最終話 すべては女神様の掌の上…なの?


どっかの誰かさん's view:
何かが変わった……
空気が……
いや……
そこにあるモノが……
「……そろそろ、時間切れ、ですね…」
「フィアッセさん?」
その言葉に柔らかく微笑んだ後、フィアッセは消えた……

ナレーター:
必死に忍と戦っている七瀬さんと瞳さんです。
「で、私と瞳ってだけで絶望的な戦力差じゃない?」
「そう?」
七瀬さんの問いに涼しい顔をして答える瞳さん。
さすが、秒殺の女王だけの事はあります。
「あんたってば、結構余裕ね。でも…強いわよ、月村忍は…」
「…そうね……でも?」
「ええ、解ってる。負けるわけにはいかない…」
ある意味悲壮な覚悟をする2人に、忍が楽しそうに声を掛けました。
「もう、相談は終わった?」
2人は黙って、忍に対して身構えます。
「そう……なら、行くわね!!」
そう言うと、忍が動きました。
「な?! 人が知覚出来ないほど速い?!」
その七瀬さんの言葉通りの速度で忍は動きました。
「知ってる? 速度は大抵、身体の『強度』によって決まるの。それでは、人の『それ』より強度が高ければどうなるでしょう?」
「……つまり…」
「そう、答えはこれと言うわけ……まして、今のあたしは…」
忍はそう言うと…紫にも見える豊かな黒髪を…紅く染め上げました…
えっ? 紅く染め上げる??

しんいちろう's view:
…知佳さんの黒い翼と同じさ…
「…先輩?」
そう。今さくらが感じた通りだよ。
那美ちゃんは外に顕在化しなかったみたいだけど…さくらが吸い取っちゃったしね。
「わたしは何ともないですけど?」
さくらに暗示を与えるには、忍ちゃんレベルは必要だろ?
「…そう言うことですか…」
忍ちゃんの場合、半分わざと受け入れたようだけどね。
「そうですか…ところで先輩?」
なに?
「唯子さんのほっぺたを引っ張ったままでは、全然締まりませんよ?」
あはははは。
「ひんいひろぉ…はやふ、はなひておぉぉぉぉぉ。」

ナレーター:
紅い髪を掻き揚げながら、忍は楽しそうに微笑んでいます。
「なっ、なんなのそれは…?」
「別に良いじゃない。どうせここでやられちゃうんだし。」
七瀬さんの問いに、忍はそうはぐらかします。
答えられる部類の問いではないですし、仕方のない事なのかもしれませんね。
「さて…そろそろ終わりにしよっか?」
忍が、疲れたように、しかし楽しそうに言い放ちました。
…その言葉に答えるものはいない…と思われたんですが…忍の背後から囁くような答えが返されました。
「そうですね、もうリミットですから。」
「え?!」
「「!!」」
その答えに驚く暇もなく、声の主が動きました。
それは七瀬さんや瞳さんはもちろん、忍や私さえ視認出来ない速度です。
…忍は瞬く間に、ずたぼろになってしまいました。
声の主、それは…
「めっ、女神様?」
なのはちゃんが、そう呟いた通りです…

どっかの誰かさん's view:
「めっ、女神様?」
「ええ。そうですよ。なのは♪」
なのはの言葉に、弾むように言葉を返す、女神ことフィアッセ。
「あの〜、これは一体…?」
「もう、時間切れなのよ、なのは。」
あくまで優しく、なのはには対するフィアッセ嬢である。
「と言っても、解らないわよね。取りあえず、相川さんを呼びましょうか…」

パチン!

フィアッセが指を鳴らす。
「がんだぁぁぁぁむ!!」
ズタボロのはずの忍が、なにかに浮かされたように叫んだ。
その様子に、呆れたような声を発する我らが七瀬嬢。
「月村忍……あんたってば…」
「何よ! 指を鳴らして呼ぶんならそれ位やって欲しいでしょうがぁ!!」
「真っ赤になるならやらなくても良いのに……」
さくらもあきれ果てて感心してしまうほどのオタク魂であろう。
さすがは月村家当主、月村忍である。
と、その間に現れた真一郎…と唯子とさくら。
「あっ、しんいちろ(はぁと) と、唯子…」
真一郎はまだ唯子のほっぺたを引張っていたりした。
ゆえに、七瀬嬢少々嫉妬にかられて…そんな自分に自己嫌悪。
「で、何?」
「そうですね……相川さん?」
「はい?」
「あなたは変です。」
「「知ってます。」」
フィアッセの言葉に七瀬と唯子がハモル。
「おいおい…」
やる気がなさそうに真一郎が一応突っ込む。何やら仕方がないような顔をしている。
「いえ、そうではなくて…確かに、それもあるんですけど…多分に稀なのですよ…力のバランスが……まるで計ったかのように『すべて』が…」
フィアッセが、珍獣を見るように真一郎を見る。周りの困惑の中、当の真一郎はまるで普段通りであった。
(先輩…やっぱり自覚してた…)
その様子にさくらがふと思う。それだけで、さくらには、今回の騒動の推移がある程度想像できた。
が、まぁ普通の方々には全然話しが見えてこない。
そこで復活したアリサが口を挟んだ。全てに決着をつけるために。
「それで、それが胴だって言うの?」
「アリサちゃん(はぁと) 大丈夫? 後、胴は漢字にしなく方が……」
「あ、そう…??? とにかく! この真一郎さん争奪戦はあんたが仕組んだんでしょ?」
「その通りです。実際は『相川さんの力が欲しかった』が、正しいんですけどね。」
微笑みながらフィアッセはそう答えた。
と、同時に…
「!」
瞳が横たわってた……
「あんた……やっぱりやられキャラだったはね……」
七瀬の突っ込み、まさに容赦なし!
更に…
「アリサさん!」
「何よ?!」
アリサが答え終ったと同時に、彼女も倒れこむ。
「なに? 何が起ってるの?」
七瀬が不安に駆られてそう口走る。そう、この場にいる人々が、次々に倒れ込んでいくのだ。
彼女じゃなくても、不安になろうものである…普通なら。
「わたしも気絶してた方がいいですか?」
「…さくらさんは全て解っているのすね…でしたら、構いません…」
さくらとフィアッセ…そして真一郎には不安はないようだった。
と言うより…フィアッセの言葉通り、全てを知っているのだろう。
「さて…それではそろそろ種明かしでも行いましょう…」
この場で活動しているのが、七瀬とフィアッセ、それに真一郎とさくらだけになった時、フィアッセはそう、おもむろに口を開いたのだった。

ナレーター:
この場にいるのに、ナレーションするなんて少々反則のような気もします。
しかし…まぁ、どうせ変な話ですし、構いませんよね。
「七瀬さん、あなたを含めた魔法少女達に告げた『この翼が全て黒くなった時に世界が滅びる』と言うのは真実です。だた…」
女神様=フィアッセさんはそう言うと翼を広げて見せました。
…そう、すべての翼を………つまり『6対12枚』の翼全てを、です。
そのうち黒い翼は2対4枚だけで、残りの4対8枚の翼は…まさに純白でした。
「そっ、それがあなたの…」
「そうです。この翼が全てが黒くなった時、幻想の現実に対する浸食率のバランスが崩れて、世界が崩壊します。」
七瀬さん、フィアッセさんの言葉に、ますます驚愕してしまったようです。
「幻想の現実に対する侵食率?」
「それについての説明は理解しがたい、と言う意味で難しいので省きますね。」
「…わかったわ。」
確かに難しすぎますね。この世界の根本について講義なんて、わたしも聞きたくありません。
「魔法少女達の本来の役目は、幻想の侵食に対して、同じ幻想域にある『呪文』を使って対処することによって対消滅させること。」
「侵食に対する堤防みたいなもの、というわけね。」
七瀬さんの認識は、それなりに的を射ているようです。
「はい。それに対して…黒い翼や紅い髪は…」
「侵食に対する、吸収剤。『幻想』を吸収、固定化して、その場に留めるもの…」
「…知っていらっしゃいましたか、相川さん…」
フィアッセさんの説明を先輩が引き継ぐと、フィアッセさんは何か感じ入ったように先輩に対しました。
それに対する先輩の言葉はこれです。
「……伊達に、特異点、じゃないんですよ…」
…これまた世界の根本に関わる言葉です。先輩がその気になれば…いえ、ここではその話題は置いておきますね。
「特異点…?」
「それについては後で説明します。先に、黒い翼や赤い髪、これらは『寄代』と呼ばれるのですが、そちらの役割についての説明を続けます。」
「…わかった…」
納得はしていないようでしたが、七瀬さんは一応頷くと話しを促します。
「もともと、幻想自身には大した力はありません。が、物や人に『憑いた』場合、力が具現化してしまいます。」
フィアッセさんはそう言うと、一度言葉を切りました。
そして…長い説明が始まります。
「具現化した力は、それがどんなモノになるのか、まったく想像も付きません。無害な場合もありますし、脅威となる場合もあります。
また、何に『憑く』のかも千差万別で、やはり見当も付きません。それにせっかく『憑いて』も、すぐに『離れて』しまう場合もありますし、逆にいつまでも『離れ』ない場合もあります。
『憑き』易いものと『憑き』難いもの、『離れ』易いものと『離れ』難いものは、ある種特定のパターンにて分類、整理されます。
更に、その『憑いた』ものにも因りますが、複数の幻想が『憑く』場合も多々見うけられます。
そこで『寄代』の出番です。『寄代』は『憑き』易いもので、かつ『離れ』難いものです。更に複数どころが大量の幻想を『憑かせる』ことが出来ます。
とうぜん、幻想はどんどんそれに溜まっていくことになります。
それゆえ…『寄代』は魔法少女達の目に見える意味での『敵』となります。」
「なるほどね…『寄代』を魔法で倒せば、溜まった幻想を全て対消滅させられる、というわけね。」
「その通りです。」

どっかの誰かさん's view:
「…1つ、いいですか?」
長い説明が一区切りついたところで、さくらがフィアッセに尋ねた。
「はい、なんでしょうか?」
「なぜ『寄代』には暗示を?」
「暗示?」
言葉の意味を良く掴めなかった七瀬が口を挟む。答えるのは真一郎の役目であろう。
「元々の知佳さんや忍ちゃんの性格と、微妙に違っていただろ?」
「…微妙かどうかはちょっと解らないけど、確かに違っていたみたいね。」
妙にハイテンションだった2人を思い出して、七瀬は苦笑気味にそう返す。
「…暗示は『敵』とするためには仕方のない事だと、わたし達は割りきっています…残念ですが…」
「……そうですか。確かに、そうかもしれませんね…」
さくらは頭では理解していたのだろう。だか、暗示を掛けられたのが可愛がっている姪である以上、そう簡単には納得できなかったようである。
「さて、今回のケースですが、『寄代』の幻想量は既に最大値でした。なって頂いた途端の出来事で、わたしにも予想外でした。」
つまり、幻想による侵食が既に多大な量になっていたわけである。
「そこで…魔法少女達をぶつけつつも…特異点、真一郎さんの力をお借りしようと思ったわけです。」
「特異点の力で、幻想率を一時的に0にする、かな?」
「はい。」
真一郎の問いに、素直にフィアッセは答える。その表情が、少々苦笑気味なのはしかたがあるまい。
「そもそも、その特異点というのは何よ?」
「すべてのバランスが通常とは著しく異なった存在。」
七瀬の問いに、今度はすぐさま答えるフィアッセ。が、相変わらず難しい言葉を使っている。
平たく言いかえよう。多分一番にあっている言葉は、化け物、という事になろう。もしくは、魔法使い。
「真一郎さんほどの特異点となれば…」
「この世界のバランスも容易に崩せるよ……」
「…自覚症状あり、ですか…」
フィアッセの言葉に、真一郎がさもなんでもないように言葉を繋ぐ。
最後の心配そうな言葉は、さくら、である。
「わたし程度では力を吸収することも出来ないみたいですね。まして、使いこなすことなども…」
呆れたように、もしくは心底感心したようにそう言うフィアッセ。
「……たぶんもう『外』だから…」
それに続いた真一郎の言葉は、今までで、一番訳が解らない言葉であった。
「?? 外?」
「ななせは知らない方がいいよ…関係ないから……」
「………今はそれで納得してあげるわよ…」
「ありがとう、ななせ。」

ナレーター:
少々羨ましい雰囲気を作っていた先輩と七瀬さん。
それでも一応、こういう事は聞いてくるのが、とっても七瀬さんですね。
「それで、種明かしはこれでおしまいなの?」
「最後にもうひとつ。あなたの存在…」
「わたし??」
まさかこう来るとは思っていなかったのでしょう。七瀬さんはびっくりしています。
が、先輩もわたしも、解っていたので特に驚くことはありません…
「前世の記憶を持ち、何者の力も使わずに、一時的にその身体を急成長させる…普通は出来ないこと、ですよね?」
「…まさか?」
「そのまさかです。あなたにも幻想が『憑いて』います。それ自身には害はなくても、引き寄せる力の強い幻想が…」
七瀬さん、驚愕のあまり呆け気味です。
「…それでわたしはどうなるの?」
「多分…どうにもならないかと…」
「えっ?」
その七瀬さんの問いに、フィアッセさんは煙に巻くような言葉を投げかけました。
そして、先輩に向かって、更に言葉を続けます。
「もうリミット時間です…相川さん…」
「承知した。一時的に幻想率を0に戻す……」
それが、今回の騒動の、終り、でした……………


戻ることなく次へ行け