月姫〜GR計画〜第9話『空の弓』 ――――ヨーロッパ南部――――
そこでシエルは泣く……

「ここも廃墟になってしまいました……」

シエルはそこで唇を強く噛む。
その表情は苦渋に彩られて……

「ナルバレック……これは本当に必要なんですね?」

シエルは自分を納得させるように右手のカバンを見てそう言った。






月姫GR計画


第9話『 空の弓









――半日前
砂埃の多い地方の教会。
そう、使命という名に魅せられて……
シエルはここに来た。

「ここのようですね」

何時もの黒い法衣を着込み眼鏡をかけたシエルがドアをノックする。

「はい……」

そこから顔を覗かせる小柄な老人
いや、中年。
ともかく、初老に近いと思われる中年程度の男性が出てくる。

「はじめまして
わたくし
 私
埋葬期間本部より派遣されたシエルと申します。
ジョン・ラクバニック様はいらっしゃいますか?」

シエルはさわやかに
そしてにこやかに男に話しかける。

「私の事です……
そうですか……
あなたが……
ともかく、お入りください。
お話はそこで……」

ドアの奥を紹介するようにジョン・ラクバニックは手を差しだす。

「では、お邪魔しますね」

シエルはその言葉通りに奥に入っていった。



奥にある客間だと思われる部屋に通される事数分
シエルに紅茶が差し出される。
差し出してきたのはここのシスターと思われる女性。

「どうぞ……」

「はい。ありがとうございます」

シエルはその紅茶にすぐ口をつけた。

「私はシエルと言う埋葬期間本部のものなんですけど
あなたのお名前は?」

「あ……
私ですか?
私は……ジム……ジム・ヨーデンフラグ」

「ジムさんですか……
てっきり、ジョンさんの娘さんだと思っちゃいましたよ」

あはは〜とシエルはにこやかに笑う。

「いえ……
ほら、戒律でその……性行為は……」

真っ赤になってうつむくジム。

(まぁ……たしかに、そうなんですけどね
それを忠実に守ってる所が凄いですねぇ……
だいたい、性行為の言葉だけで赤くなる年にはも見えませんし……)

「これは失礼しました。
ですが、戒律では婚姻によるお子さんは認められてますから
てっきり……」

「そ、そうですよね……」

沈黙……
そうして、数分。

「シエル様……
これが例のモノです……」

そう言ってジョンが何所からか取ってきたものを 差し出した。
それは何かの石だった
大きさは握り拳大くらい
何か長方形の紙が張ってある。

「これですか……」

シエルが顔をしかめる。

「ですが……
これはここにあるからこそです。
こう言ってはなんでしょうが
充分にお気を付けを……」

ジョンの顔が強張る
そけだのモノだと言わんばかりに……

「ええ。
こちらでも充分に気をつけます。
では、私はこれで」

そう言ってシエルが立ち上がる。

「この時間にですか?」

外は夕焼け空。
ジムが驚くのも無理はなかった。
ここには鉄道は無い。
と、言う事は単純に車か徒歩
しかし、車ではここの周りにある渓谷を突破出来ないのだ。

「ええ、一刻も早く
これを持ち帰るのが私の役目ですから」

シエルはにっこりと笑う。

「そうですか……
では、簡単にではありますが
食事をされて行って下さい。
暖かい物は旅の途中では食べ難いでしょうから」

「はい、お心使い
ありがたく頂戴します」

ドンドンドン
と、急に音がする。

「はて……
なんでしょうかね?
ちょっと見て来ます。ジム シエル様にお食事を」

「はい」

そう言って、二人はそれぞれの方向に向かい歩き出す。



――――――数分

「シエル様 お食事の用意が出来ましたが……」

「ありがとうございます。
ですが、ジョンさまは?」

「あれ? お戻りではありませんか?
たぶん一緒に食事になるとおもって人数分用意したのですが……」

「!」

シエルの表情に緊張が走る。
すぐさまジョンが向かった方にシエルは走り出す。

「シエルさま?」

「ジムさんはここに居て下さい!」

「は、はい!」

シエルの強い口調と緊張した表情にジムは短く返事する。

(まさか! まさか!)

ダン!
と、ドアを思いっきり開けるとそこは……







赤……










ただ真っ赤……













一面の赤
視界の全てはただの赤い色
すこし茶色が混じってる……
そして、臭う鼻に突き刺す悪臭
嫌だと思わせる匂い……
それは……
間違い無く……
血だった……

「ジョンさま!」

シエルは叫ぶ!
向こう側にはジョンの形
ただ、彼女が見たのは絶望的な何時もの風景では無く
印を結び
宿敵の吸血鬼と戦う
神父の姿。

「偉業に者よ!
我れが父と精霊の御名々がお前に祝福を与える。
その苦しみと悲しみはもう無い!
安心して逝けぇぇ!」

「ジョンさん……」

シエルは呆然と立ち尽くす。

(体のほとんどを食いつくされてるのに!
血が聖堂のほとんどに飛び散ってもいるのに!)
この人は!
「どうして!
そんな吸血鬼にまで祝福を与えようとするんです!」

シエルの心は何時しか声として出ていた……

そうして……
吸血鬼は塵になる……
光が吸血鬼を照らしながら……

「シエル様……
それが私達 聖職者ですよ」

その笑顔にシエルは泣いた。
ただ、泣き崩れた。

「うぅ……」

「おやおやどうしました?
シエル様……
せっかくご両親が美人に生んで下さったのですし
笑顔で居ないと……」

ジョンは笑いかける
そこに辛い事など無かったかのように

「はい……
そうですね……
笑わないと……」

「シエル様
お願いして良いでしょうか?」

「は はい……なんでしょう」

涙を人差し指で払いながらシエルはジョンに笑いかけようと
懸命に表情を作る。

「ジムを……
是非 埋葬期間まで……」

「え?!」

「ジムはちゃんと努力しました
あれがここに無い以上
もうここで終る子ではありませ……」

そこまで言った時だった。
ジョンの体が吹き飛んだ……

どうして……
こうも……
無常なのか……
シエルはただそれだけを思う……

……そして……

「吸血生物!!!」

シエルが叫ぶ!
怒気を大量に孕んで

「そりゃ、オレの事か?
姉ちゃん」

青年程度の年に見える男がドア共々ジョンを弾き飛ばしたのだ。

「私は……
貴方の用にはなれません……
ただ……この力で全てを滅ぼす!
それが、私に出来る救済です!」

言葉と共に袖から黒い長剣もどき
黒鍵を取り出す。

「おいおい
そんな事よりおれの兄弟を……」

その言葉は最後まで言えない
何故なら……
シエルが投げた黒鍵が相手の体を貫き……
それが燃えているから……

「アナタの来世こそ神に従いますよう……
Amen!」

炎は塵になる……
それは光になぞ照らされず……

奥のほうからドアが開く

(ジムさんが様子を見に来たんですかね?
まぁ、ジョン様と違って私は大きな音を立ててしまいましたからね)

でも……
それは……
違っていて……

現れたのは
ただの使徒
意識も無くただ主人の為に血を集める化物
それの側に居るのは
さっきまで見ていた
法衣……

「……お前もかぁ!」

シエルは叫ぶ
その自分の声に冷静さを取り戻しながら
相手に向かって駆け始める。

(馬鹿ですか?
私は!
吸血鬼が一体だけでの訳が無いでしょうに!)

自分の愚かさ加減に歯噛みする。

(今日ほど自分が惨めだと思ったことは……
あの時以来ですね……)

「我らが……」

シエルは涙を流しながら

「父と……」

さっきのジョンの真似をする

「精霊の……」

ジムだけは綺麗な形で塵にしたいと……

「御名々においてぇ!」

シエルはその2体に黒鍵を突き刺す。

「殺害の王子よ!」

黒鍵で動きを封じて

「今だけは我にその道を譲れ!」

なおも

「主が祝福を与えんが為に!」

そうして……
使徒 2体が……
塵に消えた……

「やっぱり……
私では駄目なんでしょうか……」

光は……

「せめて主の導きがあるようにと……」

ジムであったものを照らさない……

「私はぁ!!」

シエルはまたも泣く
誰も居ない
血まみれの聖堂で……


















街が燃える

全てを塵にする為に……




















「ごめんなさい……
ジョン様……
私は貴方の遺言を守れませんでした……
貴方の守ってきた街も守れませんでした……」

シエルは地に両手をつけてるように頭を下げる。
その眼鏡を涙でいっぱいにして……



続く







次回予告
全ての準備は調った。
大懐球はユーラシア大陸をゆっくりと横断する。
次回、月姫〜GR計画
第10話
「発動 大懐球作戦!」







後書き もはやジャイアント・ロボは元じゃ無い(笑)
     予告とも違うのは許して下さいm(_ _)m(ぺこぺこ)
     タブーと言われる死人が出たのはこう言う話なので勘弁して下さいm(_ _)m