一面の赤
視界の全てはただの赤い色
すこし茶色が混じってる……
そして、臭う鼻に突き刺す悪臭
嫌だと思わせる匂い……
それは……
間違い無く……
血だった……
「ジョンさま!」
シエルは叫ぶ!
向こう側にはジョンの形
ただ、彼女が見たのは絶望的な何時もの風景では無く
印を結び
宿敵の吸血鬼と戦う
神父の姿。
「偉業に者よ!
我れが父と精霊の御名々がお前に祝福を与える。
その苦しみと悲しみはもう無い!
安心して逝けぇぇ!」
「ジョンさん……」
シエルは呆然と立ち尽くす。
(体のほとんどを食いつくされてるのに!
血が聖堂のほとんどに飛び散ってもいるのに!)
この人は!
「どうして!
そんな吸血鬼にまで祝福を与えようとするんです!」
シエルの心は何時しか声として出ていた……
そうして……
吸血鬼は塵になる……
光が吸血鬼を照らしながら……
「シエル様……
それが私達 聖職者ですよ」
その笑顔にシエルは泣いた。
ただ、泣き崩れた。
「うぅ……」
「おやおやどうしました?
シエル様……
せっかくご両親が美人に生んで下さったのですし
笑顔で居ないと……」
ジョンは笑いかける
そこに辛い事など無かったかのように
「はい……
そうですね……
笑わないと……」
「シエル様
お願いして良いでしょうか?」
「は はい……なんでしょう」
涙を人差し指で払いながらシエルはジョンに笑いかけようと
懸命に表情を作る。
「ジムを……
是非 埋葬期間まで……」
「え?!」
「ジムはちゃんと努力しました
あれがここに無い以上
もうここで終る子ではありませ……」
そこまで言った時だった。
ジョンの体が吹き飛んだ……
どうして……
こうも……
無常なのか……
シエルはただそれだけを思う……
……そして……
「吸血生物!!!」
シエルが叫ぶ!
怒気を大量に孕んで
「そりゃ、オレの事か?
姉ちゃん」
青年程度の年に見える男がドア共々ジョンを弾き飛ばしたのだ。
「私は……
貴方の用にはなれません……
ただ……この力で全てを滅ぼす!
それが、私に出来る救済です!」
言葉と共に袖から黒い長剣もどき
黒鍵を取り出す。
「おいおい
そんな事よりおれの兄弟を……」
その言葉は最後まで言えない
何故なら……
シエルが投げた黒鍵が相手の体を貫き……
それが燃えているから……
「アナタの来世こそ神に従いますよう……
Amen!」
炎は塵になる……
それは光になぞ照らされず……
奥のほうからドアが開く
(ジムさんが様子を見に来たんですかね?
まぁ、ジョン様と違って私は大きな音を立ててしまいましたからね)
でも……
それは……
違っていて……
現れたのは
ただの使徒
意識も無くただ主人の為に血を集める化物
それの側に居るのは
さっきまで見ていた
法衣……
「……お前もかぁ!」
シエルは叫ぶ
その自分の声に冷静さを取り戻しながら
相手に向かって駆け始める。
(馬鹿ですか?
私は!
吸血鬼が一体だけでの訳が無いでしょうに!)
自分の愚かさ加減に歯噛みする。
(今日ほど自分が惨めだと思ったことは……
あの時以来ですね……)
「我らが……」
シエルは涙を流しながら
「父と……」
さっきのジョンの真似をする
「精霊の……」
ジムだけは綺麗な形で塵にしたいと……
「御名々においてぇ!」
シエルはその2体に黒鍵を突き刺す。
「殺害の王子よ!」
黒鍵で動きを封じて
「今だけは我にその道を譲れ!」
なおも
「主が祝福を与えんが為に!」
そうして……
使徒 2体が……
塵に消えた……
「やっぱり……
私では駄目なんでしょうか……」
光は……
「せめて主の導きがあるようにと……」
ジムであったものを照らさない……
「私はぁ!!」
シエルはまたも泣く
誰も居ない
血まみれの聖堂で……
街が燃える