現実な世界から現実に戻されたようなそんな落差を演出できたんじゃないかと思うんですよ。
   確かに、そういうヒロインとの日常では主人公があまりにも健康体な行動をとってみたりして、それはどうなの?って思うシーンもありましたけど、そう思う一方で不意に現実じみた展開になって、主人公のやるせない思いに目頭が熱くなることもあるわけで、要するにお互いの要素が上手く絡み合って泣きゲーになってるわけですよ!

   とは言っても、個人的な欲を言えばあり得ない設定のキャラを登場させることなく出だしの重い展開がそのまま続くような展開の方が良かったかなと思うんです。やはりそういう展開を期待していましたから、どう病魔と立ち向かっていくべきか、残された僅かな時間をどのように生きるべきか、どう周囲の人と接していくべきかというのを考えさせられるような作品だったら良かったのになと思ってしまいました。この辺は好みが分かれるところだと思いますけどね。


   最後に、このタイトルの唯一の難点を上げるとすれば、それは一人一人のシナリオが短すぎることでしょうか。シナリオが主人公の余命なみに短いですからね。煮詰めたらこの長さになったとも取れなくはないのですが、もっとシナリオが長くてもいいように思えました。そうすれば泣きゲーとして、不朽の病弱系タイトル「加奈」とまではいかないまでも、それに近いような何かガツンとくる衝撃が生まれたのかもしれませんね。

   それでもいつもとはひと味違うF&Cの作品を見ることが出来たのは大きかったなと思いました。