プレゼント

第1章

 僅かに目覚め始めた重い頭に頬をパンって叩いて気合いを入れる。
晩秋の肌寒い空気が、躰を包み身震いした。
今日は日頃お世話になっている前川道場へ
出稽古(でげいこ)に行く日であった。
昨夜、夜なべして繕い物をしたせいで、少し寝不足であった。
箪笥(たんす)の片隅に眠っていた父の羽織を直しておきたいなって
思って、寝不足覚悟で頑張っていた。

・・・あともう少しでできるわ。剣心喜んでくれるかしら?・・・
・・・剣心には地味かも?・・・

お古なんてと思い、本当は新しい物を購入しようとしたけど、
金銭的に無理。
だからせめて父親より背丈の小柄な彼の為に手直しして、着てもらおうと
懸命に寝る間も惜しんで作業を進めた。

 稽古着に着替え、髪を上の方に紐で結ぶと次第に意識が鮮明になる。
顔を洗いに行く途中、味噌汁のいい匂いが漂ってきた。
剣心が*朝餉(あさげ)の用意をしてくれている。     *朝食の事
日頃から申し訳ないとは思っているのだけど、
実力が伴わない。
薫が作る料理は、珍味?(凄く不味い)と評判である。
台所の方から、剣心の声が聞こえてきた。

「おはよう。薫殿。今起こしに行こうと思っていた所でござる。
 朝餉の支度が出来たでござるよ」

「おはよう・・・剣心。じゃー顔洗ったらお茶入れるね。」

寝不足のせいでフラフラとする足取りで、洗面に向かう。
剣心は薫が少し元気のないのが気になっていた。
薫の部屋から夜中に行燈の灯りが漏れていたのも知っている。
でも、薫に問うのはなんとなく躊躇い、聞き出せずにいた。

薫は洗面で顔を洗い、鏡をみると腫れぼったい瞼が、
痛々しかった。

・・・剣心に心配かけちゃ駄目。えいっっ!・・・

気合い入れ直して、冷たい水でバシャバシャと顔を洗った。
幾分、瞼からは腫れがひけたとはいうもの、眠気は再びやってくる。

・・・朝餉の用意出来ないんだから、せめてお茶ぐらいいれないと・・・

薫は台所に行きお茶を入れた。
茶の間に行くと既にちゃぶ台には質素ではあるが、
色とりどりの季節のものが並んでいた。
菊の花と大根の酢の物。だし巻き卵、秋刀魚の甘辛煮。
お豆腐と葱のお味噌汁。茄子の浅漬け。
どれをとっても薫の好物である。
剣心は薫の躰を気遣い料理した。

「いただきます・・・」

二人は朝餉に手をつける。

箸の運びの悪い薫に

「口に合わなかったでござるか?それとも具合でも・・・?」

「えっ。何?」

深く考え事をしていた薫が、聞き返す。

・・・何か心配事でもあるのでござろうか?・・・

「先ほどから箸の運びが悪いが、どうしたでござる?」

剣心は薫の事が心配で、もう一度問うた。

「きっ気のせいよ・・・。何でもない。剣心は心配症なんだから・・・」

そういって慌てて食べ始めた。

・・・いつもの薫殿ならとっくに食べ終わっているはず。ここは一つ・・・

剣心は良い事?を思いついた。

「ごちそう様。じゃー行って来るね」

「ああ・・・いってらっしゃい。気をつけるでござるよ?」

「うん。行って来るね。夕方には戻るから。」

薫は竹刀と胴着を手に持ち、前川道場に向かった。

‐ 第1章 完 ‐



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